【なぜハワイは特撮ヒーローの聖地となったのか?】ハワイで戦う日本特撮ヒーロー達の歴史と未来とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
早いもので、8月も最終日となりました。
連日猛暑が続いておりますが、皆さまどうぞご自愛ください。
さて、今回のテーマは「ハワイ」です。
ハワイは太平洋のハワイ諸島に位置する、アメリカ50番目の州。
1964年の海外旅行自由化以降、たくさんの日本人観光客が訪れる大人気観光地として有名なハワイですが、皆さまは「ハワイ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?
無限にひろがる青い空と、ゆらめく海(オーシャン)を思い浮かべる方もいれば・・。
「カメハメハ~♪」の童謡でお馴染みの、カメハメハ大王も思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
どこか「陽気な南の島」のようなイメージも強く、訪れるたくさんの人々のハートをキャッチしてきたハワイですが、私達が暮らす日本とも非常に関係が深く、明治時代より日本人移民が流入して以降、現在にかけて日本食をはじめとする風俗習慣や神社仏閣等、数多くの日本文化が浸透してきました。
そんなハワイですが、浸透してきたのは日本の風俗習慣だけではありません。
ハワイにはこれまで、日本から数多くのマンガ、アニメ、ゲーム、特撮等、様々なコンテンツが上陸し、現地の人々の暮らしに溶け込んできただけでなく、時に政治の世界にも影響を与えたことさえありました。
新型コロナウイルスによるパンデミックを経た現在も、コンビニに行けばポケモンカードやハローキティのぬいぐるみが気軽に購入できる上、ショッピングセンターに行けば大量にガチャガチャの稼働台が置いてある光景も健在で、衰えるどころかどんどん拡大している印象さえあります。
私も幼少期から現在まで、日本とハワイの二カ国での生活を長く体験してきたので、ゴジラやポケモン等に限らず、「なぜこのキャラクターがここまで人気なの?」と、意外な日本のキャラクターがハワイで大衆的な人気を獲得している状況や、ハワイの『鬼滅の刃』ブームに触れながら、お店に並んでいるフィギュアのあまりの数に脱帽したりと、現地ならではの光景に遭遇することも多々ありました。
そこで今回はそんなハワイ州における日本のキャラクター、特にウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズ等をはじめとする「特撮ヒーロー」に焦点を当て、アメリカ50番目の州であるハワイと、日本が世界に誇る特撮ヒーローの間にあった知られざる交流の歴史について、少しだけ辿っていきたいと思います。
※本記事は「私、ヒーローものにくわしくないわ」あるいは「ハワイに行ったことがない」という皆様にも気軽に読んで頂けますよう、なるべく概要的にお話をしておりますので、お好きなものを片手に、ゆっくり本記事をお楽しみ頂けますと幸いです。
【ハワイの若者が特撮ソングでダンス♪ダンス♪】キカイダーがハワイで巻き起こした70年代特撮ヒーローブームとは?
「そもそも、どういった経緯でハワイに特撮ヒーローが入ってきたの?」という方も多いかと思います。そこで、簡単にその背景をお話しすると、大きな要因は「ハワイでの日本語専門チャンネルの開設」でした。
日系人の多いハワイでは1960年代より、州内各局にて日本のテレビ番組の長時間放送を希望する声が現地の日系人達から高まったことに伴い、1967年に海外で初の日本語テレビ局である「KIKU-TV」の放送が開始されました。
当テレビ局での放送開始にあたり、KIKU-TVは日本からのテレビ番組の調達を開始するようになりますが、その際に買い付けられたのが、1972年に日本で放送された株式会社東映(以降、東映)制作の特撮ヒーロー番組『人造人間キカイダー』でした。
『人造人間キカイダー』とは、仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズの原作者である漫画家・石ノ森章太郎先生が生み出したスーパーヒーロー。1972年7月から1973年5月まで、NET(現在のテレビ朝日)にて、30分番組として放送されました。
世界征服を企む悪の組織「ダーク」が送り込むロボットと、人間を守るキカイダーが戦う内容で展開され、キカイダーは人々を守るロボットでありながら、善悪を判別する装置(良心回路)を取り付けられたことにより、「何が良いことで何が悪いことか」の狭間に立つ悩めるヒーローでもありました。
本作が選出された背景として、総支配人のジョアン二宮氏によれば『人造人間キカイダー』の物語が内包していたヒーローの弱さや親しみが導入され、人間味のあるところが日系をはじめとするアジア系の多いハワイの視聴者にヒットするという確信があったのだとか。
そんな『キカイダー』がハワイへ輸入されたのは、日本での放送が終了した1973年のこと。当時、海外ドラマは吹き替えが主流であった中で、なんと日本で放送された本編に英語字幕をつける形で、日本語テレビ局のKIKU-TVで放送が開始されました。その結果、ジョアン二宮氏の「読み」のとおり、本作は大ブームを巻き起こしました。
KIKU-TV史上最高視聴率である24%を記録したほか、当時のショッピングセンターで開催されたサイン会には1万人が押しかけ、やむなく中止になった等、ハワイに爆発的に拡大していったこのキカイダーブームは、なんと特撮ヒーロー番組を観る年齢層ではない若者にも浸透していきます。ディスコにも「人造人間キカイダー」の主題歌「ゴーゴー・キカイダー」がかかって皆が踊り出す現象も発生しました。
このキカイダーのヒットに伴い、日本の各映像制作会社はそれに続かんと、自社の変身ヒーロー番組を次々にハワイへ輸出するようになりました。キカイダーを制作した東映は、『仮面ライダーV3』や『秘密戦隊ゴレンジャー』、『イナズマン』等をハワイで放映し、円谷プロは『ウルトラセブン』、東宝は『愛の戦士レインボーマン』等、数多くの日本の特撮ヒーロー番組がハワイで放送されるようになります。
しかしこれら強力なライバル達に負けず劣らず、圧倒的かつ州民的な支持を獲得し続けたのは、やはりキカイダーでした。
ハワイで大人気番組となった『人造人間キカイダー』ですが、放送終了後も現在まで再放送が何度も行なわれてきました。特に2001年11月にKIKU-TVで再放送された際はブームが再燃し、幼少期にキカイダーを観ていた30~40代の世代が親となり、子ども達と一緒にキカイダーを楽しむ動向は「ジェネレーション・キカイダー」と呼ばれ、現地で社会現象化しました。
【名誉市民に記念日制定!】キカイダーがハワイの政治に与えた大きな影響とは?
上述したとおり、もはや社会現象ともいえる爆発的ヒットを巻き起こしたキカイダーですが、この大ブームはハワイの政治の世界にも影響を与えました。アメリカではスパイダーマンを筆頭に架空のキャラクターが政治の世界と関わることが稀にありますが(例えば、『スパイダーマン』の新刊にオバマ前大統領が登場する等)、かつてのキカイダーも例外ではありませんでした。
まず、『人造人間キカイダー』及びその続編『キカイダー01』にて主人公を演じた俳優の伴大介氏(キカイダー:ジロー役)と池田駿介氏(キカイダー01:イチロー役)がハワイにて名誉市民に認定されました。「なぜヒーロー俳優が外国で名誉市民に?」、その最大の理由とされているのが、「キカイダー」を観て育った子ども達が道徳的に成長したことに対する評価であるとされています。つまり、外国の政治が日本の特撮ヒーロー番組を教育的見地から評価するという、極めて珍しい事例でした。
他にもハワイではキカイダーの記念日も制定されており、ハワイ州カエタノ知事により2002年より4月12日を「ジェネレーション・キカイダー・デイ」、マウイ市長により2007年から5月19日を「キカイダー・ブラザーズ・デイ」として制定される等、21世紀という新時代を迎えて以降も、ハワイでのキカイダーの存在感は健在だったのです。
【新世代のキカイダー登場!?】日本の特撮ヒーロー番組がハワイで歩む新たな未来とは?
ここまで述べてきた21世紀初頭から現在にかけて、ハワイでのキカイダーブームは隆盛と沈静を繰り返しながら今日に至ることになります。
アロハスタジアムではハワイ大学のマーチングバンドがキカイダーの主題歌を演奏する、着ぐるみショーや主演俳優のトークショーには大勢が集まるといったように、ハワイで暮らす人々の生活の中に世代を超えて浸透し、その人気を確固たるものにしてきたキカイダー。
私も子どもの時から現在まで、ハワイのキカイダーブームに触れることは度々ありました。現地でTシャツを買ってもらったり、人形がたくさん販売されていて驚いたりと様々ですが、その中でも近年、特に強烈な思い出だったのが、2014年10月にハワイで公開されたキカイダー新作映画の大ヒットでした。
これは2014年5月に、東映が制作したキカイダーシリーズの新作映画『キカイダー REBOOT』が日本で公開されたことに伴い、ハワイでも同年10月に本作が公開されたところ予想を上回る大ヒットで上映の延長が決定。さらに12月に本作のDVDが発売されればあっという間に売り切れてしまい翌月まで入荷待ちという、日本では考えられないような光景に遭遇し、現地でのキカイダー人気の強さと熱気、未来へ秘めた可能性を感じ取ったものです。
その後、新型コロナウイルスのパンデミックを経て、2023年1月にハワイ州における最後のキカイダーイベント『KIKAIDA FOREVER』(外部リンク)が開催されました。当イベントがハワイにおけるキカイダーイベントの一区切りと謳われてはいますが、新たな世代の前にキカイダーが復活する日も、そう遠くはないのかもしれませんー。
2024年現在-。本記事冒頭でも述べましたとおり、日本の人気アニメや漫画に登場するキャラクター達がハワイに浸透し、すっかり人々の生活の中にいます。
これに対し、日本の特撮ヒーロー番組や怪獣映画に登場するキャラクター達もハワイへ進出し、玩具やBlu-ray、コミックスといった商品販売のほか、個人が所有するスマートフォンや現地の映画館でも、日本の特撮作品は浸透し、ハワイで気軽に楽しめるような環境になりました。
私も先日里帰りして感じたのは、先述したような『キカイダー』をはじめとする昭和のヒーローだけでなく、平成仮面ライダーシリーズ等の作品もハワイに届いており、現地の店員さんと『カブトが好き』『ディケイドが好き』『ゴーカイジャーが好き』といった日常会話も気軽に出来るようになった等、コロナ前と比べても、自分の「好き」について熱く語れる機会が増えてきたなという印象でした(余談ですが、現地のレコード屋さんに行けば『仮面ライダークウガ』のBlu-rayが販売されていたり、ゲームショップに行けば「英雄勇像」等のハイクオリティフィギュアも置いてあった状況でした)。
少子化が叫ばれて久しい現在の我が国において、たくさんの特撮ヒーロー番組が生み出され、子ども達の多い海外市場へと輸出されている昨今ー。
コロナ禍を経た新時代、ハワイで浸透してきた日本の特撮ヒーロー達が、未来に向けてどんな進化を遂げていくのか、これからの展開が楽しみです。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(『人造人間キカイダー』を視聴するなら)
・東映特撮ファンクラブ(TTFC)(外部リンク)
(参考文献)
・大場吾郎、「テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で」、人文書院
・山下大樹・嶌田美智子(ノトーリアス)、「特撮ヒーローの常識 70年代篇」、双葉社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・勝野 宏史、研究最前線 ハワイの『キカイダー』ブーム : ファンダム研究の視点から、人間科学研究
・ジェフリー, A・S・モニーツ、多様な社会における多文化教育アプローチとしての多様な視点の尊重と涵養、教育学部論集 19
(本記事でご紹介したハワイ州オアフ島内 観光地アクセス)
・International Market Place
住所:2330 Kalakaua Avenue Honolulu HI 96815
電話番号:(808) 921-0536
Web:https://shopinternationalmarketplace.com/(外部リンク)
・Hawaii State Capital
住所:415 S. Beretania St., Honolulu
電話番号:(808)586-0178
Web:https://governor.hawaii.gov/(外部リンク)
・Japanese Cultural Center of Hawaiʻi
住所:2454 South Beretania Street Honolulu, HI 96826
メール:info@jcch.com
電話番号: 808-945-7633
Web:https://www.jcch.com/(外部リンク)
・Kualoa Ranch Hawaii
・住所:49-560 Kamehameha Hwy. Kaneohe, HI 96744
・TEL: (808) 237-7321
・URL:https://www.kualoa.jp/(外部リンク)
・Bishop Museum
住所:1525 Bernice St, Honolulu, HI 96817
メール:claudette@bishopmuseum.org
電話番号:808-847-3511
URL:https://www.bishopmuseum.org/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/(外部リンク)
・Aliiolani Hale
住所:417 King Street, Honolulu, Hawaï 96813
URL:https://historichawaii.org/2014/02/19/aliiolani-hale/(外部リンク)
WARD 16 THEATRES
住所:1044 Auahi St, Honolulu, HI 96814
TEL:+1 808-594-7044