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外国人への偏見を助長しかねない「○○人」連呼の犯罪報道――熊谷6人殺害事件

韓東賢日本映画大学教員(社会学)

今月14日から16日にかけて、埼玉県熊谷市で6人が相次いで殺害された事件の報道が連日続いている。マスメディアは、警察が身柄を確保した容疑者の男のことを、彼の国籍を取りあげ「○○人の男」「○○人容疑者」、または単に「○○人」などと呼び、とくに身柄が確保された当初は、多くが見出しや本文でそれを主語にして報じていた。

日本の犯罪報道では、容疑者や犯人の国籍が「日本以外」だった場合、その国籍がことさら強調される傾向が強い。だが、事件の背景と密接に関連した重要な付帯情報のひとつとして解説記事や調査報道において取りあげられるならまだしも、単純報道における単なる強調は、それが意図的であっても意図的でなくても、当該国やその国民、ひいては外国人全般に対する偏見の助長につながる恐れがある。これは、国連機関なども指摘する国際的なコンセンサスであると言えよう。

罪を犯した人物の民族・宗教的背景の強調、国連機関も憂慮

3月の国連人権理事会28会期に際して発表された、国連マイノリティ問題に関する特別報告者リタ・イザック氏による年次報告書には、メディアにおけるマイノリティに対するヘイトスピーチと憎悪扇動に関する考察が含まれている。

報告書は、「罪を犯した人物の民族的または宗教的背景の強調」をはじめとした「メディアにおける意図的または意図的ではないマイノリティ集団の否定的なステレオタイプ化は広範に及んでいる」と指摘、これらが「『他者』としての民族的または宗教的マイノリティの認識を定着させ得る上に、構造的な不利益を維持し得る」として、国家には差別を禁止する国内法の制定を、メディアに対しては個人や集団のステレオタイプ化を避けるための倫理規定と行動規範を採用すべきだなどと求めている。

人種差別撤廃条約の「人種差別の扇動」にあたる可能性

日本も1995年に加入した国連・人種差別撤廃条約は締約国に対し、「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動」が「法律で処罰すべき犯罪であることを宣言する」よう求めている(第4条a項)。マスメディアによる今回のような犯罪報道は、ここで指摘されている「人種差別の扇動」にあたる可能性がある。

だが、日本は加入時にこの項目を留保し、国内法の制定を拒み続けてきた。加入から20年、ようやく野党が提出した理念法としての人種差別撤廃法案が現在、参院法務委員会で審議中だが、与党が頑な姿勢を崩しておらず審議はストップしたままで、成立の見通しは立っていない。

「日本人逮捕とか言えば?何人って題名にしてるのがもう差別」

今回のケースは衝撃的な連続殺人事件だからか、その強調の度合いが激しいように見受けられた。おそらく「○○人」であることが、「ニュースバリュー」になるとみなされたのであろう(それが単なる無意識の慣習的なものだとしても)。事件発覚当初、ネットで検索したこの事件と関連するニュースのほぼすべての見出しに「○○人」が入っており、いささか異常にさえ感じられたほどだ。

実際、SNS上にはおそらく同じ在日○○人の若者であると思われるユーザーによる「ニュースで○○人○○人言ってて/○○人じゃなくてさ/名前で呼んだら?って思う/○○人だからなに?っておもうよ」「なんで○○人逮捕とか書くのwwwwww/だったら日本人逮捕とか言えばwwwww/なんか何人って題名にしてるのがもう差別w」といった書き込みも見受けられ、胸が痛んだ。これらの書き込みに、私も完全に同感だ。

多文化社会の最低限の基礎、差別禁止法さえ成立が困難な状況

この記事では批判しているような犯罪報道と同じ土俵に乗らないためにあえて国籍名を伏せたので、彼らが渡日することになった歴史的、社会的経緯については語らないが、それは日本政府や日本社会のあり方、その責任と無関係ではない。そして、このような人々も含めて成り立っている日本はすでに事実上の多文化社会だ。

にもかかわらずここには、こうした状況を直視した多文化主義的な理念も政策もなく、最低限の基礎とも言える差別禁止法もない。その「最低限」すら成立が困難な状況で、犯罪報道で容疑者を指す呼称として「○○人」が連呼される毎日。少なくともこうした側面で、日本が世界の「後進国」であるという自覚はした方がいい。

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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