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約40兆円ある見えない税負担:インフレ税を推計してみた

島澤諭関東学院大学経済学部教授
写真はイメージです(写真:アフロ)

日本のインフレはかつてほどの勢いを失ってきたものの、総務省統計局によれば、9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)(全国、総合)は、前年同月と比べて2.5%上昇しています。

インフレは、政府にとっては、税収が増えたり、政府の借金が実質的に軽くなるなど、とてもメリットがあります。

しかし、裏を返せば、国民の税負担が増え、国民の資産が目減りしていることを意味します。

こうしたインフレに伴う国民の負担増はインフレ税と呼ばれます。

ただし、インフレ税は、所得税や消費税のように、国会で決められているわけではありませんので、ある特定の決まった税率がある訳でもなく、いわば目に見えない税負担といえます。ちなみに、インフレ税は財政民主主義に反しますし、租税法律主義や、予算原則にも抵触します。

つまり、インフレ税は目に見えない税であるがゆえに、私たち国民には認識しにくく、であるからこそ、政府から見れば私たち国民に意識させることなく「税」を課すことができますから、ある意味、とても便利な「税」であるともいえます。

実際、徴税システムがしっかり整っていない開発途上国などでは、インフレ税は貴重な政府の収入確保の手段として活用されていますし、場合によっては、インフレの制御に失敗したりしています。

いま、内閣府「政府経済見通し(年央試算)」のインフレ率(消費者物価(総合)、GDPデフレーター)、同経済社会総合研究所「国民経済計算」、財務省「国及び地方の長期債務残高」、日本銀行「財務諸表等」を用いて、インフレ税を機械的に試算したところ、2024年度ではフローとストック全体でインフレ税約40兆円と推計されました。

図1 インフレ税(所得・消費等)((出典)筆者作成)
図1 インフレ税(所得・消費等)((出典)筆者作成)

図2 インフレ税(国債・現金等)((出典)筆者作成)
図2 インフレ税(国債・現金等)((出典)筆者作成)

消費税率(国・地方)1%あたりでは約3兆円の税収がありますから、インフレ税は消費税13%超に相当することになります。

歳出削減も増税も国民の拒否反応が強い中で、今までのようにバラマキを交えつつ歳出を増やし、かつ財政再建の体裁を整えるために税収増を求めるには、インフレ税を活用するほかなく、政府や日銀は今後もインフレ容認の姿勢を取り続けることになるでしょう。

しかし、現状約40兆円の追加負担がインフレ税によって生じているように、インフレによって私たちは知らず知らずのうちに増税されていることを忘れてはならないと思います。

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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