約40兆円ある見えない税負担:インフレ税を推計してみた
日本のインフレはかつてほどの勢いを失ってきたものの、総務省統計局によれば、9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)(全国、総合)は、前年同月と比べて2.5%上昇しています。
インフレは、政府にとっては、税収が増えたり、政府の借金が実質的に軽くなったりするなど、とてもメリットがあります。
インフレで税収が増える一つの理由は、例えば実質所得額は同じであったとしてもインフレによって名目所得額が上がると、それ以上に所得税額が上がってしまうからです(ブラケットクリープ)。
また、いま皆さんが1万円札を持っているとします。サンドイッチやコーヒー、プリンが入ったバスケットが1つ1000円とすると、10個買うことができますが、インフレで1つ2000円に値上がりすると半分の5個しか買えなくなります。お金の価値が減価し、実質購買力が低下したのです。このようにインフレはお金の実質価値を引き下げますが、同じことは名目額が固定されている債権にも当てはまります。国債は政府が発行する借用証書ですが、私たち国民から見れば債権です。インフレで名目額が固定されている債権の価値が減じるということは、政府の借金の価値が実質的に軽くなったということです。なお、同じことは銀行預金にも言えます。
このように、インフレが政府にメリットがあるという裏を返せば、国民の税負担が増え、国民の資産が目減りしていることを意味します。
こうしたインフレに伴う国民の負担増はインフレ税と呼ばれます。
ただし、インフレ税は、所得税や消費税のように、国会で決められているわけではありませんので、ある特定の決まった税率がある訳でもなく、いわば目に見えない税負担といえます。ちなみに、インフレ税は財政民主主義に反しますし、租税法律主義や、予算原則にも抵触します。
つまり、インフレ税は目に見えない税であるがゆえに、私たち国民には認識しにくく、であるからこそ、政府から見れば私たち国民に意識させることなく「税」を課すことができますから、ある意味、とても便利な「税」であるともいえます。
実際、徴税システムがしっかり整っていない開発途上国などでは、インフレ税は貴重な政府の収入確保の手段として活用されていますし、場合によっては、インフレの制御に失敗したりしています。
いま、内閣府「政府経済見通し(年央試算)」のインフレ率(消費者物価(総合)、GDPデフレーター)、同経済社会総合研究所「国民経済計算」、財務省「国及び地方の長期債務残高」、日本銀行「財務諸表等」を用いて、インフレ税を機械的に試算したところ、2024年度ではフローとストック全体でインフレ税約40兆円と推計されました。
消費税率(国・地方)1%あたりでは約3兆円の税収がありますから、インフレ税は消費税13%超に相当することになります。
歳出削減も増税も国民の拒否反応が強い中で、今までのようにバラマキを交えつつ歳出を増やし、かつ財政再建の体裁を整えるために税収増を求めるには、インフレ税を活用するほかなく、政府や日銀は今後もインフレ容認の姿勢を取り続けることになるでしょう。
しかし、現状約40兆円の追加負担がインフレ税によって生じているように、インフレによって私たちは知らず知らずのうちに増税されていることを忘れてはならないと思います。