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“白すぎる”オスカー:ウィル・スミスもボイコット宣言。視聴率、オスカーの“価値”への影響は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ウィル・スミスもオスカーをボイコット。波紋はさらに広がる。(写真:ロイター/アフロ)

演技部門候補者20人が2年連続で全員白人だったことに対する“白すぎるオスカー”論争が、さらに大きくなってきている。

スパイク・リーに続き、アメリカ時間21日(木)には、ウィル・スミスもアカデミー賞授賞式に出席しないつもりであることを、テレビのインタビューで表明した。妻ジェイダ・ピンケット=スミスは、すでにオスカーのボイコットを宣言していており、夫婦で話し合った結果ということだ。今回ノミネートされた役者たちはみんなすばらしいとしながらも、授賞式に出席して「現状で良いのだ」という態度を取ることに居心地の悪さを感じると説明。スミスは、最新作「Concussion」での演技が高く評価されており、主演男優部門にノミネートが期待されていたが、候補漏れしている。しかし、そのことは関係がないとし、「授賞式のテレビ中継を見る子供たちが、そこに自分たちのような人がまったくいないと感じることが問題なのだ」と主張した。

授賞式への出席を考え直しているのは、黒人だけにとどまらない。マイケル・ムーアは、アカデミーの会長シェリル・ブーン・アイザックや、プロデューサーのレギー・ハドリン、ホストのクリス・ロックに敬意を表しながらも、「スパイクやジェイダがやっていることに僕も名前を貸したい」とボイコットを宣言。「スポットライト 世紀のスクープ」で助演男優部門にノミネートされているマーク・ラファロも、一度、ボイコットへの参加を匂わせた(そのすぐ後に、『スポットライト〜』がテーマとする性的虐待の犠牲者をサポートするために出席することにしたと言い直している。)

連日のようにこの問題がメディアを賑わす中、ロックがホストを降板するかどうかにも、注目が集まっている。ロックは今のところ、何もコメントしていないが、タイリース・ギブソンは、現地時間20日(水、)「People」誌に対して、ロックは降板するべきだと語った。この問題について真剣に語りつつ、オスカーのホストという職業もキープするなどということは不可能だとし、「降板することで、ロックは自分の意見を示すことができるのだ」とコメントしている。同じ日に、50 Centも、「クリス、オスカーは、やらないでくれ。君は大事なんだよ。お願いだから、やらないでくれ」と、インスタグラムに投稿した。昨年10月にホストに決まり、準備を進めてきたロックが、授賞式まで5週間ちょっととなった今降板すれば、アカデミーは、とんでもない打撃を受ける。これまで一緒に準備をしてきたアカデミーの会長アイザックや、今年の授賞式のプロデューサーであるハドリンも黒人であるだけに、ロックとしては、板挟みの状態だろう。

一方で、黒人の業界人の間でも、「授賞式に呼ばれているのであれば、行って、存在を示すべきだ」という声もある。ピンケット=スミスが率先してボイコットを表明したのは、夫スミスが候補漏れしたせいだという皮肉な見方もあり、とくに、黒人女優ジャネット・ヒュバートがYouTubeに投稿した4分のビデオは、話題を集めた。そのビデオの中で、ヒューバートは、「あなたは気づいていないかもしれないけれど、世界ではいろいろな問題が起こっているのよ。人は死んでいっているし、飢えているし、生活費を払おうと必死になっている。なのに、あなたは俳優やらオスカーやらのことを言っている。(途中省略)そもそもあなたは、まさにそれらの人たちから、たくさんのお金をもらってきたのでしょう。それが、候補入りできなかったから、賞をもらえなかったからといって、その人たちをボイコットをするの?」と、ピンケット=スミスを容赦なく叩いている。

この動きに、マイノリティの視聴者がどのように反応するかは、不明だ。近年、オスカー授賞式の視聴率は下降気味で、昨年は2009年以来、最低の視聴率を記録した。スポンサーが最も重視する18歳から49歳の層に至っては、前年に比べて17%ダウンしている。今年のホストにロックを起用した目的のひとつは、若い視聴者にアピールすることだったが、視聴者がボイコットに賛同したり、あるいは、ロックがホストを続けることに黒人コミュニティが反感をもったりすることになれば、視聴率は確実に影響を受けるだろう。それだけではない。「オスカーは現実の世界と隔離された、白人の年寄りが、自分たちの中で勝手に選ぶ賞だ」というイメージが一般の間でついてしまうと、オスカーそのものの価値まで損なわれる危険がある。

スミスも言ったように、今年の候補者は、実際、みんなすばらしい演技をしている。それだけに、せっかく受賞しても、しらけた雰囲気がただようことになれば、その人たちにとって、フェアだとは言えない。問題の根は深く、複雑だ。根本的な解決策を出すには時間がかかるが、当面の打開策について、関係者は頭を悩ませていることだろう。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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