五輪エンブレムの組織内検討資料に他人の写真を使うのはどうなのか(追記あり)
五輪エンブレム問題、今になって急に組織委が「元々の佐野氏のデザインはベルギーの劇場ロゴに似ていなかった」と言い出して、混乱の度が増しています(参考記事)。審査プロセスの透明性を高めることは重要ですが、このタイミングでこれを言い出すことにどういう意味があるのでしょうか?
ベルギーの裁判は別に佐野氏の責任を追求する場ではなく、五輪エンブレムの使用の差し止めの可否を争う場です(被告は佐野氏ではなくIOCです)。実は佐野氏のデザインではありませんでしたと言ったところで、万一差し止めが認められた場合(ちなみに私見ではその可能性は低いと思っています)の責任の所在が、佐野氏からエンブレムの修正をした人々に移るだけの話です。
さて、上記の審査の過程を公表した会見において使用されたエンブレム展開例の写真(いわゆるカンプと呼ばれるイメージ写真だと思います)で他人のブログの写真が流用された疑惑が持ち上がっています(参考記事)。写真のほぼ全体をデッドコピー(ただし、元写真の(C)表記はトリミングでカット)して、エンブレムの画像を貼り付けていますので、著作権法の複製(解釈によっては翻案)にあたるのは確実でしょう。
【追記^2】すみません、twitterで指摘されましたがこの空港での展開例の写真は今回はじめて公表されたものではなく、エンブレム公式発表の時点で使われていたものでした。したがって、以降の社内検討で著作物を使う場合の議論は関係なかったことになります。(元写真の撮影者の許諾を得ていない限り)著作権侵害ということになるでしょう。以降の社内検討に関する議論は、今回の件を離れて、一般的に社内の検討で著作物を利用する場合のガイドとして読んでください。【追記^2終わり】
ブログ主に許可を得て使った可能性もありえなくはないですが、許可は取っていないという前提のもとで、この問題について法律的に検討してみます(もし、実は許可取ってましたということであれば申し訳ありません(ただいまブログ主にメールで確認中です))。
広く一般向けに使用する広報資料やパンフレットで他人の著作物を無断で使うことが、社会通念的にも著作権法的にも問題なのは言うまでもありません。しかし、組織内での検討用の資料として限られた人でのみ使う場合はどうなのでしょうか?
著作権法30条1項の私的使用目的複製の既定により、限られた範囲内での使用であれば問題なさそうにも思えます。
しかし、業務上の使用の場合は、たとえ限られた範囲内での使用であっても私的使用にはあたらない(つまり、30条1項の適用はない)というのが多数説です(反対説あり)。32条の「引用」と解釈するのも無理があります。
【追記】すみません、著作権30条の3(検討の過程における利用)の検討を忘れていましたので追加検討します。
ここでは、最終的に許諾を得ようとしていたかどうかが問題になりますが、今回のケースでは、そもそもカンプは公表を目的としたものではないこと、および、写真の(C)表記を消していることから考えるとどうなのかという気はします。
【追記終わり】
今回のケースに当てはめてみると(ブログ主の許可を得てない限り)カンプとしての組織内検討資料としての使用は著作権侵害の可能性が高く、記者会見での使用ではほぼ著作権侵害と言ってよいでしょう。訴訟になるよう重大ケースとは思えませんが、佐野氏および組織委における著作権管理の杜撰さを表すひとつの例ではあるでしょう。
実際上は、社内検討資料は仮でネットの写真を使っておいて、最終案をパンフレット等で広く公表するときに正規の写真(撮りおろし、または、ライセンス購入したもの)に差し替えるケースもあるのではと想像します(これも厳密に言えば著作権侵害の可能性が高いのですが社会通念的には許容され得るかもしれません)。今回は、本来公表を想定していなかったものを突然公表することになったので、誰も気がつかなかったのかもしれません(それはそれで杜撰なことに変わりはありません)。
さらに言えば、大手デザイン事務所はストックフォト提供企業とコーポレート契約を結んでいるものかと思っていましたが、そういうわけでもないのでしょうか?たとえば、ストックフォト大手のアフロのサイトを検索してみると、この展開例の素材として使えそうな空港の写真はいくつかあります。よほど経費をけちりたいのか、それとも、著作権に関する基本知識を欠いているということなんでしょうか?