気になる新人・LUV K RAFT 圧倒的なセンスを感じるバンドが目指すのは「鼻歌で歌われるもの」
最近気になっているのがLUV K RAFT(ラヴクラフト)という関西発の3人組バンド。たまたま「プレゼント」という曲を耳にして、YouTubeでミュージックビデオをチェックしたら、アニメーションが面白くてますます気になった。ボーカルKARENの声は、まるで少女のような繊細さを感じさせてくれる声質で、キュートさとどこか清涼感があって、でもしっかり“芯”が存在する。「プレゼント」はシンセとピアノが華やかなイントロが印象的で、サビもどこかせつなさを感じさせてくれるメロディが立っていて、一度聴いただけで覚えてしまう。
他の曲を聴いてみると、1曲1曲が本当に鮮やかな色彩を放ち、様々な音楽性を感じさせてくれ、メジャー感とマニアック感がいい塩梅で融合していて、新鮮でありどこか懐かしくもある。
メンバーはボーカルKAREN、ドラムKAZYA、ギターMasato Kitanoの3人組で、Kitanoはあのday after tomorrowのメンバーである。詞をKARENが、曲とアレンジをKitanoとKAZYAが手がけているが、メジャー感のあるサビはKitanoの手によるものだ。この3人がどこでどう出会い、LUV K RAFT結成に至ったのだろうか?
バンドでありクリエイター集団であり、自然発生的に生まれたLUV K RAFT
KAREN 元々ドラムのKAZYAと私がバンドをやっていて、そのバンドが解散してギターがいなくなってしまったので、Kitanoにお願いしました。
Kitano 元々関わっていたバンドではあったので、気持ち的にはお手伝い程度の感じだったのですが、メンバーというよりはお互いが力を貸したり借りたりという関係といったほうが正しいのかもしれません。なので、結成しました、さあ頑張るぞという感じではなかったんです。いつの間にか始まっていたという感じがはまるかもしれません。
「ハードロックがベースにあって、でもダンスミュージックも好きで、色々な音楽を取り込んでいきたい」(KAZYA)
――詞はKARENさんが書いて、曲をKitanoさんとKAZYAさんが書いているんですよね?
Kitano メインは僕が書いて、ちょっとトリッキーなものをKAZYAが書いていますが、全員音楽の趣味がバラバラなのでそれが出ていると思います。
――皆さんの音楽の趣味を教えて下さい。
KAZYA 僕はハードロックです。書いている曲がハードロックではできない部分もあって、どんどん色々なものを入れ込んでは行くのですが、でもベースにはハードロックがあります。
Kitano KAZYAはハードロック畑なのにダンスミュージックも好きで、DJプレイもやるしリミックスもやるので、幅が広いのか、狭いものがいくつもあるのかわからない面白いタイプですね。
――間口が広く感じる音楽は、3人それぞれの音楽性が出ている感じでもあるんでしょうか。KARENさんはどんな音楽が好きなんですか?
KAREN 洋楽ばかり聴いていました。パラモアとかノーダウトとかバンドの女性ボーカルものが好きで、ハードロックはダメです(笑)。KAZYAと出会ってハードロックを頑張って勉強のために聴くようにはしていますが、好きではないです(笑)。
Kitano 僕はプロフィールには、あれでも絞りに絞ってミーハーな音楽を載せていますが、筒美京平さんや来生たかおさんが曲を書いていた南野陽子さんも好きです(笑)。そういう方たちの作曲センスは勉強させていただきました。プロフィールには載せていませんが、洋楽で一番好きだったのは、日本で作られたイギリス人バンドG.I.オレンジ(‘85年日本デビュー)です(笑)。
――……時代を感じます。若い人は誰も知りません(笑)。他の二人と音楽の話し全然かみ合わないですよね(笑)
Kitano 3人で車の中で音楽を流す時も、僕が主導権を握って’80年代の洋楽を流すと二人とも「いいっすね~」って言ってくれますよ(笑)。
KAZYA これ絶対好きだろうっていうのを狙ってかけてくるじゃないですか(笑)
Kitano どメジャーなところを狙って、いわゆるシングル曲を(笑)
KAZYA いつもギターがガンガン鳴っている感じのものや、ドラムが迫力あるものとかを狙って流してくれるので、80’sでも違和感なく聴けます(笑)。色々聴いて取り込みたいです。
KAREN 80’sかっこいいです!新鮮です。新しいものです(笑)
――二人に気を遣わせています…。
3人の音楽性が色濃く出ているが、中心には必ず80'sっぽい売れ線のメロディが存在し、聴き手をひきつける
年齢的にも上で、“メロディが溢れている時代”=’80年代の洋楽と邦楽の影響を多分に受けているKitanoが書くメロディは、やはり“売れ線”。そこに“若い”二人の感性が乗ってきて、独特のサウンドが生まれる。
Kitano マニアックな部分狙ってるでしょ?と言われることもありますが、’80年代の売れ線しか聴いてこなかったやつは、やっぱり売れ線のもしか作れないと思います。もしかしたらそれが時代的には新しい感じに聴こえるのかもしれません。’80年代の曲は“ど”キャッチーですが、裏では難しいことをやっている感じのものが多く、今そういう音をみんなでワイワイ楽しく作っている感じです。どちからといえば二人の方がマニアックだったりします。特に新しい音楽に関しては二人から教えてもらって、聴かされる音楽は「確かにカッコいいけど、カッコいいって言ったら悔しいし、でもカッコいい」という感じで受け入れています(笑)。二人が書く曲もいいので、頑固な僕も認めざるを得ないくらいです。
「編集したものと生とではは温かみ、伝わり方が全然違う。だから生にこだわる」(KAREN)
3人は生の音を大切にしている。そこもKitanoが二人と音を作り始めてからビックリしたところだという。
Kitano 僕は今まで、とにかく新しい機材を使って、機材ありきの音作りだったのですが逆に彼らは機材よりも生音を大切にするんです。今は歌の直しも当たり前ですが、僕らの場合は全く直さないです。ドラムも全てエディットがないです。若い人たちのほうが作り込むスタイルかと思っていたら、そうではないんです。
KAZYA 過去には録った音のデータを全部エディットしていましたが、それを経て今は生の方がいいなと思い。
KAREN 編集したものと生のものは、温かみが違うというか、伝わり方が全然違うので、だったら時間をかけてエディットしなくても最初の、汚い声でもそれを使った方が届くんじゃないかなと思いました。
Kitano 原点回帰ですよね。そのやり方を若い人たちが提示してくれて、僕自身ももう一度このコ達と音楽を作りたいなと思ったきっかけになりました。だからライヴでも最近は同期は全くなしで生にこだわっています。CDはCD、ライヴでは再現性は求めていないです。
メジャー感とマニアック感、生音とエレクトリックなサウンド、その”塩梅”が抜群にいい
――3人が作り出す音は“塩梅”がいいんですよね。生音にこだわりつつ、エレクトリックな感じとかグランジっぽいものや色々な音が融合して、いい“塩梅”になっています。
Kitano メンバー各々が、それぞれコンセプトを持っているといった方が近いかもしれません。KARENならビジュアル面とか詞の世界観、ボーカリスリストとしての打ち出し方をきちんと持っているんです。そこに口出しをすると怒られるくらいで、ドラムのKAZYAはリミックスのやるのでその世界観とかをしっかり持っていて。
――それぞれが世界観をしっかりと持っていて、それを無理に一つにまとめようとするのではなく、それぞれのものが出ている感じでしょうか
Kitano そう見えるのだと思います。一概にそうですと言ってしまうことも、本当なのかなと自分達でも思うくらいに、とにかく“自然”と成立している感じです。僕も今までそういう経験はないですね。
――インディーズ時代のMUSIC VIDEOがどれも話題になりましたが、これはKARENさんのディレクションで。
Kitano 全部ひとりでやっていて、僕らは編集も観ないですし、完成したものしか観せてもらえないという。
KAZYA そうなんです、完成するまで絶対に観せてくれないです。
KAREN 観せたときの反応が楽しくて(笑)。全部独学で、イメージだけで作っています。アニメーションも書いています。
少女のような繊細さと、キュートどこか清涼感があって、でもしっかり“芯”が存在するKARENの声
デビュー前からそのMUSIC VIDEOのクオリティが話題になり、雑誌「CREA」の音楽ページで取り上げられたり、KARENのセンスと才能がLUV K RAFTのイメージのひとつになっているとともに、彼女の歌、声が看板になっている。その少女のような繊細さと、しっかりとした“芯”を感じさせてくれる声は、ありそうでない独特の肌触りだ。
Kitano ‘80年代に僕が聴いていた洋楽は、アイドルものが多くて、でも女性アーティストの声は“トゲ”があったというか、変わったアーティストが多かった気がします。それでたまたまKARENが歌っている音源を聴いた時に思ったのが「うわ、クランベリーズ('90年代に人気を集めたアイルランド出身のロックバンド)だ」と思いました。そのボーカルのドロレス・オリオーダンは、アイリッシュな感じもしつつ、シンディ・ローパー的な倍音もありつつ、初期のマドンナのような感じもして、それとKARENの声が似ていて、最近にはいない感じのタイプだと思います。
KAZYA 前のバンド時とは全く別物になっています。今は声に色々肉付けがされて、さらに幅広い曲を歌えるようになっていると思います。
「KARENに曲を渡しても絶対にその通りには歌わない。最後にセンスのいい色付けをして仕上げてくれる」(Kitano)
――KARENさんの声をよりクローズアップさせるような曲作りには…
Kitano なっていないです。彼女の声のイメージが、頭の中に刷り込まれているかもしれませんが、月並の言葉ですが彼女が歌えばLUV K RAFTになるんです。しかも、いつも曲を渡しても彼女はその通り歌わないという、今どき珍しいタイプです(笑)。どれだけオケを作り上げても、最後に色付けするのが彼女で、そういう素質があるのでトータル的にやはり彼女なんです。僕らムチャクチャだめ出しされます(笑)。
KAREN そのまま出すのが嫌なんです(笑)。メロディをもらった時に「カッコイイ!」と思うので、そのままやり返したいので(笑)、私が歌ったらもっとカッコよくなったって言わせたくて、無理やりにでも変えます。
Kitano 悔しいからこういうことは言いたくないのですが、やっぱりセンスがいいんでしょうね。
その音楽が徐々に広がっていき、注目を集め、4月20日に1stシングル「イミテーションゴールド」でデビューした。インディーズ時代の曲と比べてみると、とても同じバンドとは思えない振り幅の広さでビックリさせられる。とにかく多彩だ。しかもサポートメンバーには元THE BOOMのベーシスト・山川浩正が参加していて、KAZYAとの強力リズム隊が弾き出す音は迫力がある。
Kitano こちらは全然ビックリしていないんですけどね(笑)。彼らの時代とは違うのかもしれませんが、僕の時代のいわゆる名盤といわれるものって、結局自分でレンタルレコード屋さんに行って借りてきたレコードを録音した、120分のベストのカセットテープが名盤なんです。それを作りたいだけなんです。
――お二人はなんのことだかさっぱりわからいでしょ?(笑)
KAREN その話、めっちゃ聞かされました、「それが名盤やぞ」って(笑)。
――デビュー曲「イミテーション・ゴールド」の特典にはカセットテープが付いていますが、そういう理由からですか?
Kitano かっこいいだろうなというノリです(笑)。
KAREN 今までカセットテープを見た事がなかったので、かわいいです。
――KARENさんのおめがねにかなったんですね。「イミテーションゴールド」はデビュー曲用に新たに書いた曲ですか?
Kitano 特にデビュー曲用という訳ではなかったのですが、みんなでワイワイ色々なアイディアを出し合って、その中から生まれた曲のひとつです。
KAREN いつもKitanoとKAZYAが送ってくれる曲を聴いた瞬間、ポンとひとつのワードが頭の中に浮かんでくるんです。この曲はまず「イミテーションゴールド」という言葉が浮かんで、今、世の中は全てにおいて偽物っぽいものが多いなあと思っていて、それをテーマにシニカルな視線で書いてみました。詞は遊びながら作った方が楽しいので、煮詰まったらやめて、楽しい!って思っている時に一気に書きます。
――インディーズ時代の曲「プレゼント」もそうですが、KARENさんの言葉遊びの部分が、面白いリズムを生んでいるような気がします。カップリング「Discotheque」も面白い曲です。
Kitano 曲のストックは結構あるのですが「イミテーションゴールド」のカップリングはってなった時にハマるものがなくて、急きょ作りました。「Discotheque」はU2の「DISCOTHEQUE」にインスパイされて、この曲が収録された『POP』(‘97年)というアルバムを発売した時に、世界中の多くの人が酷評したんです。ボノがその時のインタビューで「若い奴らには任せられない」というようなことを言って、「Discotheque」という言葉はともするとダサくなる危険をはらんだ言葉で、僕らの「Discotheque」もダサくならないように、あの偉大なU2が出した気分を味わいたいと思いました。
「みんなが鼻歌でうたえるものを作っていきたい」(Kitano)
メジャーの王道を歩んできたKitanoというメロディメーカと、ハードロックが土台にあり、高い演奏力でバンドを引っ張りリミックスもできるドラマーKAZYAと、そして歌詞、ビジュアル面で抜群のセンスを発揮し、一度聴くと忘れられない声を持つKARENと、“役者揃い”のバンドがLUV K RAFTだ。その音楽はまさに変幻自在。3人がセンスが一見ひとつにまとまっているようで、実はそうではなく、それぞれのカラーが交わることなく色濃く出ている。でも聴き手の中でいい“塩梅”でひとつになる。だから変幻自在で、つかみどころがないという錯覚さえ起こしてしまうが、琴線に触れるメロディにしっかり心を掴まれる。デビュー曲「イミテーションゴールド」がまさにそうだ。マスタリングに、テイラー・スイフトなどを手がけるTom Coyneが参加しているというトピックスもあるが、一度聴くとそのサウンドとメロディとKARENの声が頭の中をループして、クセになる。
所属事務所社長の伊藤彰氏は彼らの音楽との出会いに衝撃を受けたという。「今まで培ってきたキャリアの中でも、彼らに当てはめるピースが想像できなくて、ノウハウが使えないと思いました。それくらい彼らの音楽は新鮮で衝撃的でした。あがってきた曲に対しては今まで肯定しかしていません。こちらから出すリクエストに対しても、考えているもの以上のものを軽々とあげてきます。その中の1曲が「イミテーションゴールド」です」と、その素質の高さに脱帽している。
彼らと彼らの音楽の事を、本人達のインタビューを交えながら様々なキーワードで紹介してきたが、LUV K RAFTが目指す音楽はKitanoの「誰がターゲットというわけではなく、みんなが鼻歌でうたえるものを作っていきたい」という言葉につきるのかもしれない。
<Profile>
KAREN(Vo),Masato Kitano(G)、KAZYA(Dr)の、形にこだわることなく様々なサウンドを表現し続ける、変幻自在の最新ロックバンド。バンドでありながらも様々な形でプロデュースワークもこなすクリエイター集団でもある。