ハンセン病をめぐる法律差別を撤廃せよ! 「グローバル・アピール2013」
日本財団のフォトグラファー、富永夏子さんは1枚の写真を取り出した。2009年12月、インド北部バラナシにあるハンセン病コロニーを訪れたときに撮影したインド人の家族の写真である。
「見た感じは普通の家族ですが、ハンセン病回復者の親、祖父母を持つ第2、第3世代です。子供を抱える女性は、とにかく仕事が欲しい、と訴えていました。ハンセン病のコロニーに住んでいるというだけで、仕事や教育のチャンスを奪われている人がたくさんいます」と富永さんは教えてくれた。
ハンセン病とはらい菌感染による肉芽腫性疾患で、知覚障害を伴うのが特徴だ。かつては不治の病とされたが、薬剤の投与により容易に軽快するようになった。
しかし、日本財団が調査したところ、ハンセン病患者の就職、結婚、選挙、公共交通機関の使用を規制する法律が世界各国に残っていることがわかったという。
24日、ロンドンで行われたハンセン病患者・回復者に対する社会的差別の撤廃を訴える「グローバル・アピール2013」の宣言式典で、世界保健機関(WHO)ハンセン病制圧特別大使で日本政府ハンセン病人権啓発大使を務める日本財団の笹川陽平会長は「ハンセン病は治るんですよ」と呼びかけた。
グローバル・アピールは2006年から世界の宗教界、経済界のリーダー、人権擁護団体の代表者らの賛同を得て毎年、「世界ハンセン病の日」(1月の最終日曜日)の前後に発表されている。今年は国際法曹協会(本部・ロンドン)及び世界40カ国46の法曹協会と賛同して、ハンセン病をめぐる差別的な法律・制度の廃止や改正を訴えた。
感染力が非常に弱く、現代医療により早期発見と治療で完治する病気になったハンセン病については、患者を隔離する医学的根拠がないにも関わらず、日本でも「らい予防法」が1996年に廃止されるまで患者隔離政策の根拠とされてきた。
日本財団の調査によると、シンガポールでは1977年感染症法でハンセン病を感染症の一つに挙げ、患者や感染が疑われる接触者を隔離できる上、1906年鉄道法にはハンセン病患者が鉄道で移動すれば罰せられると規定されている。
インドやネパールではハンセン病は正当な離婚理由となり、インドの地方ではハンセン病患者に村落集会や市議会選挙の被選挙権が認められていなかった。
居住や入国、移民の就労をめぐって米国や中国、ナミビア、フィリピン、台湾、アラブ首長国連邦(UAE)、グルジア、ハンガリー、ロシア、タイ、インド、マルタでハンセン病患者を差別する法律が存在していた。
一方、英国では2012年にハンセン病患者に対する入国制限を定めた入国ビザのガイドラインが改正されたばかり。バングラデシュでは2011年、特定の職業にハンセン病患者が就くのを禁ずる法律が廃止され、インドでもハンセン病患者に被選挙権を認めない法律を廃止した州もあった。
「グローバル・アピール2013」には少しずつだが、広がり始めたハンセン病をめぐる法律差別撤廃を後押しする狙いがある。
笹川会長は「法曹家でもハンセン病患者を差別する法律が残っていることを知っている人は少ない。今年のグローバル・アピールを通じて現状に対する理解が世界中に深まればと考えている。当該国の法曹家にはこうした法律をなくすよう努力してもらいたい」と話している。
日本財団によると、2000年以降、日本財団がWHOの制圧活動資金を支援、製薬会社ノバルティスがMDT(多剤併用療法=複数の薬剤を併用するハンセン病治療法)を無料配布するという体制が強化された。
その結果、1985年当時122カ国あったハンセン病未制圧国(人口1万人につき患者数が1人以上)は現在ではブラジルだけとなり、1600万人以上の患者が治癒したという。
(おわり)