井口監督だけじゃない!過去に4度も個人記録より投手の健康を優先させたドジャース指揮官の深慮
【8回まで完全試合を続けた佐々木朗希投手の快投】
4月10日のオリックス戦で、28年ぶりに史上最年少の20歳で完全試合を達成したロッテの佐々木朗希投手が、同17日の日本ハム戦に偉業後初の登板に臨み、再びファンの期待に応える快投を演じた。
0対0の同点のまま8回で降板したため2試合連続の完全試合達成は逃したものの、102球を投げ14奪三振を奪うとともに、交代するまで1人の走者も許すことはなかった。
本欄でも紹介しているように、長いMLBの歴史の中でも完全試合達成後の次回登板で無安打無失点を続けた投手は1人も存在しておらず、この2試合の佐々木投手の投球は、“アンタッチャブル(誰も到達できない)”なものとして日本のみならず米国でも語り継がれることになりそうだ。
【井口資仁監督の判断は的確だった?!】
8回終了時点で佐々木投手の球数は102球であり、9回も投げられる余力はあったはずだ。もちろん2試合連続の完全試合達成という夢のような偉業を狙わせるなら、続投場面だったかもしれない。
だが20歳の佐々木投手はプロ3年目の発展途上の投手であり、今シーズン初めて開幕からローテーションに入り、中6日で投げ続けるようになってあまりに日が浅い。シーズンも開幕して間もなく、チームも様々な角度から佐々木投手をモニタリングしている最中だ。
さらに佐々木投手にとって4試合連続で中6日登板したのも、2試合連続で100球以上を投げたのも初めての経験だった。しかも2試合続けて完全試合ペースを続けたことで、通常の登板以上に精神的負担もあっただろう。
あのまま9回も続投していたら、これまで自身最多だった107球を確実に上回っていたはずだ。また試合を観戦していて、個人的に8回の佐々木投手の球速はやや落ちており、疲労が出始めていたように見えていた。
すでに佐々木投手は、今シーズンのロッテが成功するための重要なピースになっているのは誰もが認めるところだろう。ならば佐々木投手がシーズン終盤になっても現在のような投球を続けられるように、今はチームとして彼をモニタリングしていくべき大切な時期だ。
今回の井口資仁監督の判断は、まさに英断といっていいはずだ。
【同じく完全ペースで途中交代したカーショー投手】
実はMLBでもつい先日、似たような降板劇があったのをご存知だろうか。
4月14日のツインズ戦で今シーズン初先発に臨んでいたドジャースのクレイトン・カーショー投手が、7回まで完全試合を演じながら降板させられたのだ。
カーショー投手といえば3度のサイヤング賞と1度のMVPを受賞しているMLBを代表する先発左腕投手で、2014年6月19日にノーヒットノーランを達成した経験もある。
7回を投げ終わった時点で球数は80球に留まっており、最低でもあと1イニングは投げられる可能性はあったように思われる。だがデーブ・ロバーツ監督の考えは、違ったものだった。
「6回を投げ終わった時点でクレイトンと話をして『もう少し80~85球ぐらいまで投げたい』ということだったので、それに納得できたので続投させた。個人的には短いスプリングトレーニングだったし、75球程度を想定していた。
最後はやや球威が落ちていたこともあり、80球に達していたので交代を決めた。自分が下す決定はすべて、選手たちの健康を考慮した上でのものだ」
【カーショー投手は左腕負傷から復帰したばかりだった】
このロバーツ監督の決断に、カーショー投手も納得した様子だ。
「(長期間続いた)ロックアウトを責めるべきだし、1月までボールを握ることができなかった自分を責めるべきだろう。
最後の1イニングはスライダーが酷かった。あれが交代時期だった」
カーショー投手が説明するように、今年のスプリングトレーニングはロックアウトの影響で短期間になり、オープン戦で先発投手が十分な球数を投げられず、誰もが準備不足の中でシーズン開幕を迎えていた。ダルビッシュ有投手が今シーズン初登板でノーヒットノーランを継続しながら6回で交代していたのも、そのためだ。
さらにカーショー投手は昨年のポストシーズン中に左腕を故障し、戦線離脱しており、昨オフはずっとリハビリを続けてきた中での今シーズン初登板だった。ロバーツ監督としても、慎重に対処するしかなかったのだ。
【過去にも偉業がかかった試合で交代させる決断を下したロバーツ監督】
今回のカーショー投手は特殊なケースだといえるが、ロバーツ監督は過去にも記録がかかった投手を途中で交代させる決断を下した例がある。
2016年4月8日のジャイアンツ戦でMLBデビューを飾っていたロス・ストリップリング投手が7.1回までノーヒットノーランを継続していたにもかかわらず、球数が100級に達していたことから交代を決断。
また同年9月10日のマーリンズ戦で、7回まで完全試合を続けていたリッチ・ヒル投手を、指のマメから復帰したばかりであまり球数を投げさせたくないというヒル投手の事情と、ポストシーズンを間近に控えたチーム事情を考慮して交代させている。
さらに2018年には、同シーズンから先発ローテーションに入ったばかりのウォーカー・ビューラー投手が5月6日のパドレス戦で6回までノーヒットノーランを継続していたが、93球という球数を考慮され、交代を決定している。
ロバーツ監督のこうした決断はすべて、個人的な記録ではなく選手やチームの事情を考慮した上でなされたものだ。
特にストリップリング投手とビューラー投手に対する判断は、まだMLBに昇格したばかりの若手投手であり、シーズン序盤の登板だったという点で、今回の佐々木投手と相通じるものがあるように思う。
選手たちの個人的な偉業も、ファンを喜ばせてくれる重要な要素だ。だが選手はその一瞬のために今後続くだろう長いキャリアを犠牲にすべきではないはずだ。
ロバーツ監督にしろ、井口監督にしろ、決して簡単な決断ではなかったと思うが、選手の将来を考慮した起用は、やはり賞賛されるべきではないだろうか。