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キャサリン英皇太子妃の家族写真「編集」のいったい何が問題なのか

木村正人在英国際ジャーナリスト
写真の「加工」を理由に配信を撤回されたキャサリン英皇太子妃の家族写真

■通信社が一斉に配信を撤回

[ロンドン発]1月の腹部手術から公務を離れている英王室のキャサリン皇太子妃(42)が子ども3人と一緒に撮った写真が「加工」され、6つの大手フォトエージェンシーや通信社が一斉に配信を撤回した問題で、キャサリン妃は「編集」を認め、謝罪した。一体、何が問題なのか。

写真の基本は真実を「記録」し「伝達」することだ。そこに「表現」という狙いが加えられる。スマートフォンや編集ソフト、人工知能(AI)の登場で、パーソナルな写真は真実の記録や伝達より、こう写っていてほしいという被写体の願望が優先されるようになった。

英王室から発表される王族の写真は本来、第三者であるメディアのフォトグラファーが撮影すべきだろう。それがウィリアム皇太子の時代になって、キャサリン妃本人が撮影したプライベートな写真がメディアに提供され、世界中に公開される機会が増えた。

■キャサリン妃の健康状態を巡る憶測

順風の時はスムーズだった。しかし昨年9月に即位したチャールズ国王のがん治療に加え、キャサリン妃の健康状態も復活祭(今年の学校休日は3月29日~4月12日)が終わるまで公務に復帰する可能性は低いという以外「順調に回復している」としか公式に発表されていない。

昨年のクリスマス礼拝以来、キャサリン妃は公の場から姿を消した。今年2月、ウィリアム皇太子が「プライベートな問題」で自身の名付け親でギリシャ最後の国王コンスタンティノス2世の追悼式を約45分前にドタキャンした時もキャサリン妃の健康状態を巡る憶測に火がついた。

米セレブニュースTMZが3月4日、実母の運転する車で移動するキャサリン妃の写真をクリスマス以来初めて公開した時、英メディアはウィリアム皇太子夫妻の気持ちを忖度して完全にスルーした。日本の記者クラブと同じで、英王室と王室担当記者の間にも馴れ合いがある。

■分断する英国社会

母の日にキャサリン妃が子ども3人に囲まれた写真を撮影して公開したのは陰謀論を一掃する狙いがあった。しかし欧州連合(EU)離脱、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争、西側と中露の対立、ドナルド・トランプ前米大統領復活、欧州の極右台頭で英国社会は分断する。

保守党のトバイアス・エルウッド前下院国防委員長宅前に約80人の親パレスチナ派が集まり「ジェノサイド(虐殺)を支持したお前は逃げ隠れできない」と脅した。ガザ即時停戦を支持しなかった野党・労働党のジョー・スティーブンズ下院議員の事務所も赤いペンキで塗り潰された。

ロンドン北部のユダヤ人コミュニティーを選挙区にする保守党のマイク・フリア下院議員は事務所が放火され「放火されて当然の人間だ」という脅しのメールを受け取った。同議員は万一に備えて公の場では防護ベストを着用し、次の総選挙への立候補を断念した。

■「正直が一番」と編集を認めたキャサリン妃

中国は帝国主義の遺物として英連邦王国の切り崩しを企んでいる。奴隷貿易という歴史の清算を求める声も旧植民地国から沸き起こる。そんな中「正直が一番」と写真の編集を認めたキャサリン妃だが、自分の健康状態を巡るひどい陰謀論に心を痛めているという。

筆者が新聞社に入社した40年前、デスクから「一昔前まで遺体の写真を家族に無断で撮影して生きているように修正して新聞に掲載していた」というとんでもない話を聞かされたことがある。それに比べてカジュアルさを出すため微調整したキャサリン妃は無邪気と言うしかない。

戦争や選挙を巡ってAIを使った捏造写真が出回る中、ウィリアム皇太子の秘密主義と情報管理は憶測や陰謀論の火に油を注いでいる。英王室もヘンリー公爵とメーガン夫人との対立を抱える。軽い気持ちで微調整したキャサリン妃は未熟かつ軽率だったと言えるだろう。

ウィリアム皇太子とキャサリン妃は編集前の写真公開には応じていない。そんな写真を編集して公開すべきではなかったのだ。戦争がすぐ目の前まで近づく分断した時代だからこそ、私たちはこう写っていてほしいという願望より真実の記録と伝達に立ち返る時だと思う。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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