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宇都宮爆発事件の犯罪心理学:高齢者の自殺と犯罪を防ぐために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■宇都宮爆発自殺事件

10月23日昼近く、宇都宮市の宇都宮城址公園付近で、爆発事件が発生しました。家と車が爆発炎上し、持ち主である元自衛官の男性(72)も爆発により死亡しました。「命を絶って償います」との遺書も発見され、警察は自殺と見ています。この爆発に巻き込まれ、3人の人が重軽傷を負いました。

男性が爆死した爆発物には、釘などが仕込まれており、殺傷能力を高めていたと思われます。警察は、殺人未遂の容疑で調べを行っています。

この日は、祭り行列が行われており、予定通り行列が進んでいれば、さらに多くの犠牲者が出た可能性もありました。

この男性が書いたと思われるネット上の書き込みによれば、娘が精神的な疾患を持ち、妻はある宗教団体に金を使い、自分は娘の治療と家族のために努力したものの、家庭裁判所は認めてくれず、むしろDVの疑いをかけられ、離婚し、財産も失ったとされています。

ネットの書き込みによれば、自分の正しさを主張しているものの、ほとんど注目されず、何か大きなことを起こす必要性まで言及されています。

■高齢者の自殺

日本では、毎年3万人前後の人が自殺しています。それでも、2012年から自殺者数は減少してきたのですが、高齢者の自殺は高止まりのまま毎年1万人が自殺しています。

自殺者の中で多くを占める中年男性の自殺は、失業率の低下と共に減少してきました。若者の自殺は、心理学的には本当は生きて幸福になりたいのに、その方法がわからないまま死を考えるとされています。

高齢者の自殺は、「覚悟の自殺」と言われています。この苦しみがあと数年続くのであれば、今ここで人生を終わらせようとする自殺です。

高齢者は、しばしば人々の記憶に残るような死に方をします。誕生日に誕生日に自殺する人もいれば、敬老の日に自殺する人も多くいます。思い出の地を自殺場所に選ぶ高齢者もいます。

■喪失体験と自殺

仕事を失い、家財産を失い、家族を失い、社会との絆を失っていく。様々な喪失体験が重なるとき、自殺の危険性が高まります。自殺は、孤独と絶望の病と言われています。

■拡大自殺

自殺するとき、意図的に周囲を巻き込む人もいます。一家無理心中も、動機は愛なのですが、拡大自殺の1つです。通り魔事件等も、自分も最低だが世の中も最低だと感じ、自分も死ぬが幸せそうな人々も道連れだと考えて実行される拡大自殺の場合もあります。

無差別殺人が行われるときには、加害者はしばしば歪んだ正義感を持っています。自分は正しく、悪い社会に天誅を下す発想です。命をかけて悪を正すといった考えを持ちます。

■爆発自殺、焼身自殺

派手な死に方であり、怖い死に方です。これらの自殺が、特に公の場で行われるとき、それはしばしば「抗議の自殺」です。

■個人的テロ?

政治思想や宗教思想があるわけではありません。しかし、彼独自の考えがあり、その考えを周囲にわかってもらいたい一心で、犯行に及ぶこともあります。

以前にあった新幹線車内での放火事件も、そのような背景があったとも考えられます。

「拡大自殺型犯罪」を防ぐために:新幹線放火事件報道から抜け落ちている自殺予防の観点と犯罪の心理学

自分だけが死ぬのではなく、周囲も巻き込むことになれば、いわゆる政治的なテロではないものの、人を傷つけることとによって主義主張を伝えようとする点では、テロと似ている心理とも言えるでしょう。

■高齢者犯罪の増加

高齢者の増加以上に、高齢者の犯罪が増加しています。たとえば万引きも、かつては少年の犯罪でしたが、いまや高齢者の犯罪です。高齢者犯罪増加の背景には、高齢者が活動的になっただけではなく、高齢者の孤独があると言われています。

お金があったとしても、徐々に減っていき、困ったことが起きても誰も助けてくれないだろうと感じると、お金を使いたくなくなり、万引きをする人もいます。

怒りや不安を共感してくれる人がいないと、乱暴な言動に出る人もいます。

■高齢者の乱暴行為

犯罪にまではならなくても、高齢者の暴力や暴言も増えていると言われています。変化の激しい世の中で、柔軟性を失った高齢者はストレスがたまります。自分のグチや説教を聞いてくれる人もいません。そんな高齢者から、時おり爆発的な言動が生まれてしまいます。

■まじめな人が

今回の男性も、社会的には立派な経歴の持ち主です。周囲の評判も良かったようです。しかし、一般にまじめな人がしばしば犯罪を犯してしまいます。

真面目なことは良いことですが、真面目なゆえに、適当に済ますことができないこともあります。自分が「悪」と思うものを、許せなくなることもあります。

真面目で意志の強い人が、すばらしいことを成し遂げますけれども、ひとたび方向を間違えると、大きな犯罪につながることもあるのでしょう。

■怒りとネットと個人的共感

今回の男性は、ネット上で不満や怒りを何度も表していました。

一般に、おしゃべりはストレス発散にとても良い方法です。仲間が集まり、グチをこぼすのは、怒りを静める気晴らし行動になります。しかし、社会心理学の研究によれば、単に怒りを表すだけでは、何度も思い返し表現することで、かえって怒りが高まってくとされています。

ネット上での発言も、しばしばエスカレートしていきます。しかも、ネット上で思ったような反応や共感が得られないと、孤独感が増し加わり、自分の意見の正しさを伝えたい欲求の高まりと共に、過激な方法まで考えてしまう人も出てきます。

リアルでもネット上でも、個人的に共感してくれ、一緒に語り合ってくれるような親密な仲間がいれば、怒りや攻撃の感情は、徐々に静まっていくでしょう。

■高齢者自殺、高齢者犯罪を防ぐために

自殺を考える高齢者の語ることは、なかなか説得力があります。高齢犯罪者の中には、失うものが何もなく、世間体も起訴されることも怖くない人がいます。防犯カメラの存在も、少年万引きの抑止力にはなるのですが、高齢者万引きのブレーキにはなりません。

そんな高齢者の自殺や犯罪を防ぐポイントは、孤独から守ることだと思います。

たとえば、高齢者万引きの防止のために、店員も中高年者を雇う方法があります。あるいは、若い店員でも高齢者と会話ができる人を雇う方法もあります。

声がけは、どの世代にとっても防犯になりますが、特に高齢者犯罪を防ぐのには効果的です。刑罰を重くする方法では、高齢者犯罪の防止は難しいでしょう。高齢者を孤独から守り、希望を与えること。高齢者にとって住みよい社会を作ることが、高齢者の自殺と犯罪を防ぐ方法の柱となるでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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