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働く場としての中国も魅力減

前屋毅フリージャーナリスト

■無断就職から不法就労へ

安い労働力を求めて日本から企業が中国へ出ていき、国内での空洞化が問題視されるようになって久しい。そうした動きにあわせて、現地の日本企業に勤めたり、培ってきた技術力を売りにして中国企業に務めたりと、日本人にとって働く場としても注目されていたのが中国だった。

しかし、その状況が大きく変わりつつあるようだ。「外国人の就業新規取得や更新、延長などがスムーズにいかなくなってきています」と中国で働く日本人ビジネスマンが教えてくれた。

そして今年7月1日には「中華人民共和国出入管理法」(新管理法)が発効となり、外国人の滞在、就労、出国などに関する管理が強化され、状況はますます厳しくなってきている。働く場としての中国の存在も、日本人にとっての魅力が激減していくことになりそうなのだ。

たとえば、新管理法では「不法就労」が厳しく罰せられることになっている。旧管理法でも「無断就職」として禁じられてはいたが、その定義は不明確で、処罰も比較的軽いものでしかなかった。それが新管理法では次のように明確な定義がされている。

1.規定に従い就職許可および就職関連の居留証明書を取得せずに中国内で営業を行った場合

2.就業許可で許可された範囲を超えて中国内で営業を行った場合

3.外国人留学生がアルバイト管理規定に違反し、規定された職場または時間の制限を超えて中国内で営業活動を行った場合

■日本人もいらない中国市場

新管理法での不法就労について、「外国人の就職に対する監督を強化する中国側の意図は、無断就職から不法就労という名称が厳しくなったことでも明らかです」と日本企業の中国進出をサポートしている中国の法律事務所は指摘する。解釈の仕方で、不法就労として中国における外国人の就業を規制する動きは強まってくる可能性があるわけだ。

まず考えられることを、法律事務所は次のように指摘する。「就労許可・就労ビザを取得したとしても、許可を得ず職場を変更して就労した場合、不法就労と見なされるため、じゅうぶんに留意する必要があります」

中国に転勤になり、その経験が買われて現地の日本企業や地元企業に転職するケースがこれまでもあったが、それが難しくなるわけだ。とりあえず中国の日本企業に勤め、さらに自分の能力を発揮できそうな企業に移ろうとしても難しくなる。

それまで「無断就職」が見つかっても働く本人は1000元以下の罰金だったが、「不法就労」が見つかれば5000~20000元となる。これまで紹介者には罰則はなかったが、新管理法では個人紹介者の場合、1人の紹介につき5000~50000元もの罰金を科せられる。それほどに厳しくなる。

そこまでして中国側が外国人の就労を規制しようとしているのは、中国人の就業を守ろうとしているからにほかならない。外国人を必要としないほど中国人の労働レベルが上がったともいえるが、経済成長の鈍化で減る就業機会を外国人に奪われないようにする措置ともいえる。

中国への日本からの輸出は急激に減ってきているが、労働力の輸出も拒まれてきている、ということだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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