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コロナ死者を2か月間受け入れ続けた葬祭業者が語る。「故人の尊厳を守ることを必死に考えた」

吉川美津子葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士
コロナ死者を受け入れた葬祭業者の挑戦        写真:想送庵カノン

6月某日、静まり返ったリビング風の小部屋の一角に白い棺が置かれ、セレモニーが行われた。開式とともにスタッフが祭壇に飾られているバラを一輪ずつ取り、棺の上に彩を添えていく。その作業が40分間黙々と行われた。

そこは葬儀式場にもかかわらず、家族や参列者は一人もいない。故人は「新型コロナウイルス感染症」で亡くなったのだった。

「家族に代わって何ができるか考え続けた。100%にすることはできないが、ゼロにはならない」

ゆっくりとそう語るのは葬儀貸し式場「想送庵カノン」を運営する三村麻子さん。こちらの式場では、東京都の借り上げ施設として約2カ月にわたり、新型コロナ感染症による遺体の受け入れを行ってきた。

東京都の担当部署の深慮と、東京都葬祭業協同組合からの発案により、コロナ死者のための「お別れ代行式」はこうして実施された。

「何もされない」状態で返されるコロナ死者

病院で亡くなった場合、身だしなみを整えた状態で葬祭業者にバトンタッチされるのだが、新型コロナで亡くなった方の遺体については、基本的には何もされない。厚生労働省では7月に入って「最期の場面にふさわしい容貌となるように、安納な範囲で配慮を」と整容についてガイドラインを出してはいるが、いまだに服の着せ替えもなく、髪の毛が整えられるわけでもなく、医療器具も付けたままの状態になってしまうケースさえある。

感染者の遺体は、全体をすっぽり覆う非透過性納体袋に収容・密閉、表面を消毒した後に棺に納められる。このような処置がされていれば特別な感染防止策は不要とされているものの、新型コロナウイルスはまだ解明されていない点が多く、慎重に対応せざるを得ないという理由で、棺の隙間をすべて目張りすることを受け入れ条件とする火葬場も少なくない。中には棺の周りをさらに幾重にもラッピングすることを受け入れ条件としている火葬場もある。そのためか、棺に納める際に保冷処置が必要であるにもかかわらず、ドライアイスを当てて防腐処置が施されていることも少ない。

家族は最期に立ち会うことはおろか、面会することも許されずに故人は火葬場へ向かうことになる。亡くなった事実を受け入れる手段は、死亡診断書等の書面と、手元に還される遺骨しかない。

消毒だけで数十万円請求する業者も

3月から4月にかけて、コロナ死者の受け入れについて現場は大変混乱していた。「ノウハウがない」「リスクがありすぎる」といった理由で「受け入れできない」と断る葬儀社や、故人の消毒だけで数十万円の請求をする業者もあったと聞く。

そんな中、コロナ死者数が多かった東京都では、ある施策をとっていた。

新型コロナウイルス感染症で亡くなった方、またその疑いのある方を受け入れる専用の施設を設けたのだ。

その白羽の矢が立ったのが「想送庵カノン」だった。

「世界中でも類をみない、手厚さでお見送りしたいと思った」と語る三村さん。こちらの施設は小型化している現代の葬儀事情に配慮し、故人と共に過ごす安置という場を大切にする葬儀施設として2019年にオープンした。セレモニーをするにしてもしないにしても、故人と家族がゆっくり時間と空間を共有して欲しいという思いからだ。

しかしコロナ関連死者もしくは疑いのある死者を受け入れる間は、一般の受け入れができないため、その空間を最大限生かすことはできない。そんな中でも「社会のお役に立てるように作った場所なので、東京都の打診は受け入れて当然だと思った」と三村さんは振り返る。

風評被害が想定される中であっても、事前に近隣住民には説明し、故人の受け入れのみ可、家族の面会は不可という形で合意を得たうえでのスタートとなった。

新型コロナウイルス感染症で亡くなった方は、基本的に家族との面会はかなわない。「葬儀式場内で面会が不可能であるなら、到着する前にお別れできる場を設けることはできないか」と、病院の駐車場など密にならない空間で家族との対面を試みたりもした。

病院から「想送庵カノン」に到着した棺は、区分けしたゾーンに入り、丁寧に消毒される。その後、安置室に入るのだが、こちらの場合は、倉庫のような殺風景な安置場所に棺が並べられるような光景はない。

テーブルと椅子が配置された広々とした空間に花や仏具などが配置され、可能な限り故人の尊厳を最大限配慮した形で安置されるのだ。

火葬までの間は、家族に代わってスタッフが線香を焚き、故人と向き合う時間を設けた。

半数以上は、結果的に陰性だった

「想送庵カノン」に到着する遺体の約6割は、陽性と確定された状態での受け入れではない。つまり「コロナ死かもしれない」という疑いの状態で入ってくる。PCR検査の結果が出るまで3~4日間預かることになるのだが、擬陽性の遺体も、陽性者と同じように身だしなみを整えられることもなく、非透過性納体袋に納められて運ばれてくる。

「陰性の場合は、ご家族の元に故人は戻ることができます。もし冷却しないで何もされていない状態で戻ったとしたらどう思うでしょう。東京都と契約を交わす時に、絶対に譲れなかったのは、ご遺体の尊厳を守るために陽性・擬陽性にかかわらず、全てのご遺体にドライアイス処置をすることでした。そして交わしたルールの範囲内で、故人の尊厳を守るために最大限できることを行ってきました」

コロナ死者受け入れノウハウを伝えていきたい

現在、「想送庵カノン」は東京都との契約が終了し、通常の葬儀の受け入れを行っている。裏を返せば、コロナ関連死者の専用受け入れ先がなくなったというわけだ。東京都の葬儀関連施設等を利用して受け入れることができれば得策なのだろうが、管轄が違うという理由で難しいのだそう。

「感染症に対する理解と適切な対応をしていれば、葬儀をすることも可能です。この数か月の間にノウハウは蓄積しましたので、関係者の方とはぜひ共有したい」と三村さん。

最近は「想送庵カノン」の取り組みを聞きつけた全国の葬儀社から問い合わせが多くなっているという。

「すぐ火葬してしまうから、誰にも会わないからどうでもいいというわけではない。保冷処置を施すことで状態を保つことができ尊厳を守ることもできる。私たちが適切に感染予防対策をすることで遺族に十分なお別れの場を提供することもできる。そういった取り組みをぜひ多くの葬祭業者に伝えていきたい」と、三村さんはこの数か月間の激闘を振り返りながら語った。

葬儀・お墓・終活コンサルタント/社会福祉士・介護福祉士

きっかわみつこ。約25年前より死の周辺や人生のエンディング関連の仕事に携わる。葬祭業者、仏壇墓石業者勤務を経て独立。終活&葬儀ビジネス研究所主宰。駿台トラベル&ホテル専門学校葬祭ビジネス学科運営、上智社会福祉専門学校介護福祉科非常勤講師などを歴任。終活・葬儀・お墓のコンサルティングや講演・セミナー等を行いながら、現役で福祉職としても従事。生と死の制度の隙間、業界の狭間を埋めていきたいと模索中。著書は「葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」「お墓の大問題」「死後離婚」など。生き方、逝き方、活き方をテーマに現場目線を大切にした終活・葬儀情報を発信。メディア出演実績500本以上あり

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