学校図書の閲覧制限「はだしのゲン」だから問題なのか
島根県の松江市教育委員会が漫画はだしのゲンを市内の小中学校学校図書室で教師の許可なく自由に閲覧できない閉架措置を求めた問題。報道、抗議、陳情が相次いでいますが、気になる事があります。それは抗議が「世界的な名作」「平和教育に有用」といったはだしのゲンが重要な作品であることを軸にしていることです。評価に関わらずある作品を特別扱いすることのほうが問題ではないでしょうか。
すれ違う閲覧制限の経緯
閉架措置の経緯については毎日新聞が比較的詳しく報道しています(初報は地元紙の山陰中央新報)。
発端は「間違った歴史認識を植え付ける」として学校図書室から撤去を求める陳情が市議会に出されたことです。ただ、この陳情は不採択となっています。その際に市教委が内容を確認したところ、性的な乱暴シーンが過激ということで独自の判断で行ったということのようです。
どのような陳情が行われたのか
陳情書の内容や理由、実際の様子は、高知市に在住するという男性が書くブログ「中島康治と高知市から日本を考える会」を読む事で把握できます。
撤去の理由は、はだしのゲンに、天皇陛下に対する侮辱、国歌に対しての間違った解釈、存在しない日本軍の蛮行が掲載されていることにより、子どもたちに間違った歴史認識を植え付けるため、です。また、一般の図書館に置く事はかまわないとしています。
また、「【西村斉】【中島康治】「はだしのゲン」閉架に至るまでの経過の実際」というタイトルの動画もニコニコに公開されており、対応する市教委の様子も分かります。
どの作品も特別扱いしてはいけない
ブログにある「特別に」というところは、閉架措置に抗議をする人たちも実は主張していることです。
もし、「世界的な名作」「平和教育に有用」されないような書籍や資料であったら閉架措置を認めるのでしょうか。はだしのゲンは、重要な作品であるから小中学生に手に取れるところに、と、偏向しているから教員の指導が必要、というのはいずれも特別な扱いを求めているのです。
図書館の自由に関する宣言(日本図書館協会より)には、国民の知る自由を保障するため「図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない」と書かれています。
確かにはだしのゲンの描写はインパクトがあります。ネット上にも「トラウマになった」「夜眠れなかった」といったという意見が出ています。これまでの報道で見る範囲では、小中学生に配慮した性的、暴力的表現を見直すとしても、はだしのゲンだけが対象になった理由が不可解ですし、基準も不透明で、特別扱いがされているように見えます。
判断の経緯を明らかに
広島に本社を置く中国新聞は陳情への配慮を疑う記事を出しています。
市教委は否定していますし、推測の範囲を出ませんが、図書館の自由に関する宣言には「個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。」という項目もあります。市教委は判断の経緯については説明が必要でしょうし、メディアもはだしのゲンの重要性ではなく経緯の解明に力を入れるべきではないでしょうか。