「ニュースを見るのが嫌」38%のユーザーが伝えたい、その切実な本音とは?
「ニュースを意識的に見ないようにしている」世界の38%のユーザーが語る、その切実な本音とは――。
英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が6月15日に発表した「デジタル・ニュース・レポート2022」は、多くのネットユーザーが、意識的にニュースを見ることを「避けている」実態を明らかにした。
ロシアによるウクライナ侵攻、なお続く新型コロナ禍など、社会にとってのニュースの重要性は増している。
だがその一方で、ニュースを見たくない、というユーザーが年々増加していることが、調査から明らかになっている。
ニュースは嫌われている。その理由とは?
●選択的ニュース回避
6月15日に発表された「デジタル・ニュース・レポート2022」で、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所上席研究員、ニック・ニューマン氏はそう指摘する。調査は2022年の1月末から2月初めにかけて、46カ国で9万3,000人以上を対象に実施した。
「レポート」の中で、「ニュースを意識的に避けている」との回答は、5年前の2017年には平均29%だったが、2019年に33%、そして今回の2022年の調査では38%となっている。
この調査結果は国によっても濃淡があり、最も多かったブラジル(54%)では2017年(27%)と比べて倍増、英国(46%)でも2017年(24%)比で同様の傾向が見られた。このほか、米国(42%)、アイルランド(41%)、オーストラリア(41%)が40%を上回っていた。
日本は14%と少ないが、2017年(6%)と比べると倍増以上となっている。
その理由は何か。
最も多かったのは、「政治やコロナの話題が多すぎる」(43%)だ。次いで「ニュースを見ると気分が落ち込む」(36%)、「大量のニュースに疲れる」(29%)、「ニュースは信頼できない・偏向している」(29%)、「論争に関わりたくない」(17%)、「自分にできることは何もないから」(16%)、「時間がない」(14%)、そして「難しすぎて理解できない」(8%)。
今回の調査は、ロシアによるウクライナ侵攻以前に行われていたが、侵攻後の2022年3月末から4月初めに5カ国で「選択的ニュース回避」の追加調査を行ったところ、英国は46%で変化がなかったものの、ドイツ(29%→36%)、ポーランド(41%→47%)、米国(42%→46%)、ブラジル(54%→55%)で増加が見られたという。
●ニュースへの関心と信頼
「選択的ニュース回避」の理由には、年代によっても濃淡がある。それが顕著なのが、全体の割合では8%の「難しすぎて理解できない」だ。
35歳未満と35歳以上の年代で比較したところ、最も違いの大きかったオーストラリアでは16%と4%。さらにブラジル(15%と6%)、米国(15%と5%)など、イタリア(いずれも6%)を除く11カ国で、若年層による「難しすぎて理解できない」との回答が、それより上の年代を大きく上回った。日本でも11%と7%という結果だった。
「選択的ニュース回避」だけではなく、そもそもメディアに接触しない「切断された(disconnected)」人々もいる。
米国では、その割合は2013年の3%から2022年には15%に増加。同じ15%の日本、さらに英国(9%)、フランス(8%)、オーストラリア(8%)でも一定の割合を占めたという。
ニュースへの関心も、低下している。
ニュースに「非常に(very)」「極めて(extremely)」関心がある、との回答は、2022年には47%と半数を割り込んだ。2015年には67%と3分の2以上を占めていた。
その変動には国によるばらつきはあり、関心の低下が最も大きいアルゼンチンは2017年の77%から48%に急落。以下、いずれも2015年との比較で、ブラジル(82%→57%)、スペイン(85%→55%)、英国(70%→43%)、米国(67%→47%)などの低下が著しい。
これに対して、フィンランド(2015年64%→2022年67%)のように関心が上昇している国があるほか、オランダ(2015年57%→2022年55%)、スイス(2016年59%→2022年50%)、スウェーデン(2016年56%→2022年51%)のように関心の低下が小幅にとどまっている国々もある。
フィンランド、スウェーデン、オランダなどは、メディアリテラシーが高い国々としても知られている。
●ニュースへの信頼
ニュースに対する信頼度は46カ国平均で42%。コロナ禍でのニュース需要の高まりがあった2021年の44%からやや低下したという。
信頼度が最も高いフィンランドでは、2020年の56%から2021年の65%、さらに2022年には69%と上昇傾向にある。
これに対して、ドイツでは2020年の45%から、2021年には53%まで上昇したが、2021年には50%へと下げている。一方、米国では2020年、2021年とも29%と変わらず、2022年には26%へと低下した。
調査対象46カ国の中で、信頼度が上昇したのはフィンランドを含む7カ国のみ。日本もその一つで、2021年42%から2022年には44%となった。
ニューマン氏は、フィンランドのようなニュースの信頼度の高い国では、ニュースへの関心も高く、「選択的ニュース回避」は低い傾向があるのに対して、米国や英国(2022年34%)のような国では、ニュースへの関心低下と「選択的ニュース回避」が高い傾向が見られる、と指摘している。
●ソーシャルメディアの変化
ソーシャルメディア経由でのニュース接触の傾向にも変化が見られる。
欧米と日本、オーストラリア、ブラジルの12カ国調査では、2014年以来、ニュース接触のトップはフェイスブックだ。だが、その割合は2016年の42%をピークに右肩下がりとなり、2022年には30%にまで低下している。その一方で、同じメタ傘下のインスタグラムは2014年の2%から2022年には12%に、ティックトックも2020年1%から2022年に4%へと伸びている。
ニューマン氏は、若年層のソーシャルメディア利用の変化が、この傾向を後押ししている、という。
英国の18歳から24歳のソーシャルメディア利用を2014年から2022年までの経年で見ると、フェイスブック78%から51%へと急落している一方、インスタグラムが20%から68%、ワッツアップも17%から62%へと急増し、2019年から調査データがあるティックトックも4%から32%へと伸びている。
●サブスクリプションの現状
ニュースメディアを支える収入の柱は、購読料と広告だ。
デジタル課金(サブスクリプション)について、ニューマン氏は「大部分は、少数の大手ナショナルブランドに限られている。これまでに報告したような『勝者支配』の力学はさらに強まっている」と述べる。
オンラインニュースの課金ユーザーは、20カ国の平均で17%。
ノルウェー(41%)、スウェーデン(33%)が突出しているほかは、フィンランド、米国、ベルギー(いずれも19%)などほぼ10%台だ。日本は10%で英国(9%)に次ぐ低普及率にとどまっている。
課金ユーザーの各国の平均年齢は47歳だ。課金ユーザーに占める30歳未満の割合は、最も多いオランダで34%、米国で17%、日本では13%、最も少ない英国で8%。
ここでも若年層への対応が課題となっている。
●ジャーナリストの最重要テーマ
メディアサイト「ポインター」などへのコメントで、ニューマン氏はそう指摘している。
それが顕著に出ているのが、やはり若年層だ。
レポートでは、35歳未満と35歳以上での、関心のあるニュースジャンルのギャップについても調査している。
それによると、35歳未満がより高い関心を持っているのが「エンターテインメントとセレブリティのニュース」(35歳以上との差がプラス5ポイント)、「教育ニュース」(同プラス4ポイント)だったのに対し、関心が低かったのは「コロナ関連のニュース」(同マイナス15ポイント)、「政治ニュース」「国際ニュース」(同マイナス17ポイント)、「ローカルニュース」(同マイナス19ポイント)だった。
ニューマン氏は「ポインター」の取材に対し、ニュースへの関心低下やニュース回避、特に若年層への対応として、こう提言している。
ニュースは嫌われている。若年層の動きを把握しながら、改善策の一つひとつを、丁寧に取り組めるか。
(※2022年6月17日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)