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ドイツの「祝婚スープ」、込める思いは「祝婚歌」と同じ!

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

昨日いつものようにNHKのニュースウォッチ9を見ていたところ、はじめて「祝婚歌」を耳にした。その作者である詩人の吉野弘さんが今月なくなったそうだ。

「二人がむつまじくいるためには愚かでいるほうがいい、立派過ぎないほうがいい、・・・」と新婚カップルへ向けた詩です。

そこで閃いたのがドイツの「祝婚スープ」。偶然、その前日に筆者のブログでドイツの「ウェディングスープ」について記した文を一部修正し、心もおなかも温まるドイツの「祝婚スープ(ウェディングスープ-Hochzeitssuppe)」を紹介します。

余談になりますが、欧州ではNHK Cosmo Media Europe というJSTV日本語衛生放送局(英国)があります。視聴料金を支払い、専用のデコーダーがあれば視聴可能です。

前出のニュースウォッチ9(同時放送)をはじめ、一部民放のTV番組も放映されています。

末永くお幸せに!新婚カップルに捧げる恋味(濃い味)のスープ

新婚に捧げるウェディングスープ。筆者撮影
新婚に捧げるウェディングスープ。筆者撮影

人生の門出を祝う新婚カップルの挙式も無事終了、さあ披露宴の幕開きだ。

厳粛な結婚式のあとの楽しみは、やっぱり美味しいものを食べること。

その披露宴で最初に供されたのがこのウェディングスープだった。

新夫婦の愛情がいつまでも続くように、幸せな生活を過ごして欲しいという

思いを込めてじっくり時間をかけて作った。

肉、野菜そして愛情もたっぷり入ったスープ

ウェディングスープは、澄んだ肉ベースのスープに、にんじん、カリフラワー、

長ネギ、白アスパラガス、グリースノッケルン*、そして牛肉や鶏肉の

ミニハンバーグを入れて煮込む。

具がたっぷりで一口食べると濃厚なウマミが口中に広がる一品。

セロリを入れたり、ファンクーヘンの細切りを入れたりと、地方により具も様々だが、

「新婚カップルお幸せに!」という祈りを込めたのは全国共通だった。

自給自足の生活を強いられていたその昔、牛や豚、鶏など家畜を

各家庭で飼っていた。

父親は愛娘の結婚式に家畜を屠殺して、自給自足の野菜や肉を

ふんだんに使った料理を結婚式のゲストに振舞うのが慣わしだったとか。

披露宴で最初に供されたがウェディングスープという。

スープは披露宴の前日から仕込んだ。新郎新婦の両親は、

親戚や隣人の助けを得て、宴会料理の仕込みにおおわらわ。

ウェディングスープは、メインで供されるヒレ肉や

もも肉以外の部位をことこととじっくり煮込み、味を出す。

その後、野菜を入れてさらに煮込むと、肉のエキスと野菜のエッセンスが

たっぷり溶け出したスープの出来上がり。

  • グリースノッケルンは、セモリナ粒、ミルク、卵、バターで作ったふんわりとした団子でスープによく使われる。

花嫁の門出に向けた父親の思いを集結

かって、牛肉と鶏は富の象徴だった。

花嫁の父親は、愛娘の門出に盛大な披露宴を開き、

豪華な料理で客をもてなしたいと大量の家畜を屠殺した。

普段は質素な食生活を強いられていた村民にとって、

披露宴は美味しい料理にありつける特別な日でもあった。

披露宴は、言うまでもなく盛大に行われ、花嫁を持つ父親にとっては、

それこそ大きな経済的負担となった。

借金をしてでも娘のために豪華な披露宴を開きたいと思う親心は、

今も昔も変わらないようだ。

村を挙げて祝う披露宴は2~3日続き、屋外でダンスに興じたり、食したりが一般的。

そのため、当時の結婚式は天候の安定な5月6月ごろに開催された。

この時期は新野菜の収穫も豊富で、客に旬の食材を用いた美味しい料理を

振舞うのに最適な時期だったことも背景にある。

俗に言われる「ジューンブライド」もこれに由来しているとか。

さらに、この時期はドイツ人が大好きな白アスパラガスの収穫シーズン。

高級野菜として愛されるアスパラガスも具に入れて、特別なスープとして作られた

ウェディングスープは結婚式になくてはならない一品だった。

ちなみに白アスパラガスはスープとは別にゆでて、このゆで汁もスープに入れたという。スープの具に用いるアスパラガスは、やわらかくて味の凝縮した頭の部分だけを使った。

名前の由来には、イタリア語のEine minestra maritataに由来しているとか。こちらも意味はウェディングスープ。

しかし、イタリアでは結婚式にこのスープは登場せず、普段食する単なる肉と野菜のスープだったという説もあるようだ。

恋をしているスープ?

ドイツでは塩味の強い料理が出されると、「コックは恋してる!」と言います。

つまり、コックは恋人のことが頭から離れず、味付けに注意を払うこともできないほど気もそぞろになっていて、味が濃くなったという訳だ。 

ところが、しょっぱめのウェディングスープにはちょっと違う理由が。

それは、「塩分を多めに摂取し、健やかな身体で結婚生活を送り、健康な子宝に恵まれるように」という思いが込められていたとか。

新郎は食事が始まる前にキッチンへ出向き、自らスープの塩加減を見るのが慣わしだった。

嫉妬やねたみを持った隣人や友人が料理を手伝っていたとしたら、チャンスだ!とその思いを味付けに入れ込んでしまったら、美味しい料理を期待している客をがっかりさせ、披露宴は台無し。

そんなアクシデントを防ぐためにも、新郎は、

「どうか美味しい料理を作ってください!」

キッチンで手伝う人達へ感謝を込めて、大枚をはたく習慣が定着していたという。 

スープでカラダを温めて豪華な料理を楽しむ

新婚カップルは、一皿のスープを二人で食すのが伝統的な食べ方。

これからの人生を二人で歩む共同作業の始まりというところだろう。

また、最初にスープにスプーンを入れた人が、その後夫婦の主導権を握ることになると言う決まりもあったらしい。

スープを最初に食するのには、合理的な理由もあるようだ。カラダが暖まり、その後にいただく豪華な料理も胃腸に負担がかかりにくくなるからという。

そのため、現在は、結婚式のみならず、祝い事の席でもよく供される。

近年は、自宅で屠殺という風習もなくなったが、インスタントのウェディングスープも出回っており、手軽に作れるようになった。結婚記念日には、「祝婚スープ」を食し、当時の思い出を語り合うカップルも多いようです。

最後になりましたが、「祝婚歌」についてのニュースを見逃した方は、以下からどうぞ。動画も視聴できます。

世代超え愛される「祝婚歌」

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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