障害児者の“きょうだい(兄弟姉妹)”の声を届ける!弁護士がゼロから飛び込んだロビイング。
今回は市民アドボカシー連盟の正会員で、弁護士の藤木 和子さんより、障害児者の“きょうだい(兄弟姉妹)”の活動やロビイングについてお話を伺いました。
明智 では、まず自己紹介をお願いします。
藤木 「障害児者のきょうだい」の立場で活動しております弁護士の藤木 和子と申します。3歳下の聞こえない弟と一緒に育ちました。弁護士としては家族、聴覚障害を専門としており、優生保護法弁護団の一員としても活動しています。
障害児者のきょうだいとしては10年程前から活動してきましたが、広い意味でのアドボカシー・ロビイングに本格的に取り組むようになったのは2018年からです。
学生の時に新聞で、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」(略称:全国きょうだいの会)を知ったのをきっかけに参加して、現在は本部スタッフを務めています。60年近く活動してきた団体です。
また、2018年には同じ立場の有志5人で発案者のエンジニアを中心に、「シブコト障害者のきょうだいのサイト」を共同で立ち上げました。2020年10月末現在、シブコトでは1,146名の障害児者のきょうだいが繋がっています。
聴覚障害のきょうだいと家族を対象とする活動としては、「聞こえないきょうだいをもつSODAソーダ&家族の会」を立ち上げ、代表を務めています。また、聴覚障害当事者を中心とする「NPO法人インフォメーションギャップバスター」の理事、家族プロジェクト担当でもあります。
明智 障害児者の“きょうだい(兄弟姉妹)”について簡単に教えてください。
藤木 「障害児者のきょうだい」とは、自分のきょうだいに何らかの「障害」がある人のことです。ここでの「障害」の意味は広く、病気や依存症、ひきこもり等も含まれます。障害者手帳や診断の有無も問いません。今、注目されている家族の介護やケアを担う「ヤングケアラー」、「ケアラー」の一類型とも言えると思います。
障害当事者や親の課題はそれなりに認識され、足りないながらもさまざまな制度や支援がありますが、きょうだいは課題がようやく認識され始めたところです。障害児者のきょうだいは、子ども時代から進学・就職などの進路選択、恋愛・結婚、出産・子育て、親なき後等、もちろん個人差はありますが、生涯にわたり人生に影響を受けることが少なからずあります。悩みがあっても話しづらい場合や相談をしても適切な対応を受けられない場合が多く、これまで見過ごされがちでした。私自身、きょうだい会に初めて参加した際の「自分が抱えてきた悩みをようやく話せた」、「ようやく適切な相談相手に出会えた」感覚は忘れられません。
明智 障害者の“きょうだい(兄弟姉妹)”の活動やロビイングについてどのようなことをしてきましたか?
藤木 この3年間は、まずは「障害児者のきょうだい」という課題をきょうだい当事者、親の方々などの家族、関係者、社会に知ってもらうために、これまではクローズの場でしか語られないことが多かった障害児者のきょうだいの声の発信に力を入れてきました。
ちょうど、2017年に病児のきょうだい支援活動を積み重ねてこられたNPO法人しぶたねが第11回よみうり子育て応援団大賞を受賞(182団体中の1団体)し、その賞金を使ってきょうだい支援を広める会らと一緒に米国のきょうだい支援の創始者ドナルド・マイヤー氏のジャパンツアー招聘、シブコトや全国での新しいきょうだい会の立ち上げ等が続き、テレビ、新聞等で全国各地の障害児者のきょうだい、会の活動やイベントの様子が次々と取り上げられました。
2018年の「きょうだいの私、結婚どうする?」では100人以上の参加者が集まり、NHKでも報道されました。また、2020年11月14日に開催する予定の「知りたい!聴きたい!障がい児者のきょうだい座談会」は無料でzoom開催ということもあり、現在のところ920人もの参加者申込をいただいています。「障害児者のきょうだいに関心のある方がこんなにたくさんいる!」ということを伝えるために1000人の参加を目指しています。
ロビイングについては、障害児者のきょうだいとして国会議員に面会したことがありますが、ほとんどは優生保護法弁護団や理事を務めるNPO法人インフォメーションギャップバスター等の聴覚障害関係団体のメンバーとして優生保護法(2019年4月14日に旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律が成立)や、電話リレーサービス(2020年6月5日に聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律が成立)がメインのロビイングです。これらは障害児者のきょうだいにとっても非常に重要な内容ですし、関連する形で障害児者のきょうだいの課題について知ってもらえるきっかけとなりました。
優生保護法、電話リレーサービスについては活動の積み重ねがある中、私が関わらせていただいたのは2018年からの最後のクライマックスの部分だけなのですが、議員との面会のアポの取り方や振る舞い、議連のヒアリングや議員の勉強会でのレクチャー、情報提供、意見交換のポイント、院内集会の開催の流れ等の貴重な経験ができました。
明智 国会議員へのロビイングで気を付けたこと、大事なことはなんですか?
藤木 まず、何よりも気を付けてきたことは、その日のロビイングの目的の達成にベストを尽くすことです。せっかく国会議員と面会できる機会をいただいているわけですから当然のことです。
私の場合、NPO法人の理事長は手話で話すろう者で、私は「理事、手話通訳、弁護士」の3役を兼ねて同行することが多いです。通常の面会の場合も当然ですが、特に手話通訳も兼ねる場合は、趣旨を明確にして説得力を持たせてアピールすること、コミュニケーションを成立させること等にできるだけ自分の集中力の配分を多く持っていけるように、事前に準備できる内容や進行の確認について入念に打ち合わせをします。
優生保護法や聴覚障害の分野に関心を持つ議員は、障害児者のきょうだいについても関心を持ってくれる可能性が高いです。面会が目的を達成して終わりかけた際の30秒間(面会をセッティングしてくださった方の事前許可を取った上で)が、「障害児者のきょうだい」に関する報道記事をお渡しするチャンスと勝負です。障害児者のきょうだいの立場で活動している元気な女性弁護士がいるな、と覚えていただくことを目標にしてきました。面会、議連、勉強会、院内集会等で繰り返しお会いしていくと、ああ!と覚えていただけるようになります。
また、面会後に議員とフェイスブック等のSNSで繋がること、議員の反応をみて報道等の情報提供をさせていただくことも非常に大事だと思います。
2019年3月5日に薬師寺みちよ前参議院議員が「ケアラー」、「ヤングケアラー」、「障害児者の家族」、「介護者や障害児者の家族が自分の人生を生きられるための施策、法律」についての国会質疑をしてくださり安倍総理(当時)、厚生労働大臣、文部科学大臣から「介護者、障害のある子どもをもつ親やきょうだいが自分自身の人生を生きることができるように社会が支えていく」という趣旨の答弁がありました。また、2020年秋の先日には、ついに政府が教育現場に対してヤングケアラーの全国調査を行うことが発表されました。
薬師寺前議員との最初の出会いは電話リレーサービスのロビイングでしたが、それをきっかけに障害児者のきょうだい、ケアラー、ヤングケアラーに関する私の発信にも目を通してくださるようになりました。これまで活動を積み重ねてこられた方々による大きな成果に敬意をもつとともに、私自身もごく微力ながらやりがいと喜びを感じた出来事でした。
明智 最後に困ったこと、今後の取り組みなど教えてください。
藤木 この約3年間で障害児者の当事者家族、そして福祉や教育関係者、報道、議員の方々にもある程度知っていただくことができたのではないかと思います。2020年3月には、埼玉県で日本初のケアラー条例が成立しました。
今後は、私自身も何度も質問され、自問自答を繰り返してきましたが、「障害児者のきょうだい」の活動が調査、研修、相談やセルフヘルプ・ピアサポート支援等、具体的に何を要望して法律、施策等に実現させていきたいのかが課題として問われてくると思います。
全国に多数ある障害児者のきょうだいに関する活動や団体は、障害や病気等の種別ごと、対象が子どもか大人か、活動の中心は顔を合わせての対面や機関誌の発行なのか、ネットやオンラインか、活動やノウハウの積み重ねがあるか、最近立ち上げたのか(予定を含む)、活動範囲は全国か、地域が中心か等、ニーズや形態は様々です。また、何かをしたいという思いのある個人の方々もたくさんいます。2019年にはNPO法人しぶたねの呼びかけで200名以上の発起人により「きょうだいの日」が4月10日に制定されました。様々な活動が連携していく大きなきっかけだと思います。
全国きょうだいの会がアンケート調査の結果を取りまとめ中ですので、その結果を持って、他の関係団体と連携して、政策形成に向けたロビイングができればと考えています。諸先輩方がこれまで積み重ねてくださった土台の上で成果を受け取りながら活動できることにとても感謝しています。
また、私個人としては犯罪被害者、犯罪加害者、自死遺族、ひきこもり等の他の分野のきょうだいとも何らかの連携の可能性を探っていきたいです。「きょうだい」という男女や上下のない兄弟姉妹を意味する言葉が社会で広まり、法律等でも使われるようになればと思います。