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市民がバタバタ倒れる北朝鮮「死の行進」…軍事パレードの舞台裏

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧危機に見舞われていると伝えられる北朝鮮。

経済的に恵まれているはずの首都・平壌ですら、食べ物が底をついた「絶糧世帯」が続出する事態となっている。

 そんな中で迎えた今月8日の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)創建75周年の日。平壌では閲兵式(軍事パレード)が行われたが、そのリハーサルに動員された市民が次から次へと倒れる事態となっていた。

 平壌のデイリーNK内部情報筋によると、4〜5日に行われたリハーサルでは、金日成広場に動員された女性2人が栄養失調で倒れ、軍の車両で病院に運ばれた。この2人以外にも、栄養失調や風邪で倒れそうになりながら参加を強いられた人が多くいるとのことだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 同様の問題は先月から起こっていたが、今月に入ってから状況はいっそうひどくなった。政府は、軍事パレードを直前に控えているのに一体何事かとして、事態の収拾に乗り出すよう指示した。

 だからといって、食糧配給をするなど市民に対する配慮をしたわけではない。全世界が見守る中で倒れる人が出れば、国の顔に泥を塗ることになるとして、体調の悪そうな市民をフィルタリングして、健康な人に入れ替えただけだった。

 情報筋によると、カネとコネのある人々は、支援物資や現金を支払って軍事パレードに参加しないため、参加させられるのは貧しい人々ばかり。栄養失調だとしても、参加できないなどと言えば、思想的に問題があるとみなされかねないため、体調が悪くとも何も言えないままリハーサルに参加していたという。

 平壌は北朝鮮で最も優遇されており、選ばれた人しか住めない特別なところだが、それでも栄養失調に苦しむ人が続出しているのだ。平壌より貧しい地方都市、さらには農村の食糧事情のひどさは、察するに余りある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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