忙しい現代人の目の前に現れる「移動する図書館」とは?
「移動する図書館」があれば、人はふらふらと立ち寄るだろうか。
ある日、私はノルウェーの首都オスロ中心部で取材をしていた。次の取材まで2時間ほど時間がある。疲れたし、カフェに座って、何か食べたい。
「どこのカフェに行こうかな」。
たまたま歩いていた広場にあったのが、いつもはないデイクマン公立図書館の「臨時図書館」だった。
本は無料に貸し出されていて、読書をしてもいいし、ただ座って休憩していてもいい。
お金はかからない。
私はこの無料の図書館で、その日の新聞をいくつか読み、本を1冊読んだ。居心地がよかったので、近くのお店でごはんをテイクアウトし、ベンチで読書しながら食べた。
この「移動する図書館」を見たのは初めてではない。たまに中央駅前などにも出現していて、本好きの私はよく吸い込まれてしまう。
「ちょっと休みたいな」という時に、タイミングよく、いい場所にいるのだ。
図書館のプロジェクトリーダーであるロルフ・アンデルセンさんに取材をした。
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「道路や広場がもっと市民の場所になるようにというオスロ市の希望もあり、図書館としても市民のためになにかしたいと思っていました」。
オスロでは、大気汚染改善のために、車の交通量を減らし、中心部の車の出入りを減らそうという「カーフリー計画」が進んでいる。
車が出入り・駐車されていた場所を市民活動のために使う取り組みには、補助金が出る。
「ランチを食べるために立ち寄る人が多いですね。お弁当やテイクアウトしてきたご飯を食べながら、新聞を読む人が続出しています」。
図書館が市民がいる場所に「移動」するのは、これが初めてではない。1901年から、さまざまな形で臨時の屋外図書館を試してきた。
時の流れで、図書館も変わる
「以前は図書館の役割は本を貸し出すことだけでした。今では行事の主催もして、形を変えています。毎週赤ちゃんのためのダンスレッスン、子どものためのコンサートなども館内でしていますよ」とアンデルセンさん。
これまで何人の人が動く図書館を利用したか、明確な数字はないそうだが、本を借りる人は増えたそうだ。
「イベントをきっかけに、図書館のことを知り、図書館にもっと親近感をもつ人が増えていると感じています」。
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忙しい毎日の中で、図書館にわざわざ足を運ぶのは一苦労だ。
図書館がわざわざ私たちの前に都合よく現れてくれるほど、便利なことはない。
新聞と本を読んだ私は、時間を有意義に使えた気がして、その日の満足度はアップした。
時間と体力、お金の節約にもなった(北欧は物価が高いので、新聞や本の料金も高い)。
なぜ、私はこの図書館が気に入ったのか。
人が多い街中で、疲れていて、座る場所が欲しかった。本とカフェが好きな私の目の前に、「さぁ、どうぞ!」と現れてくれたからだ。
私たちが図書館に行くのではなく、図書館が市民のいる場所に行く。
今の現代生活で、「移動する図書館」は今後より必要とされてくるのかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi