カップ戦の敗北を糧にWEリーグ・マイナビ仙台が掴んだ開幕戦勝利。司令塔・中島依美が見る新たな景色
11月11・12日に各地でWEリーグが開幕した。
好スタートを切ったのは、仙台、大宮、神戸、C大阪、東京NBの5チームだ。
両チームとも新体制で臨んだマイナビ仙台レディースとちふれASエルフェン埼玉の一戦は、3-1で仙台が制している。仙台は今季、「3強入り」を掲げている中で、大きな一歩となった。
前半36分にコーナーキックからキャプテンの國武愛美がヘディングで決めて先制。後半早々にセットプレーから埼玉に同点に追いつかれたが、73分、中島依美のパスに抜け出した遠藤ゆめがPKを獲得。新加入のカーラ・バウティスタがこのチャンスをしっかり決めて勝ち越すと、終盤にはワンタッチパスで左サイドを崩し、5年ぶりに復帰した佐々木美和が決めて試合を決定づけた。
試合後はピッチ上でスタッフとともに歓喜を炸裂させた選手たち。プレシーズンのリーグカップで0勝4敗1分と低迷していた仙台にとって、渇望していた勝利だった。
開幕前には、ワールドカップで得点王になった宮澤ひなた(マンU)をはじめ、松窪真心(ノースカロライナ・カレッジ)、矢形海優(C大阪ヤンマーレディース)、船木里奈(大宮)など、前線の選手が多くチームを離れ、前途多難なシーズンになると思われた。
だが、7月から10月にかけてスペイン、タイ、カメルーン(フランス)、ナイジェリアなど、各国代表歴を持つ外国籍選手を6名獲得。育成組織出身選手たちの突き上げもチームに新たな刺激を与え、競争力が増した。
さらに、トレーニングでは元陸上・ハードルの秋本真吾氏をスプリントコーチに招聘し、“走り方”を改革。90分間ハードワークできる土台を作ってきた。須藤茂光監督がカップ戦期間中は療養のためチームを離れたが、佐々木勇人コーチの下でチームづくりを加速させ、新シーズンを最高の形でスタートさせた。
【司令塔が見るチームの変化】
攻守の核を担うのは中島依美だ。昨年神戸から加入し、背番号10を背負って2シーズン目を迎えている。豊富な運動量とテクニック、精度の高いキックでチームを牽引し、この試合では3ゴールすべてで起点になった。
「リーグカップの結果を受けて、このままではいけないと全員が危機感を持ったと思います。そこからリーグに向けて時間がない中で、試合のための実戦的な練習を積み上げてきました。その手応えや実感があったからこそ、それを勝利という形で証明できたのは本当に嬉しいし、自信になったと思います」(中島)
攻守が安定せず、光が見えなかったカップ戦の敗北からチームが変化した要因は、練習の質の向上だけではない。中島が考える「強いチームに欠かせないエッセンス」を新戦力がもたらしたことも大きいようだ。特に、この試合で2点目を決めたカーラ・バウティスタは、これまでの外国籍選手とは一味違ったスピリットを持っている。
「カーラ(・バウティスタ)は(戦術)理解力も高く、練習から勝負に対して『絶対に負けない』というメンタリティーを感じます。そういう選手の存在はすごく大事だと思いますし、今までは気持ちを表に出す選手が少なく、それが勝負弱さにつながるところもありましたから。勝ち続けるためのメンタリティーはやり続けないと身に付かないですが、カーラから見て学べることは多いと思います」(中島)
リーグ3強の一角でもある神戸、そしてなでしこジャパンでも東京五輪まで大黒柱を務めた実績を持つ司令塔の言葉にはたしかな重みがあった。
バウティスタは、スペインのアトレティコ・マドリードやレアルソシエダ、バレンシアなどでプレーした経験を持ち、年代別代表歴もある。パワーとインテリジェンスを備えたアタッカーだ。
「試合中、苦しい局面でもカーラを見ると“もっと戦える、戦おう”という闘志が湧いてくる」と、選手たちからは声が上がる。通訳の成瀬美樹氏を介したスムーズなコミュニケーションも、その熱量をダイレクトに伝えているようだ。中島曰く“真面目で努力家”なバウティスタは、日本語の上達も早いのだという。
この試合では同点に追いつかれた瞬間、「がんばれ!がんばれ!」と一際大きな声でチームメートを鼓舞していた。
「同点に追いつかれた瞬間、チームが気分的に落ち込んだ気がしたので、モチベーションを高めてもらうために日本語で声をかけました」(バウティスタ)
そして、勝ち越しにつながるPKを決めた後には歓喜の咆哮とゴールパフォーマンスを披露。90分間、気迫あふれるプレーでピッチを駆け巡った。
【神戸を離れて見えた新たな景色】
仙台がゴールを決めた直後の歓喜の輪の中心にはいつも、中島の姿がある。
去年まではボランチが主戦場だったが、この試合はトップ下で出場。質の高いプレーと味方への要求でゴールまでの道筋を示しつつ、スペースを作る黒子の動きも怠らなかった。試合後は勝利の喜びに浸りつつも、全体的にはまだ課題が多いことを認めた。
「前半はボールをさわれず、全然思うようにいかなかったです。もっとビルドアップできるようになりたいですし、その上で前線の自分やカーラを見て(ボールをつないで)ほしいという思いはあります」
神戸では、ワールドカップ優勝メンバーが多く在籍した時代に若手有望株として厳しいポジション争いを勝ち抜き、ボランチとして唯一無二の存在になった。
滋賀県出身で、高校卒業から神戸一筋13年。このまま、地元の関西でキャリアを貫くかに思われた。だが、キャプテンとして神戸を初代WEリーグ王者に導いた2021-22シーズンを最後に退団を表明。仙台への電撃移籍が発表されたのは、その1カ月後だった。海外挑戦も模索していた中でオファーを受け、悩み抜いた末の決断だった。
環境を変えてからの2シーズン、中島は仙台で唯一のリーグ戦フル出場を続けている。
「ケガをしない」。それは、キャリアをスタートさせた10代の頃から変わらない中島の強みだ。
一方、環境を変えたことで変化した部分もある。「伝える力」はその一つだろう。仲間や仙台のサッカーについて語る言葉には、自然と熱がこもっていた。
「INAC(神戸)では、先輩たちに恵まれていいものをたくさん吸収し、たくさんのことを学んだんだな、と改めて感じています。チームは変わりましたが、今度は自分が下の子たちに自分なりに伝えていけたらと」
試合後はひっそりと悔し涙を流していた廣澤真穂の肩を抱き、真剣な表情で声をかけていた。チームの新たな得点源として期待されながら、試合終盤の数分間の出場にとどまった廣澤の悔しさは、数年前の自身の姿にも重なったようだ。
「試合に出たいという気持ちは、INACで同じ経験をしたのですごくわかるんです。その悔しさを忘れずに、少しの時間でも試合に出て爪痕を残し続けていくことで出場時間は長くなっていくし、そのチャンスを勝ち取るために気持ちを折らないでやり続けることが大事だと、真穂には伝えました」
11月18日、ユアテックスタジアムで行われるホーム開幕戦(WEリーグ第2節)で、中島は古巣の神戸と対戦する。ようやく手にしたこの勝利を、チームのさらなる力につなげるために。
背番号10とともに、仙台の新たなチャレンジはスタートしている。