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前期王位挑戦者・佐々木大地七段、今期リーグも2連勝で走る 藤本渚四段、史上最高勝率記録の更新はならず

松本博文将棋ライター

 3月8日。伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦・挑戦者決定リーグ紅組、佐々木大地七段(28歳)-藤本渚四段(18歳)戦がおこなわれました。

 佐々木七段は前期、藤井聡太王位に挑戦。七番勝負では1勝4敗で敗れたものの、おおいにその実力を示しました。

 現役最年少棋士の藤本四段は王位戦参加1期目にして、リーグ入りを果たしています。

 今期リーグは抽選の妙で、年長者5人が白組、年少者5人が紅組に。平均年齢は紅組46歳、白組29歳と、非常に対照的な組分けとなりました。

千日手指し直しからの大熱戦

 1局目、佐々木七段は豊島将之九段、藤本四段は佐藤天彦九段と、それぞれ強敵を破っています。

 本局は事前の抽選により、藤本四段先手と決まっていました。10時に始まった対局は現代調の相雁木(あいがんぎ)に。そして序盤で駒がぶつからぬまま、11時11分、60手で千日手が成立しています。

 11時41分、先後を入れ替えて佐々木七段先手で始まった指し直し局は、定跡形をはずれた相居飛車の戦いに。

 中盤、藤本四段は馬を作りながら、いち早く相手玉を攻める態勢を作ります。対して佐々木七段は反撃に移ったあと、駒得を重ね、ペースをつかみました。

 佐々木七段優勢で迎えた終盤。藤本四段は強靭な粘りを続けました。いつの時代においても、勝率の高い若手は粘り強いもの。藤本四段は非勢ながらも、手段を尽くして容易には倒れません。

 しかし前期王位挑戦者の佐々木七段は誤りません。藤本四段の角打ちの王手に対して143手目、佐々木七段は端に玉を引きます。佐々木玉に詰みはなく、藤本玉は受けなし。21時1分、藤本四段が投了。佐々木八段の勝ちとなりました。

 リーグ成績はこれで佐々木2勝0敗、藤本1勝1敗。佐々木七段は強敵を破り、2期連続の挑戦に向けて前進中です。

藤本四段、大記録更新はならず

 1967年度、当時20歳だった中原誠五段(現16世名人)は年間勝率0.8545(47勝8敗)を記録しました。

 当時はそれほど大きく取り上げられなかった記録ながら、半世紀以上にもわたって更新されることなく残り続け、現在では不滅の金字塔として意識されています。

 今年度は藤井聡太八段と藤本渚四段がその大記録を更新できる可能性を残し、年度末を迎えていました。

 藤本四段は王位戦リーグの敗戦により、今年度勝率は0.8364(46勝9敗)となりました。

 藤本四段がこのあと中原誠16世名人の勝率0.8545を抜くためには、残り7連勝(0.8548、53勝9敗)が必要です。しかし今年度はもう、それだけの対局数は残されていません。

 とはいえ、まだ今年度のハイレベルな勝率1位争いは残されています。藤井八冠の成績次第では、逆転の可能性もあります。

【3月10日追記】藤井聡太八冠はNHK杯準決勝で羽生善治九段に勝ち、今年度勝率は0.8654(45勝7敗1持将棋)に。NHK杯決勝(3月17日放映)で佐々木勇気八段に勝ち、棋王戦五番勝負第4局(3月17日対局)で伊藤匠七段に勝てば、史上最高勝率記録を達成します。

 藤本四段は3月12日、C級2組最終戦で山本博志五段に勝てば昇級が決まります。こちらも大変に重要な対局です。

 藤井八冠は残り3勝0敗で史上最高勝率を更新できます。そうした点も含め、3月10日放映のNHK杯準決勝・羽生善治九段戦は大注目の一戦となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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