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今オフは積極補強に乗り出すマリナーズ!菊池雄星のオプション権行使の可能性は?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
まずはチームの勝つ段を待つことになる菊池雄星投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【年俸総額の引き上げを明言したディポトGM】

 すでに日本の主要メディアが報じているように、マリナーズのジェリー・ディポトGMとスコット・サービス監督が現地時間の10月7日、シーズン総括会見を行った。

 日本では菊池雄星投手の去就を中心に報じているが、MLB公式サイトが報じているところによれば、今回の会見で最も注目されたのは、マリナーズが今オフから積極的な補強に乗り出す姿勢を示したことだ。

 今シーズンのマリナーズはシーズン最終戦までポストシーズン争いをする健闘をみせ、2003年以来となる90勝の大台に乗せた。来シーズンは2001年以来のポストシーズンを目指すためにも、戦力アップが求められるところだ。

 ここ数年のマリナーズは年俸総額の引き締めに乗り出し、2018年シーズンでは約1億7000万ドル(約187億円)だった年俸総額を、今シーズンはおよそ半額の9000万ドル(約99億円)以内まで縮小していた。

 年俸総額を縮小しながらも若手を中心に戦えるチームを作り上げたことで、ディポトGMはオーナー側から年俸総額の引き上げの承諾を得たことを明らかにしている。

【FA市場やトレードで積極的補強を目指す】

 またディポトGMは会見で、以下のように話している。

 「2019年、2020年と経験の乏しい若手選手たちに出場機会を与え、遂に今年(チーム変革に向けた)コーナーを回ることができ、その目標を達成することができたと考えている。

 今後我々に課せられたのは、補強できるところは補強し、改善できるところは改善していくことだ。年俸総額に余裕ができたこともあり、FA市場やトレードなどすべての機会を生かしながら、チームを良くしていきたい」

 これまでは弱小チームというデメリットもあり、FA市場で選手獲得が難しい面もあったが、今後はポストシーズンを狙えるチームとしてマリナーズに対する選手の視線もポジティブになってくるはずだ。

 だが年俸総額の引き上げが認められたからといって、ヤンキースやドジャースのように潤沢な予算が与えられたわけではない。やはり限られた予算を有効に使っていくことが求められる。

【年俸18億円は高い?それとも安い?】

 そこで気になってくるのが、菊池投手の処遇だ。

 こちらも日本の主要メディアが報じているように、今シーズンで3年間の基本契約が終了した菊池投手は、今オフに新たな選択が迫られている。それは3種類に分かれている。

 まず1つ目が、マリナーズが保有するオプション権を行使するかどうかだ。もしマリナーズが行使すれば、来シーズンから4年間年俸1650万ドル(約18億円)が保証されることになる。つまり総額6600万ドル(約73億円)を菊池投手に支払うことになるわけだ。

 2つ目は、マリナーズがオプション権を破棄した場合、今度は菊池投手に別のオプション権が委ねられる。こちらを行使すると、来シーズン1年間だけだが年俸1300万ドル(約14億円)が保証されることになる。

 そして最後の3つ目が、マリナーズ、菊池投手が双方ともにオプション権を破棄し、FAとしてNPBを含めた全チームと交渉に乗り出すというものだ。もちろんマリナーズとも、新たな契約を結び直すことも可能になる。

 ただ菊池投手にとって最高のシナリオは、マリナーズがオプション権を行使してくれることだろうが、そう簡単にいきそうな状況ではないのだ。

【今シーズンは投手陣1位の年俸だった菊池投手】

 ちなみに今シーズンの菊地投手の年俸は、1700万ドル(約19億円)だった。これはマリナーズの投手陣の中でダントツの1位だ。2位のジェームス・パクストン投手でも850万ドル(約9億円)なので、1人飛び抜けているのが分かるだろう。

 つまりマリナーズがオプション権を行使した場合、今シーズンとほぼ同額の年俸を保証するということになるわけだ。

 MLB全体で見れば、1700万ドルという額は決して高額ではない。年俸のトップ125選手の平均額で毎年設定されるクォリファイング・オファーを見ても、昨オフは1890万ドル(約21億円)だったので、菊池投手はそれよりも低かったことになる。

 ただ別の視点で見てみると、年俸1700万ドルは今シーズンの先発投手の中で19位タイの額で、菊池投手以外では、レッドソックスのネーサン・イオバルディ投手、そして元巨人でカージナルスのマイルス・マイコラス投手が、同額の年俸を得ている。

 マイコラス投手は負傷のため今シーズンは9試合の登板に止まったが、MLBに復帰した2019年には18勝4敗、防御率2.83の好成績を残し、4年契約を勝ち取り現在の年俸に至っている。

 またイオバルディ投手は今シーズン32試合に登板し、11勝9敗、防御率3.75の成績を残し、チームのポストシーズン進出に貢献している。

 つまり年俸1700万ドルは決して高額ではないが、先発ローテーションの主軸になれる投手が得られる額といえるだろう。そう考えると、今シーズンの菊池投手が年俸に見合った活躍、貢献ができたかといえば、やはり疑問が残る。

【前半戦の菊池投手を評価する?それとも後半戦の不調で判断か?】

 さらにマリナーズ内の視点から考えてみたい。

 マリナーズの先発投手陣で今シーズン2桁勝利を記録したのは、クリス・フレクセン投手(14勝6敗)とマルコ・ゴンザレス投手(10勝6敗)の2人だ。彼らはいずれも来シーズンもマリナーズの契約下にあり、フレクセン投手の来シーズン年俸は305万ドル(3億円)で、ゴンザレス投手は575万ドル(約6億円)と、かなり廉価な契約で済んでいる。

 またシーズン序盤でトミー・ジョン手術を受け戦線離脱したパクストン投手との再契約も微妙だと言われており、来シーズン先発投手陣にかけられる予算はかなりあると考えていい。

 それらを考慮すれば、マリナーズがオプション権を行使しても、菊池投手に1650万ドルを支払う予算は十分にあるのは間違いない。だが根本的な問題になってくるのが、チームが来シーズン以降の菊池投手に1650万ドルを支払う価値があると考えているかどうかだ。

 オールスター戦に初選出されたシーズン前半戦の投球を評価するのか、それともポストシーズンを争う大事なシーズン終盤で、ローテーションから外すしかないほどの不調に見舞われたシーズン後半戦の投球を受け止めるのか。捉え方次第でチームの判断は大きく分かれることになるだろう。

 マリナーズがオプション権の決断を下す期限は、ワールドシリーズ終了後3日以内に定められている。果たしてマリナーズの決断は…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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