Yahoo!ニュース

サミットのチラシから見える「日本のスーパーを楽しくする」ビジョン その舞台裏

池田恵里フードジャーナリスト
週刊文春ではなく・・・週刊爽美都(サミット)

サミットのチラシに唖然

「これがあのサミットのチラシ?」

 

サミットといえば、業界ではバックヤードにおけるオペレーションシステムの完成度の高さには定評があり、「実直」「正直」な企業として知られている。

勿論、その良さを残しつつ、最近のチラシは加えて茶目っ気たっぷり。楽しい要素がふんだんに盛り込まれている。

社会の変化、チラシも変化対応が急務

人口が減少し、より小商圏化していくなか、チラシによって新規顧客を獲得することはなかなか大変であり、従来の顧客を維持しリピートしてもらえることも肝要となってくる。

定期的に発信していくチラシ。そこにはこれまでとは違った要素も必要となり、それは顧客とコミュニケーションを図る一つのツール、そしてきっかけづくりとしても大切なのだ。

とはいえ、実際、他のスーパーのチラシを見ると、今もなお商品の価格を「見る」チラシで完結しているところが多い。そんななか、サミットのチラシを見ると「なんだか弾けちゃった感」「楽しい」といったインパクトがあり、社員が一丸となって作り上げているようにも思えた。

そこで今回、チラシについて、サミット株式会社の中島均取締役執行役員営業企画マネジャー(以下、中島氏)そして中村聖広報室マネジャー(以下、中村氏)に本社にてお話を伺った。

中島均取締役執行役員(左)中村聖広報室マネジャー(右)筆者撮影
中島均取締役執行役員(左)中村聖広報室マネジャー(右)筆者撮影

「日本のスーパーを楽しくする」

池田「最近のサミットさんのチラシを見て、正直、驚きまして、ふっと笑いが込み上げてくるチラシが多々あり、今までにないと思いました」

中島氏「いろいろな企画を行っているのですが、まず「日本のスーパーを楽しくする」というビジョンがあり、「総菜選挙」がきっかけとなりました」

店舗、バイヤー、一丸となって盛り上げ、その気運が顧客に伝わる

さて「総菜選挙」とは、総菜部の各バイヤーが自ら一押しの商品を打ち出し、それぞれのバイヤーが総菜人気NO1を競う企画である。

各バイヤーが党を作り、名前もこれまたユニークなのだ。

「スタミナ党」「海鮮維新の会」「スタミナ新党」「ヘルシー党」「たちあがれ桜姫」「政党チャオズ」「からあげファースト」

そして各党の公約も謳い、食べてもらった結果、顧客に投票してもらう。

チラシ総菜選挙 各バイヤーが公約を打ち出す 
チラシ総菜選挙 各バイヤーが公約を打ち出す 
店舗内でも公約を打ち出す
店舗内でも公約を打ち出す

6月21日から23日は総菜選挙の出馬にあたり、各候補者が「一押し商品」を打ち出し、最終投票期間7月2日(日曜日)選挙に臨むのである。

それぞれがアイデアを持ち寄って、投票期間7月2日(日曜日)まで決戦が繰り広げられる。

総菜選挙に挑む従業員
総菜選挙に挑む従業員

中村氏「各バイヤーの政見放送まで作ったのですよ、僕はこれが好きだなあ」

チラシから広がる本部、店舗が一丸となる

さて店によっては、投票日前の期間、宣伝カーを作ったところもあり、「一押し商品」を総菜担当チーフが選挙カーの前で顧客に試食してもらう。因みに投票箱は本部でつくられたとのこと。

投票箱は本部経費「砧環八通り店での『総菜選挙』の様子」
投票箱は本部経費「砧環八通り店での『総菜選挙』の様子」
コロコロと宣伝カーを運び・・・
コロコロと宣伝カーを運び・・・
商品を薦める従業員
商品を薦める従業員

池田「ちょっと失礼な質問ですが、宣伝カーの経費はどちらで・・・」

中島氏「選挙カーは本部ではなく、店舗経費です。従業員が本来の業務もこなしながら作り上げました。いずれも各人が自ら積極的に作りあげたのです」

中島氏「お客様にも喜んでもらえることも勿論大切なのですが、これまで真面目一辺倒だった社員の殻が破れたのではないかと思い、これも非常に大切だと思っています。お客様とのコミュニケーションも以前よりぐっと増えており、その影響は計り知れないのです。」

中島氏「ちなみに経費ですが、セーフで収まっています」

とニッコリ。

本部と店舗の壁を取っ払う「作」と「演」チラシにも継承

多くのスーパーの悩み。それは本部の「買いである仕入れ」と店舗運営の「売り」の温度差が生じやすいこと。

なかにはそれぞれの持ち場が阻害されるという考えから軋轢が生じることも多々ある。

サミットでは嘗て、その壁を取っ払うため、本部は企画を作ることを「作」と呼び、それを実行する店舗を「演」という言葉に変えた。

これによってお互い同じ土俵であり、部門ごとの強弱はない、そして役割分担であることをうまく表現し、浸透していったのである(サミットストーリー参照)。

今期から始まったチラシに関しても「作」「演」は継承されており、本部では「作」をチラシの企画提案し、出来るだけ「演」である店舗に任せることで自発的性を促したと言われる。

さて投票結果は?次なるチラシ、それは号外!

選挙結果は、投票数44271票。

見事、1位となったのが桜姫鶏の焼とり9680票。

そこで次なるチラシ。

爽美都(サミット)新聞号外を店舗内で配った。

号外を店舗で配布
号外を店舗で配布

敗戦の弁も書かれている。

優勝後の店舗内
優勝後の店舗内

継続は力、チラシで開花

さてサミットでは総菜部門の強化は2012年から始まったとされる。

中島氏「総菜は随分改善され、一定のスタンダードレベルまで磨き上げられたからこそ、チラシ企画が生きたと思うのです」

中村氏「ちなみに『お弁当・お惣菜大賞』、3年連続、最優秀賞を取りまして、次なるステージアップにつながったのではと思っています」

企画から実際、店舗にまで落とし込むまで約3か月。今後、月1回の割合で企画を提案する予定と言われる。このスピード感は聞くだけでも大変さが伺える。今回、紹介した「総菜選挙」にとどまらず、これまでもユニークなチラシを随時、打ち出している。

「週刊爽美都(サミット)」

なかでも今回、週刊文春のような中刷りチラシ「週刊爽美都(サミット)」の企画は、ずば抜けてユニークなのだ。

「これって週刊文春」と思いきや、よく見るとサミット。

画像

中島氏「やはり事前のプロモーションが必要でして、この案は竹野(現社長)が考案したのを、会議では名前を社員にあえて伏せておきました。バイヤスがかかると自由な意見が出てこないので・・・」

中村氏「大変でした・・・」

ということで、社員は侃侃諤諤の議論が重ねられた。多くの社員は「反対!」「何を考えているんだ」といった反応だったという。

出来上がったチラシは大胆で、1ページをまるまる使われた白紙の状態。ちょこっと下に「中身は店頭で」と書かれている。

2ページを広げた状態、1ページはまるごと白紙
2ページを広げた状態、1ページはまるごと白紙

中島氏「経費を考えるとまるまる1ページを白紙はねえ・・・でもやるときは徹底しないと!」

中村氏「このチラシですが新聞に半分に折られて入ってくるので、お客様が最初に目に入ってくるのはこの1ページの真っ白なんです」

一瞬、ミスプリ?と思えるようなチラシ。

店舗内での反応は・・・

さて当日のチラシは十五夜ということでポイント15倍。マル秘商品を発表。

当日のチラシ、その商品が明らかに
当日のチラシ、その商品が明らかに

店舗ではレジは長蛇の行列

当日、このチラシを見て集まったお客様はレジで長蛇の行列となった。

レジ係「こんなに多くのお客様が来ていただいて、並んでいただくのは申し訳なく思いました。とはいえ、ありがたいです!」

結果、平日として今期最高の売り上げを誇った。

ユニークな試みはこの他にも

この他にも「サミットこども新聞」といった試みもあり、

画像

オールスターセール(7月15日、16日)では社員がユニフォームを着て店頭で販促をかけた。

ユニフォーム姿でハイポーズ!
ユニフォーム姿でハイポーズ!

消極的だった一人の社員がユニフォームを着ることで顧客がその着姿を見て、質問され、その後、会話がスムーズになり「お客様との会話の楽しさ、価値がわかりました」との報告がなされたとか。

中島氏「ごく当たり前のことと思われるかもしれませんが、彼にとっては大きな一歩だと思うんです。そして個々の従業員の潜在能力がうまく開花しつつあるように思えます」

サミットは今、大きく飛躍 客数アップ、売り上げ103.3%

さて食品スーパー(SM)の18年3月期中間決算(17年4~9月)の多くは、減益となっているなか、サミットは好調な売り上げで103.3%となった。その内容は客単価を維持しつつ、客数が増加した。人口減のなか、客数がアップしたことは、客数を維持し、新たなる顧客を創出したことを意味し、注目すべき事柄ではないだろうか。

これまで通り「正直さ」を大切にし、新たなる挑戦することで両輪がようやく動きだしたと言われる。顧客を大切にするということは至極当然であり、それを実現させるには社員一人一人が主役であり、楽しい環境であってこそ顧客に「楽しいスーパー」と思っていただける。今回の取材を通して痛感したのであった。

最後にお忙しいなか、たくさんの資料、そして貴重なお話、本当にありがとうございました。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

池田恵里の最近の記事