【最強の仮面ライダーは悪の大首領?】世界中を駆け抜けた日本の特撮ヒーロー達の魅力とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満です。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。
さて、今回のお話のテーマは「世界」です。
ひとくちに「世界」と言っても定義は様々。突然ですが、皆さまは「世界」と聞くと何を思い浮かべますか?
アメリカや韓国、台湾やニュージーランドといった外国でしょうか?
それとも、未開の新世界?
ひとくちに「世界」と言っても捉え方は様々。広辞苑によれば、「世界」とは万国や人の住むところを指したり、同類のものの集まりや特定の範囲を指すこともあるようです(出典:広辞苑 第七版)。つまり、私達が暮らしている日本という国だって立派な世界の一部ですし、皆さまの普段の生活空間や、インターネットやSNSといった擬似的な空間も、一種の「世界」と呼んで差し支えないと思います。
このように「世界」の定義とは多種多様。自分が身を置く生活圏以外にも、私達の知らない世界がまだまだ広がっていると想像すると心が躍ります。
アニメや漫画と並び、我が国を代表する文化資源のひとつである「特撮」においても、様々な世界を舞台とした魅力的なスーパーヒーロー達の活躍が描かれました。その中には、現実の世界だけでなく、コンピュータの中にある世界や異次元の世界へ旅立ったりと、様々な世界を舞台に戦い続けてきた者達もいました。
そこで今回は、たくさんの「世界」を股に掛けて戦った2人の特撮ヒーローをご紹介します。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【アクセスフラッシュ!】戦いの場所はコンピュータの中だ?!2つの世界で舞い踊る夢のヒーロー・グリッドマンとは?
さて、当記事にて取り上げるのは世界を超える特撮ヒーロー。そこで、まずご紹介するのは円谷プロ制作の特撮ヒーロー番組『電光超人グリッドマン(1993)』です。
「あれ?ウルトラマンじゃないの?」・・・確かに、よく似ていますがグリッドマンはウルトラマンではございません。制作している会社は『ウルトラマン(1966)』シリーズと同じ株式会社円谷プロダクションですが、全く別の特撮ヒーロー番組です。そんな『電光超人グリッドマン(1993)』、どんなお話かと言いますと・・・。
ある日、桜ヶ丘中学に通う中学2年生で、自己中心的な性格の藤堂武史のコンピュータを魔王カーンデジファーが占拠する。カーンデジファーの目的は現実世界の支配にあり、武史を言葉巧みに操ってコンピュータの機能を破壊する怪獣達を次々に創作させ、企業や学校、公共・商業施設といった私達の生活に関わる様々なコンピュータの中に存在する世界「コンピュータワールド」に怪獣を送り込む。この「コンピュータワールド」が破壊されると、現実世界の生活インフラが崩壊し、社会混乱が生じてしまうのだ。そんなカーンデジファーの野望を止めるため、異世界・ハイパーワールドからやってきた正義のハイパーエージェント・グリッドマンが同じく中学生・翔直人達のもとに現れ、「自分と合体してコンピュータワールドで戦って欲しい」と呼びかける。直人は「アクセスフラッシュ!」のかけ声と共にグリッドマンと一体化し、武史が送り込む怪獣達と戦っていく。直人の友人達も新たなグリッドマンの武器をパソコン上で開発しながら、彼の戦いをサポートし次々と怪獣を撃破することに成功。度重なる失敗で武史に見切りをつけたカーンデジファーは、グリッドマンに最後の戦いを挑む。決死の戦いの末、直人や武史達の協力でカーンデジファーを撃破したグリッドマンは、直人達に別れを告げ、ハイパーワールドへ帰還するのだった。
『電光超人グリッドマン(1993)』の大きな特徴として、毎週新しい怪獣が登場してヒーローと戦うという点はウルトラマンと同じですが、戦いの場所がコンピュータの中であるという点が挙げられます。コンピュータの中にある世界「コンピュータワールド」を破壊して、コンピュータの機能を破壊し、現実世界に悪影響を及ぼす怪獣達を相手にグリッドマンが戦うというのが物語のフォーマットでした。
文章化するとやや複雑ですが・・・つまり、本作の怪獣達はいわば「コンピュータ・ウイルス」の役目を果たしており、グリッドマンはコンピューターウイルスを防ぐ「ウイルス対策ソフト」のような役割であると思って頂けますと伝わりやすいかと思います。
また本作のヒーローであるグリッドマンは無敵のヒーローではなく、機能的な面で怪獣相手に苦戦することも頻繁にあるため、彼の戦いをサポートする少年少女達が、自身が創作した強化装備をグリッドマンに与え、ヒーローを強くしていく描写も魅力的でした。「自分が考えた武器で、ヒーローがさらに強くなっていく」・・・本作を視聴する子ども達の視点から見れば、想像力をかき立てる夢の設定であり、それ故にグリッドマンは現在も「夢のヒーロー」として幅広い世代から多大な支持を獲得しています。
「しっかし、ヒーローモノの番組にコンピュータがここまで物語に絡むなんてね・・・」と思われるかも知れませんが、『電光超人グリッドマン(1993)』が放送された1993年当時を簡単に紐解いてみると、放送の前年である1992年にアメリカから世界標準のパソコン(コンパック)が上陸し、一般家庭でもパソコンが低価格で購入できるようになった時代でした。さらに、秋葉原の電気街ではコンピュータを組み立てるための部品を取り扱うお店は既に存在しており、部品と知識があれば、中学生でもコンピュータの創作は十分可能だったようです。ただし、私達現代人の生活において欠かせないインターネットですが、1993年当時はまだ一般家庭には普及しておらず、パソコンからネットワークに繋げるためには電話回線等を使用していました。上記の背景を踏まえるならば、コンピュータが一般大衆に認知・普及しはじめたことから、ヒーローをより身近に感じさせるモチーフとして、コンピュータは正にベストマッチな素材だったのです。
上述した『電光超人グリッドマン(1993)』は全39話の放送を終えた後、米国をはじめとする海外へと輸出、放送されます(英語圏タイトル"SUPERHUMAN SAMURAI SYBER SQUAD")。上述した『グリッドマン』が全39話であったのに対し、なんと"SUPERHUMAN"版は全53話の放送でした。
また国内でも誌面展開において続編が掲載されたほか、放送開始25周年を迎えた2018年には株式会社トリガー制作のアニメ番組『SSSS.GRIDMAN 』としてリメイクされ、さらに2023年には『グリッドマンユニバース』と題した長編アニメ映画も公開され大ヒットを記録する等、その躍進は留まることを知りません。
ウルトラマンと並んで、今や円谷プロを代表する人気ヒーローとして認知されてきたグリッドマンは、コンピュータ・ワールドを飛び出し、まだ見ぬ未来に向かって新たな世界を開拓し続ける夢のヒーローとして現在も活躍し続けています。
【通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!】その正体はショッカー大首領!?俺様キャラの仮面ライダー、ディケイドとは何者か?
ここまで『電光超人グリッドマン(1993)』の物語について上述してきました。
しかしいくつもの世界を渡り歩き、悪と戦った特撮ヒーローはまだまだ数多存在します。その中でも特に強烈な個性を残し、後の特撮ヒーロー番組史上において大きな影響を与えたスーパーヒーローをご紹介します。
そのスーパーヒーローとは、仮面ライダーディケイド。半世紀以上に渡り展開され、親子3世代に渡って支持される、東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー(1971)』シリーズにおいて登場した、歴史ある仮面ライダーのひとりでした。彼のことをお話する前に、少しだけ仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせて下さい。
仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。
その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の昭和の仮面ライダーシリーズを経て、『仮面ライダークウガ(2000)』から『仮面ライダージオウ(2019)』までの平成仮面ライダーシリーズ等、世代を跨ぎながらテレビシリーズは継続され、現在は『仮面ライダーガッチャード(2023)』が放送されています。
さて、今回ご紹介する『仮面ライダーディケイド(2009)』は、上述した『仮面ライダークウガ(2000)』を起点とする平成仮面ライダーシリーズの第10作目。節目かつ記念碑的な作品としての役割を担った作品であり、本作に登場した仮面ライダーディケイドは過去9作品に登場した平成仮面ライダー達を総括する役割が与えられました。
『仮面ライダーディケイド(2009)』は、記憶喪失の主人公・門矢士(仮面ライダーディケイド)が『仮面ライダークウガ(2000)』から『仮面ライダーキバ(2008)』までの9つの平成仮面ライダーシリーズの各世界を渡り、それぞれの世界の仮面ライダー達と出会い、共闘することによって、9つの世界を崩壊から救う物語。「通りすがりの仮面ライダー」を名乗る仮面ライダーディケイドは、平成仮面ライダーシリーズの節目的な作品であり、歴代の仮面ライダーシリーズに登場した仮面ライダーや怪人達も登場する等、豪華絢爛な番組内容でした。
本作のチーフプロデューサーを務めた白倉伸一郎氏によれば、『仮面ライダーディケイド(2009)』の役割のひとつに「仮面ライダーのブランディング」を挙げていました。10作目という節目の作品であることを生かし、これまでの仮面ライダーをカタログ化して回収することで、もう一度仮面ライダーというもののブランド価値を内外に知らしめることを考案されていたそうです。そこから、9つの歴代の仮面ライダーの世界を渡り歩くという物語が構築されていくことになりました。
しかしこの『仮面ライダーディケイド(2009)』の物語は終盤に向けて作品の振り幅を広げ、その展開は平成仮面ライダーシリーズだけでなく、初代『仮面ライダー(1971)』から始まった昭和仮面ライダーシリーズさえも巻き込むことになります。そして物語の進行に連れ、記憶を失った主人公・門矢士(仮面ライダーディケイド)が何者であるかが、次第に明らかになっていきました。
門矢士の正体は、仮面ライダーシリーズに登場した全ての悪が大同団結した秘密結社「大ショッカー」の大首領でした。士が変身時に使用する変身ベルト「ディケイドライバー」は大ショッカーが開発したものであり、ディケイドが9つの世界を旅したのは、彼が各世界を渡り歩くことで、それぞれの世界を繋げる「橋(足跡)」を完成させ、全世界の征服を企む大ショッカーが侵攻する道標とするためでした。
唐突にショッカーが出てきたことで、さらに作品の内容が華やか、かつ親しみやすくなったのですが、この衝撃の事実が明らかになったことで士の過去の記憶が蘇り、冷酷無悲だった大ショッカー大首領時代の人格が再興します。仮面ライダー同士を互いに戦わせて同士討ちを企むことを視野に、最強の仮面ライダーを決める「ライダーバトル」への参加を歴代仮面ライダーに呼びかけ、士自身もバトルに参加して歴代仮面ライダーを次々に倒していきます。その中には、仮面ライダーV3や仮面ライダーBLACKといった昭和の仮面ライダー達も含まれていました。
全ての仮面ライダーを倒し、「ライダーバトル」の頂点に立った士は大ショッカー大首領の座に戻りますが、密かに大首領の座を狙っていた幹部のシャドームーンの策にはまり、組織を追放されてしまいます。なにもかも失い孤独の身となった士は、悪の組織の大首領だったことに失望した仲間達からも見放され、全てを失ってしまいました。
士の失意をよそに、大ショッカーは世界征服のための進出を開始し、人間狩りを開始します。人々が怪人達に次々に襲われ、老若男女問わず血が流され、悲鳴がとどろく地獄絵図・・・。
そんな士を立ち直らせたのは、かつて大ショッカーを裏切った科学者であり、ライダーマンとなった結城丈二(演・GACKT)でした。当初は自分の右腕を奪った士に激しい憎悪を向け、復讐を実行しようとした結城ですが、失意の士を見て「殺す価値がない」と一蹴。
「罪は消せない・・・背負って生きてくしかないんだ。例え孤独でも・・・命ある限り戦う。それが・・・仮面ライダーだろ。」(結城丈二)
人間狩りを行なってきた怪人軍団と戦う結城丈二の姿を見て、士は大ショッカーを潰す決意を固めます。正しき心を取り戻した士(仮面ライダーディケイド)の姿を見て、再び仲間達も集結します。しかし、多勢である大ショッカーの戦力は圧倒的。苦戦を強いられる仮面ライダーディケイド達の前に現れたのは、不滅の魂を胸に集った、『仮面ライダー(1971)』から『仮面ライダーキバ(2008)』までの歴代の仮面ライダー達でした。
「貴様らは死んだのではなかったのか?」(大ショッカー大幹部:ガラガランダ)
「ライダーの力が必要とされる限り、俺達は不死身だ!」(仮面ライダー1号)
「そしてライダーがいる限り、大ショッカーの野望は遂げさせん!」(仮面ライダー2号)
大ショッカーの攻撃を合図に、歴代仮面ライダーと怪人軍団の激闘が開始されます。歴代悪の組織の混成部隊となった大ショッカー相手に勇猛果敢に戦う仮面ライダー達。1号が指揮をとり、V3が怪人達にキック、RXと龍騎は敵を切り倒し、アマゾンは敵を崖から落とし鋭い爪で切り裂きます。戦う仮面ライダー達の中には、もちろんライダーマンも含まれていました。
大ショッカーを率いていた大幹部のガラガランダ(地獄大使)は仮面ライダー1号・2号のダブルキックで退治され、イカデビル(死神博士)はディケイドや電王達に倒されました。
2人の大幹部を失い、追い詰められたシャドームーンはディケイドを窮地に追い込みますが、仮面ライダーWを名乗る新たな仮面ライダー(声の出演:桐山漣、菅田将暉)の登場によって形成は逆転、全仮面ライダーの一斉キックを食らい、大ショッカーのアジトごと粉砕されました。
平和が戻り、今回の戦いに集まった歴代仮面ライダー達は、ディケイドとその仲間達に別れを告げます。
「士、ここからが君の本当の旅だ。」(仮面ライダーアギト)
「お前には、俺達がついている。」(仮面ライダーBLACK RX)
「もう呼ぶんじゃねぇぞ!俺はちょー忙しいんだ!」(仮面ライダー電王/モモタロス)
9つの世界を旅を終え、仮面ライダーディケイドを誕生させた悪の根源である大ショッカーを滅ぼした士達は、世界をまわる旅を再開します。『仮面ライダーディケイド(2009)』放送終了後も彼の旅は続き、ある時は「世界の破壊者」を名乗り全ての仮面ライダーを敵に回した他、後輩の仮面ライダー達の加勢に赴いたり・・・さらには自ら悪の組織を指揮して、全スーパー戦隊に全面戦争を仕掛けたこともありました。
来年で『仮面ライダーディケイド(2009)』の放送から早15年の月日が流れますが、その人気は衰えることを知りません。現在放送中の『仮面ライダーガッチャード(2023)』は、令和仮面ライダーシリーズ5作目となる節目の作品・・・本作には「仮面ライダーレジェンド」を名乗る、ディケイドと酷似した仮面ライダーが登場します。彼はいったい何者か、その回答は、11月5日より動画配信サービス「東映特撮ファンクラブ」(外部リンク)にて配信予定の『仮面ライダーガッチャードVS仮面ライダーレジェンド』にて明らかになるのか・・・私も1ファンとして心待ちにしたいと思います。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.10 仮面ライダーディケイド』、講談社
・宮島和宏、『ウルトラマンAGE Vol.8』、辰巳出版株式会社