次期衆院選シミュレーション① 保守分裂・世代交代の注目選挙区はどうなるか?=JX通信社 情勢調査
衆議院議員の任期は30日で丸2年が経過し、任期は後半に差し掛かった。岸田文雄首相も所得減税をはじめとした経済対策を打ち出すなど発信を強めており、政界では衆院解散の時期に関心が集まっている。
そこでJX通信社では、次期衆院選の結果を多面的にシミュレーションするべく、構図の異なる様々な選挙区をピックアップし、それぞれ「直近で選挙が行われた場合に予測される結果」を探った。
今回は、自民党系の候補が複数立候補する可能性のある保守分裂の選挙区と、大物議員の引退や新人同士の争いにより世代交代の構図となる選挙区として、3つの選挙区を対象とした情勢分析を行った。分析の根拠となる情勢調査は、28日・29日の両日に電話とインターネットにより実施した。
福岡9区:保守分裂で自民系2氏に「共倒れ」リスク
福岡9区(北九州市若松区、八幡東区、八幡西区、戸畑区)は、野党系現職の緒方林太郎氏が出馬を予定する一方、与党からはともに自民党に所属する大家敏志氏(参議院議員)と三原朝利氏(北九州市議会議員)が自民党公認の獲得を目指しており「保守分裂」の構図が予想されている選挙区だ。地元の自民党福岡県連は、党員投票の結果大差で支持された大家氏を公認候補とするよう党本部に求めているが、現在のところ、党本部は公認候補を決定していない。
2人がともに立候補する「保守分裂」を想定して情勢調査を実施したところ、現在は野党系現職の緒方氏が優勢で、大家氏と三原氏は横一線で次点を争う状況となっている。
支持政党別に見ると、無党派層では緒方氏が半数の支持を得ている一方、三原氏は1割弱の支持に留まった。大家氏は三原氏を下回っている。一方、大家氏と三原氏がともに所属する自民党の支持層は、大家氏、三原氏、緒方氏の3氏がほぼ均等に分け合っている。同じく与党の公明党支持層は、4割近くが緒方氏を支持しており、三原氏と大家氏はともに2割前後の支持となっている。自民党支持層では大家氏と三原氏の支持が伯仲する一方、与党候補が一本化されていないことで、与党支持層にも野党系現職が食い込む情勢が明らかになった。
自民党所属の2人について、その他の属性で支持動向を分析すると、性別では男性では三原氏、女性では大家氏に対する支持がやや多い。年齢層別では2人は横並びとなっている。対する緒方氏は性別、年齢層別を問わず優勢だ。
地域別に見ると、大票田の八幡西区を含む全4区で緒方氏が先行するものの、若松区と戸畑区では相対的に支持が弱い。この2つの区は、前回選挙でも緒方氏の得票率が低かった地域だ。大家氏は県議時代の地盤である八幡東区などで三原氏に対してリードする一方、三原氏は地盤の若松区で大家氏に対して先行している。
自民党本部は、11月に福岡9区の公認候補を決める見通しだが、三原氏は無所属でも出馬する姿勢を示しており、選挙の構図はなお不透明だ。
大分2区:高齢現職の議席を新人が脅かす
大分2区(大分市の一部、日田市、佐伯市など)は、前回は当選13回のベテランである衛藤征士郎氏(元衆院副議長)に対して、立憲民主党現職の吉川元氏が挑む構図となり、衛藤氏が僅差で当選した。次期衆院選では、この2人に加えて、新人で広瀬勝貞前大分県知事の次男の広瀬建氏が出馬を表明している。広瀬氏は自民党からの立候補に意欲を示す一方、元々自民党から出馬してきた衛藤氏も立候補を予定しており「保守分裂」の選挙戦となる可能性がある。
広瀬氏と衛藤氏がともに出馬することを想定してこの週末に実施した情勢調査の結果によれば、現在は広瀬氏と吉川氏が競り合い、衛藤氏が追い上げる展開となっている。
支持政党別に見ると、無党派層では広瀬氏と吉川氏がともに3割ほどの支持を集める一方、衛藤氏への支持は1割程度に留まっている。自民支持層と公明支持層は、それぞれ広瀬氏と衛藤氏に支持が二分している。立憲支持層は8割超が吉川氏を支持している。維新支持層は広瀬氏と吉川氏が支持を分け合っている。
地域別にみると、広瀬氏は祖父の広瀬正雄元郵政相の地盤だった日田市で、吉川氏は秘書を務めていた重野安正元衆議院議員の出身地でもある臼杵市でそれぞれ先行している。
東京18区:菅直人元首相の引退で新人同士の激戦に
東京18区(武蔵野市、小金井市、西東京市)は「10増10減」による区割り変更の影響を受ける。2022年まで18区に含まれていた府中市が新設される30区に移行する一方、新たに西東京市が入った。前回、前々回の総選挙では立憲民主党現職の菅直人氏(元首相)が当選しているが、菅氏が今期限りでの引退を表明し、後継候補として松下玲子氏(武蔵野市長)の名前が取り沙汰されている。対する自民党は、新人で元農水省の福田かおる氏の擁立を決めている。この他、共産党新人の樋口亮氏、参政党新人の徳永由紀子氏も出馬を表明している。
今回は、菅氏の後継として松下氏が出馬することを想定して調査を行った。その結果、松下氏がやや先行し、福田氏が激しく追う情勢が明らかになった。樋口氏、徳永氏は支持拡大が課題だ。
支持政党別に見ると、無党派層は約4割が松下氏を支持する一方、福田氏への支持は1割台にとどまっている。自民党支持層では8割近くが福田氏を支持している。立憲支持層は9割以上が松下氏を支持した。維新支持層は松下氏と福田氏が分け合っている。共産党は樋口氏を公認候補としているものの、党支持層の3割近くは松下氏を支持している。
地域別にみると、武蔵野市では現職の市長である松下氏がリードしている一方、新たに18区に入った西東京市では松下氏と福田氏が競り合っている。小金井市では松下氏がやや先行している。
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今回調査した選挙区では、いずれも電話調査、ネット調査ともに投票態度を明らかにしていない有権者が一定数おり、情勢は流動的だ。また、今後構図自体も変わる可能性がある。最新の擁立状況に基づき、違った構図の注目選挙区を随時取り上げていく。
調査の方法
10月28日(土曜日)と29日(日曜日)の2日間、衆院福岡9区・大分2区・東京18区の各選挙区内の有権者を対象に、無作為に発生させた電話番号に架電するRDD方式の電話調査と、大手リサーチ会社に登録したモニターを対象としたインターネット調査を実施した。各選挙区ごとの有効回答数は以下の通りだった。福岡9区:電話393人、ネット406人(計799人)/大分2区:電話368人、ネット274人(計642人)/東京18区:電話401人、ネット406人(計807人)