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2024年ブレイク必至のアーティストtuki.。そして「RADER:Early Noise」に注目

柴那典音楽ジャーナリスト
tuki.アーティスト写真(提供:Spotify)

2024年、ブレイクを果たすアーティストは誰か? 

その筆頭に挙げられる存在が、現在15歳のシンガーソングライター、tuki.(ツキ)だろう。年齢と現在中学3年生ということ以外の素性や素顔は明かしておらず、謎めいた正体のまま楽曲の魅力だけで人気を広げているアーティストだ。デビュー曲「晩餐歌」は1月24日公開のビルボード・ジャパン総合ソングチャートで1位を獲得、ソロアーティストとして史上最年少でストリーミング累計1億回再生を突破するなど、すでに大きな反響を巻き起こしている。

tuki.は13歳からTikTokを中心に弾き語りの「歌ってみた」動画を発表し、卓越した歌唱力でファンを集めてきた。2023年7月に自身初のオリジナル曲として同曲のサビをTikTokに公開、9月には父親に出世払いを約束して資金を出してもらいレコーディングを行ったという同曲のフルバージョン音源をリリースした。

tuki.の魅力は、まず芯が強く伸びやかな歌声にある。作詞作曲の才能も目覚ましい。「晩餐歌」はアコースティックギターを中心にしたシンプルなアレンジで、思わず耳を惹きつけられるようなフレーズを持つ楽曲だ。恋人同士の関係を食事に喩えて「人間だからね たまには違うものも食べたいね」「最高のフルコースを頂戴」と歌う歌詞の言葉には、中学生とは思えないほどの大人びた感性が息づいている。同曲はTikTokやユーチューブ上で多くのアーティストがカバーしたことがヒットにつながった。耳馴染みよく歌いたくなるメロディセンスも人気の理由だろう。

2023年11月には失恋の痛みを綴った「一輪花」を、1月10日には卒業を控えた自身の思いを歌う「サクラキミワタシ」を発表した。繊細な心情を表現する歌声には、一曲だけのヒットに終わらない可能性を感じる。「宇多田ヒカル以来」とも言うべき早熟の才能だ。

■Spotifyが発表する「RADER:Early Noise」の10組に注目

Spotifyは1月11日に新進気鋭のアーティストを紹介するプレイリスト「RADER:Early Noise」を発表した。今年で8年目となる同企画は、過去にあいみょん、King Gnu、藤井 風、Vaundyといった人気アーティストを数多く選んできている。tuki.はそこでも選出されている。

同プレイリストに選出された計10組のアーティストにも注目だ。tuki.の他には、すでに国内主要フェスにも出演しライブハウスでの動員も拡大している3ピースバンドのサバシスターや、大阪を拠点に活動し海外でも支持を広げるラッパーのMFS、映画「すずめの戸締まり」主題歌のボーカリストに抜擢されたシンガーソングライターの十明など、気鋭のアーティストが並ぶ。

なかでもグングンと評価を高めているのがボーカルの松田歩とギターの別府純による2人組、離婚伝説だ。シティ・ポップを彷彿とさせる軽やかでグルーヴィーなサウンドとメロウな歌声が魅力。1月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」でも川谷絵音が6位に選出した「愛が一層メロウ」は特に中毒性が高い。

小学校の幼馴染同士で結成された3人組CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(チョコパコチョコキンキン)も非常にユニークな存在だ。キューバの民族音楽に影響を受け、電子音楽とエキゾチックな要素を融合したサウンドに浮遊感たっぷりの歌が乗る。こちらも『関ジャム 完全燃SHOW』で川谷絵音が「tradition」を4位に選んでいる。

今も漁港で働きながらアーティストとして活動するというjo0ji(ジョージ)の異色な経歴とは裏腹の洒脱なセンスにも惹かれる。

他にも音田雅則、JUMADIBA、First Love is Never Returnedと、バンド、シンガーソングライター、ラッパーという多様な分野のアーティストがセレクトされている。ジャンルを超えた多様な才能が続々と生まれているのが今の音楽シーンの特徴だ。新たな才能の活躍に期待したい。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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