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福島瑞穂氏「日本ゼロ、カナダ98%」"難民鎖国"批判に入管次官の「反論」が露わにしたものは?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
9日の法務委員会での質疑 参議院インターネット審議中継より

 見事な追及であったと同時に、底知れぬ闇の深さも浮き彫りに―今月9日の国会質疑での福島瑞穂参議院議員(社民)と、出入国在留管理庁(入管)の西山卓爾次長とのやり取りは、どんなに美麗字句を並べても拭い難い難民排除の思想に凝り固まり、国連等からの度重なる指摘を平然と無視する、入管の危うさを改めて感じさせるものであった。

〇異常に低い難民認定率と入管の詭弁

 2021年に国会に提出された入管法改定案は、難民条約等で禁じられている難民認定申請者の強制送還について例外規定を設けることや、送還を拒むことに刑事罰を加えるようにすること等が、非人道的であるとして、国内外の批判を浴びた。同年、名古屋入管の不適切な対応によりスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が亡くなったこともあり、入管法改定案は廃案となった。だが、法務省及び入管は、その骨格はほとんど同じものである入管法改定案を再び出してきたのである。

 入管は、今回の入管法改定案の「基本的な考え方」として、

1)保護すべき者を確実に保護する。

2)その上で、在留が認められない外国人は、速やかに退去させる。

 と、そのウェブサイト等で説明している。だが、この間、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や国内の弁護士団体や人権団体、難民支援のNGOから入管が指摘され続けてきた問題の一つとして、日本の難民認定率が他の先進国と比較して文字通り桁違いに低く、本来、保護すべき人を保護していないことがある。

 「難民鎖国」との批判に対し、入管は「我が国の難民認定をめぐっては、多くの難民が発生する地域と近接しているかなど、諸外国とは前提となる事情が異なる」との主張をくり返してきたが、その欺瞞ぶりも、さんざん批判されてきた。「事情が異なる」というが、同じような事情、つまり同じ国から逃げてきた難民認定申請者に対し、諸外国と日本の対応がまるで異なるのである。それはやはり、日本の難民認定制度や運用に問題があるということだ。

〇まるで話が通じない入管

 9日の質疑でも、福島議員は、少数民族のクルド人が迫害されているトルコからの難民認定申請者の認定率の各国比較を例にあげ、以下のように追及した。

「トルコ出身者(の難民認定率は)、2019年で、カナダ97.5%、イギリス72.5%、スイス75.1%、アメリカは86.2%、日本は0%です」

「難民の人が全員カナダに行って、日本には難民でない人たちだけが、ずっと何十年と来続けているのではないでしょう。何でこんなに極端に難民認定率が違っているのか?」

「カナダに行ったらほぼ全員救われて、日本では全く救われてこなかった。これ、おかしくないですか?」

 ここまで具体的に指摘され、はたして入管の西山次長はなんと答弁したのだろうか。驚くべきことに、あの常套句をまたも出してきたのである。

「我が国の難民認定をめぐっては、多くの難民が発生する地域と近接しているかなど、諸外国とは前提となる事情が異なっていると考えております」(西山次長)

入管の西山卓爾次長 参議院インターネット審議中継より
入管の西山卓爾次長 参議院インターネット審議中継より

 国会議員が、その問題点を具体的な数字をあげて指摘したにもかかわらず、まるでそれが無かったかのように、使い古され論破された常套句を、入管幹部がくり返す。福島議員は「いや、おかしいですよ。個別じゃなくて、これだけ数字が示しているんですよ」と、追及を重ねたが、西山次長は話をそらし、常套句が破綻したものであること、日本の難民認定率が他の先進国に比べ異常に低いことを、終始、認めようとしなかった。その、あまりの話が通じない様は不気味さすら感じさせるものだった。

〇入管から難民認定審査を切り離すことが必要

 9日の質疑で、西山次長の答弁及びそれを追認した齋藤健法務大臣の姿勢に、福島議員は「難民認定制度が機能しない中で追い返したら、本国でどんなことになるか分からないじゃないですか。本当にこういう改悪法案認められないということを強く申し上げます」と憤った。

 これは正に福島議員の言う通りであろう。入管側が入管法改定案の「基本的な考え方」としてあげている「保護すべき者を確実に保護する」ことが、前提として崩れていることを西山答弁は明白にした。その一方で、入管法改定案の通り、「在留が認められない外国人は、速やかに退去させる」とするのであれば、本来、難民として認定され保護されるべき人が保護されずに強制送還されるようになり、そして、強制送還を拒否すれば、刑事罰を科されるようになる。つまり、入管法改定案及び入管側の姿勢は、重大な人権侵害をもたらすもので、入管法における難民認定制度の、そもそもの根拠となっている難民条約にあからさまに反しているのだ。これは、入管法改定案は廃案にすべきということにとどまらず、入管に難民認定の業務を行わせること自体に問題があるということであろう。

政府与党の入管法改定案に対する対案として、立憲民主や国民民主、共産、社民、れいわ等の野党が合同でまとめた「難民等保護法案」では、入管から難民認定審査を切り離し、独立行政委員会である「難民等保護委員会」を設置し、同委員会に難民認定審査を行わせるとしている。

関連情報↓

https://cdp-japan.jp/news/20210217_0768

野党対案「難民等保護法案」より https://cdp-japan.jp/news/20210217_0768
野党対案「難民等保護法案」より https://cdp-japan.jp/news/20210217_0768

 福島議員の追及と、それに対する西山次長及び齋藤法務大臣の答弁は、上述のような野党対案の実現の必要性をあらためて感じさせるものであった。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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