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朝ドラ「虎に翼」は日本初の女性弁護士・三淵嘉子がモデル。史実とのバランスをどうするかCPに聞いた

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「虎に翼」会見に出席した伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし 写真提供: NHK

朝ドラこと連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)が本日4月1日からはじまる。

“日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づくオリジナルストーリー。困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた法曹たちの情熱あふれる姿を描く””極上のリーガルエンターテインメント”と NHKの公式サイトにはある。

放送に先駆けて行われた会見に、主人公・猪爪寅子役の伊藤沙莉さん、母・はる役の石田ゆり子さん、父・直言役の岡部たかしさんと共に出席した制作統括の尾崎裕和チーフプロデューサーの囲み取材での発言を紹介する。

(*第1週の試写を見たうえでの取材ですが、一部、PR 番組「もうすぐ虎に翼」で紹介されている内容に関する質問をしています。ネタバレを避けたいかたはご注意ください)

リーガルエンターテインメントとホームドラマ

――法曹の世界を題材にした理由は

尾崎「最初から法律を題材にしたドラマを作ろうと考えたというよりは、朝の連続テレビ小説の題材にふさわしいものを、作家の吉田恵里香さんと話しながら探しているうちに、三淵嘉子さんに出会いました。日本ではじめての女性弁護士で、戦後は裁判官にもなった三淵さんの人生やキャラクターがとても魅力的だと思ったので、結果として法律を扱うドラマになりました。そこから当時の法律はこんなふうだったのかと学びながら作っていきました。

法律考証として明治大学の法制史の村上和弘先生に入っていただいています。昭和初期からはじまり年代を経ていきますので、村上さん以外の専門家のかたにも入っていただいています」

――リーガルエンターテインメントということで頻繁に裁判の模様が描かれますか

尾崎「リーガルエンターテインメントと銘打っていますので、法廷の場面は何回も出てきます。主人公の身に大きく関わるような事件もあるし、主人公が裁判を傍聴することによって変わっていくこともあり、様々です。いわゆる法廷を舞台にしたエピソードはしっかり描きます。ある種の解決に導かれることでカタルシスがあるようなドラマティックなリーガルエンターテインメントという部分もありますが、朝ドラなので、ホームドラマの部分もあります。毎回、法廷エピソードがあるというよりは、物語の流れの中で何度か登場するという感じになると思います」

――当時の女性の立場をどう描きますか

尾崎「戦前の法律は、現在の民法と大きく違って、女性の立場が、男性に比べて低い立場に規定されていました。現在、法律自体は変わりましたが、世の中にまだ女性の立場を低く捉えた部分が残っていないだろうかと、現代の視点から、改めて見てみようというものです。また、男性、女性それぞれの立場から、男性と女性の立場はどういうふうになってるんだろうというようなことも考えられるような内容になっていると思います」

――主人公の家や通う学校のモデルは

尾崎「ドラマはフィクションですが、寅子の家は麻布の設定です。三淵さんのご実家もそのあたりに当時あったということからそう設定しました。大学の女子部は御茶ノ水界隈にある設定で、モデルの三淵さんの通った明治大学を参考にさせていただき、明律大学女子部という名前にしています。昔の雰囲気を再現するためには、CGを使ったり、近現代の街のオープンセットがあるワープステーションを活用しています。昔の名残のある橋は、長池見附橋という大正時代、都内に立てられた橋を八王子に移築したものがありまして、そこでロケをして、周辺はCG処理しています」

大河ドラマは実名でその人の実績を描く

朝ドラは名前を変えて改めてフィクションとして描く

――モデルがいるドラマでは史実との相違がネットで話題になります。今回は史実とフィクションのバランスをどのように考えていますか

尾崎「三淵嘉子さんというモデルの方はいらっしゃいますが、フィクションとして、エンターテイメントとして再構成はしますと銘打っています。三淵さんが日本で初めての女性弁護士となり、戦後は裁判官になられて、家庭裁判所の設立にも携われたという大きな流れは敬意を持って描かせていただきます。ただ、名前を猪爪寅子と大きく変えているところもあり、家族関係や周囲で起こる出来事は、フィクションの部分は色濃くなると思います」

――「もうすぐ虎に翼」という PR番組で、男装されている人物が出てくることや、寅子の父親にまつわる事件が描かれることを知りました。それはフィクションですか

尾崎「当時の明治大学の女子の法科に取材させていただいた時に、女子部に所属している方は、世代も様々で、海外からの留学生のかたもいて、幅広かった事実を知りました。その中で、男装していたかたがいたという記録は残っていないのですが、様々な女性たちをキャラクターとして造形していく中で、吉田さんのアイデアとして男装する女性を入れてもいいのではないかということになりました。お父さんの事件もフィクションです。ただ、当時、三淵さんのお父様が銀行に勤めていて、その銀行で大きな事件が起こったことをヒントにしています。今回、朝ドラのお父さんとしてはかなり波乱万丈な部分があり、明るい面もあれば、すごく落ち込むような場面もあって。多面的なところを、岡部たかしさんがすてきに演じてくださっているので楽しみに見てほしいと思います」

――ネットで史実と違うと話題になることをどう感じていますか

尾崎「同じモデルを扱うドラマでも、朝ドラと大河ドラマは違って、大河は実名でその人の実績を描くような部分があり、朝ドラは名前を変えて改めてフィクションとして描くという違いがあると思うんです。ただ、朝ドラでも、モデルにさせていただく方々への敬意はないといけないと思っています。今回も視聴者の皆様からいろいろなリアクションがあると思いますが、制作する立場としては、三淵さんという方の人生に敬意を持って描くことだけは外れないようにやっていこうと思います」

――憲法14条についてドラマではどのように捉えて描きますか

尾崎「NHKラジオで三淵さんにインタビューしたものが残っていました。そこで、戦争が終わって世の中が変わって憲法が変わったことがご自身のいわゆる人生の一番大きなターニングポイントだったというようなことを語っているんです。憲法が変わり男女の区別がなくなったことで、ご自身も裁判官になれた。そこは史実をもとに書いています」

――主人公の名前にはどういう思いが込められていますか

尾崎「三淵さんが五黄の寅年生まれで、ご家庭で『寅ママ』と呼ばれていたエピソードがあり、寅子と書いて『ともこ』と読むというアイデアが生まれました。名字の猪爪は名前にすっとハマるものとして決めました。強いイメージを受けられると思いますが、寅子には強い部分もあるし、そうでない部分もある、一言では言い表せない、多面的な人物です」

連続テレビ小説 「虎に翼」
4月1日(月)放送開始
毎週月~土曜 前 8時00分(総合) ※土曜は一週間を振り返ります
毎週月~金曜 前 7時30分(BS・BSプレミアム4K)
【作】 吉田恵里香
【出演】伊藤沙莉 ほか

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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