Yahoo!ニュース

不動産で価値を高める「都心」。が、その線引きはグズグズ

櫻井幸雄住宅評論家
東京駅周辺は、山手線内側も外側も文句なしの「都心」。筆者撮影

 今、「都心」は特別な響きを持つ。住めば便利で楽しい場所、でも新築マンション3LDKが2億円以上する場所、ロンドンのように東京五輪後も価格が上がり続けるかもしれない場所……ところで、この「都心」とは、どこを指す場所なのか。じつは、これ不動産関係者もよく分かっていない。明確な基準がないので、結構いい加減に使われているのが実状だ。

昔は、横須賀も「都心」?

 第2次世界大戦が終わったあとの混乱期、土地の売り方も混乱していた。「東京駅からすぐの土地」が売りに出たので見学に行くと、東京駅から車に乗せられ、三浦半島まで行って日が暮れた。ここで契約書に判を押さないと置き去りにする、と言われ、泣く泣く購入させられたという犯罪行為もあったという。

 そんなことは許されない、と不動産の公正競争規約が整備され、横須賀市や逗子市の土地を「東京駅からすぐ」とは表記できないようになっている。

 しかし、今も定義が不明確で、あいまいに使われている言葉がある。タワーマンション(マスコミではタワマンと呼ばれる)もそのひとつ。超高層マンションにははっきりとした定義「地上60メートル以上、階数にしてだいたい20階以上」があるが、タワーマンションは「塔状の建物」というだけで、明確な定義がない。そのため、10階建て程度の背の低い建物でも、塔状であればタワーマンションと呼ばれてしまう。

武蔵小杉と立川が「都心」とは

 もうひとつ、明確な定義がないために、幅広く使われている言葉が「都心」だ。

 「都心」とはどこを指すのか。これにも明確な定義がない。

 年配の方が「千代田、中央、港の3区が本来の都心」といえば、若い世代は「その3区に新宿と渋谷を加えた5区が今の都心」という。いや、文京区が入らないのはおかしいと、「山手線の内側が都心」説も出ている。

 ここまでは、納得できる。しかし、世の中には、多摩地区も含めた東京都全体を都心としたり、武蔵小杉のマンションを都心マンションと呼ぶことがあり、さすがにそれは「いやいやいや」だろう。

 八王子市内で高尾山をバックに「都心マンション」と言うのは無理がある。が、中央線で新宿駅に次ぐ乗降客数・商業施設数を誇る立川駅前で「都心マンション」と言われたら、反応は微妙である。「都心マンションです!」と強く主張されたら、頷いてしまいそうだが、立川も武蔵小杉も郊外拠点駅でこそあれ、都心ではない。

 ただ、最近は大阪や名古屋の中心地を「都心」と呼ぶことがあり、「都心」の意味合いが「東京都の中心」から「大都市の中心」に変わってきた感がある。そうなると「都心」が指す場所も広がってしまうのだろう。

「山手線内側が都心」は、分かりやすいが

 現実的には、都心=山手線内側の線引きが分かりやすく、納得感が大きい。が、そうなると、銀座四丁目の交差点も日本橋のデパートも、新宿の都庁も、そして渋谷のスクランブル交差点も都心ではなくなってしまう。

 江戸時代から続く由緒ある場所や東京の名所、都知事がいらっしゃる場所を外すわけにはいかない。そこで、「山手線の内側と、その周辺」というボカした言い方も出ている。もう、そんな感じでいいんじゃないと幕引きしたくなるが、この言い方にも物言いがつく。

 というのも、山手線目黒駅や巣鴨駅、西日暮里駅のように、山手線の内側と外側で地価とマンション価格相場が大きく変わる場所があるからだ。

 そこで、今出ているのは「山手線内側を中心に千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区を含めた場所が都心」というもの。まったくもって、グズグズな線引きである。

 この線引きを示すと、江東区の豊洲はどうなのか、品川区の御殿山は都心ではないのか、といった疑問が出ている。だから、あくまでも「なんとなく都心」を示す基準となる。

 「なんとなく」の線引きではあるが、ある種の人たちにとっては、大きな頼りになる。それは、地方に住む富裕層や外国人が東京のマンションを買うとき。東京のことを子細に知らない人が投資用や半投半実(半分投資で、半分実需=自ら住む目的で住宅を買うこと。筆者が2016年から使っている造語)で、都心マンションを買おうとするときだ。

 都心マンションを買っておけば、損がないと聞いて、購入しようと思った。しかし、どこが「買って間違いがない都心」なのかが、分からない。そこで、登場するのは、さきほどのグズグズの線引き。きれいなラインではないが、むしろそのほうが信憑性も高まる。

やはり「都心」は、特別な場所

 グズグズな線引きが定着しだした結果なのか、今、マンション価格の上昇が著しいのは、「山手線内側を中心に千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区を含めた場所」だ。マンション価格が高くても買う人がいる。つまり、投資マネーが日本中、世界中から流れ込んでいる場所ということなのだろう。

 結果、富裕層ではない普通の人がマンションを買うときは「山手線内側を中心に千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区を含めた場所」を避けて、その外側を狙ったほうがよいという考え方も出てくる。

 そして、もし、あなたが「山手線内側を中心に千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区を含めた場所」にマイホームを持っていたら……これから、都心物件の売りどきとか活用法で悩みが増えてしまうかもしれない。

 

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

資産価値はもう古い!不動産のプロが知るべき「真・物件力」

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

今、マンション・一戸建ての評価は、高く売れるか、貸せるかの“投資”目線が中心になっていますが、自ら住む目的で購入する“実需”目線での住み心地評価も大切。さらに「建築作品」としての価値も重視される時代になっていきます。「高い」「安い」「広い」「狭い」「高級」「普通」だけでは知ることができない不動産物件の真価を、現場取材と関係者への聞き取りで採掘。不動産を扱うプロのためのレビューをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

櫻井幸雄の最近の記事