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小笠原近海で台風5号が発生 台風から離れていても熱中症や局地的な豪雨に加え、海岸のレジャーにも注意

饒村曜気象予報士
小笠原近海で台風5号になりそうな熱帯低気圧の雲(8月7日15時)

台風5号が発生

 令和6年は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります。

強いエルニーニョ現象が終息した年は、台風1号の発生が遅いという傾向がありますが、今年、令和6年(2024年)も非常に強いエルニーニョ現象が終息した年です。

 そして、5月31日には、南シナ海で台風2号が発生したのですが、その後は、約2か月にわたって台風の発生がありませんでした。

 台風3号が発生したのは7月20日で、フィリピンの東海上でした。翌21日には南シナ海で台風4号が発生しましたが、平年であれば7月までに8個位発生しますので、平年の約半分という、かなり少ない発生数の年であったということができます(表)。

表 平年と令和6年(2024年)8月7日までの台風発生数・接近数
表 平年と令和6年(2024年)8月7日までの台風発生数・接近数

 日本に接近した台風(台風の中心が全国約150か所ある気象官署等から300キロ以内に入った台風)も、沖縄県南大東島の南東海上を通過した台風1号と、沖縄県先島諸島付近を通過した台風3号の、あわせて2個で、こちらも平年の半分でした。

 また、平年であれば7月までに1個位上陸しますが(台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達しますが)、今年は0でした。

 現在、日本の南海上には海面水温が、台風発達の目安とされる27度を大きく上回る30度以上もあります。

 そして、小笠原近海にある熱帯低気圧は、台風5号に発達し、関東の東海上を北上する見込みです(図1)。

図1 台風5号の進路予報と海面水温(8月8日0時)
図1 台風5号の進路予報と海面水温(8月8日0時)

 現時点では、暴風域を持つほどは発達しないと思われますが、台風の北上の動きは早くはありません。

 このため、東日本の太平洋側から西日本の太平洋側では、熱帯低気圧(台風)を回るように暖かくて湿った空気の流入が続く見込みです。

【追記(8月8日8時40分)】

気象庁は、8月8日3時の観測から、小笠原近海の熱帯低気圧が台風5号に発達したと発表しましたので、タイトルを「台風5号発生か」から「台風5号発生」に変更しました。

熱中症警戒アラート

 暑くて湿った空気が大気下層に流入すると、気温の数値以上に熱中症にかかりやすくなります。

 気象庁と環境省が共同で、全国59地域(都府県毎、北海道と鹿児島県・沖縄県は細分)を対象に、前日夕方と当日朝の1日2回、「熱中症警戒アラート」を発表しています。

 8月8日の前日予報では、西日本を中心に全国22地域(約37パーセント)に対して「熱中症警戒アラート」が発表されています(図2)。

図2 熱中症警戒アラートの発表状況(8月8日の前日発表)
図2 熱中症警戒アラートの発表状況(8月8日の前日発表)

 今年、熱中症警戒アラートを発表した地域数の累計は、8月7日の時点で900地域を超えています。記録的な高温となった昨年でも、900地域を超えたのは8月20日になってからですの(図3)。

図3 熱中症警戒アラートの発表回数(令和4年・令和5年と令和6年の比較)
図3 熱中症警戒アラートの発表回数(令和4年・令和5年と令和6年の比較)

 つまり、今年、令和6年(2024年)の熱中症警戒アラートの発表回数は、観測史上一番暑かった昨年、令和5年(2023年)の発表回数を4割程度上回るペースで発表されています。

 つまり、それだけ熱中症になりやすい危険な暑さが続いているのです。

 今年から熱中症特別警戒アラートの運用が始まり、発表時には徹底的な熱中症対策をとることが必要となります。

 現在運用中の熱中症警戒アラート(対象地域内のどこかで暑さ指数33以上)と違い、熱中症警戒特別アラートは都道府県単位で、前日の14時に都道府県内全ての暑さ指数が35以上と予測される場合に発表されます。

 この発表基準は、これまでに経験したことがない暑さで、記録的な猛暑となった昨年も発表基準に達していません。地球温暖化等で予想される今後の暑さに対する備えです。

 現在までの暑さでは、熱中症特別警戒アラートが発表されませんが、発表に至らないとはいえ、熱中症になりやすい危険な暑さにはかわりがありません。

 熱中症特別警戒アラートで求められる徹底的な熱中症対策に準じた対策が必要です。

大気不安定

 大気が不安定になるときは、上空に寒気が入っているときだけではありません。上空に乾燥した空気が入る、下層に暖気が入る、下層に湿った空気が入っているときも大気が不安定になります。

 つまり、暑くて湿った空気が大気下層に流入して熱中症にかかりやすくなるときは、大気が不安定となって積乱雲が発達しやすくなっているときです。

 8月8日も天気の急変や落雷、突風、急な強い雨に注意してください。

ただ、大気が不安定による積乱雲発達は局地的です。8月7日夜に東京都心など関東南部で所により激しい雷雨となり、大雨警報等が発表となりましたが、関東南部すべてで激しい雷雨となったわけではありません(図4)。

図4 令和6年8月7日22時の関東南部の雷雨
図4 令和6年8月7日22時の関東南部の雷雨

 激しい雷雨の近くでも、弱い雨さえ降っていないところもあります。

 ネット等で最新の気象情報を入手し、激しい雷雲が通り過ぎるのを安全な場所で待つなどの対策をお願いします。

海岸でのレジャー事故

 海岸でレジャー事故が多く発生するのは、海が荒れているときではありません。

 海が荒れているときは、多くの人は、最初から海岸でのレジャーに出かけませんので事故にはあいません。

 海岸で事故が多いのは、「遠くに台風があるとき」「晴れて風が弱いとき」と「日曜や祭日などの休日」の3つの条件が重なったときといわれています。

 「遠くに台風があるとき」は、晴れて風が弱いときでも、台風からのうねりがやってきて、海岸では波が高いことがあります。しかも、うねりは海底の地形に影響され、局地的に特に高くなることがあります。

 しかし、「晴れて風が弱いとき」は、陸地のレジャーの感覚となって油断しがちですし、休日となると、無理してでも楽しもうとする意識が生じます。

 台風5号(熱帯低気圧)の北上に伴い、関東から東日本の太平洋側では2メートル以上の波がやってくる見込みです(図5)。

図5 波の高さの予報(8月10日15時の予想)
図5 波の高さの予報(8月10日15時の予想)

 しかし、高気圧に覆われて晴天の所が多く、しかも8月12日は山の日の振り替え休日となり、三連休をひかえています。

 つまり、海岸でレジャー事故が多くなる3つの条件が揃っています。

 最新の気象情報に注意し、念には念をいれて行動をしてください。

 なお、高い波を求めて、台風が接近すると喜んで海に向かうサーファーがいますが、これは危険な行為です。

 サーフィンに適した波は、波高が高く、周期が長く(波長が長い)、しかも、波の周期がそろっている波です。このような波は、遠くの大荒れの海域からやってくるうねりが、穏やかな場所にやってきてできるものです。

 台風接近による大きな波は、台風はいつも同じ場所にいるわけではないことから、サーフィンに適した時間、場所は刻々と変わり、かつ台風が接近してきたら即中止というサーファー泣かせの波であるという認識が必要です。

図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:環境省ホームページ。

図3の出典:環境省ホームページをもとに筆者作成。

図4、表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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