アイアンドームとアロー:イスラエル防空システムの違い
4月13日~14日の夜間に行われたイランによるイスラエル攻撃では、迎撃でアイアンドーム防空システムは使用されていません。ところがイスラエルの防空システムといえばアイアンドームだと有名になり過ぎたせいの思い込みからか、アイアンドームが使用されたと誤報を行った大手メディアが複数出ています。しかし使用された迎撃兵器はアロー防空システムであることは、イスラエル軍が最初に行った説明で名指しで紹介されています。
イスラエル軍の公式発表を確認
使用された迎撃兵器がアイアンドームではないと判断する見分け方としてはいくつかありますが、そもそもの話としてイスラエル軍の報道官はイランからの長距離攻撃に対して最初の記者会見でアロー防空システムが使用されたとは説明しましたが、アイアンドームが使用されたとは一言も述べていません。
さらにイスラエル軍の追加説明では「ドローンと巡航ミサイルは戦闘機が遠方で阻止しイスラエル領土には侵入しなかった」「弾道ミサイルが少数突破してきた」とあり、イスラエル領土内での迎撃戦闘の相手は弾道ミサイルだったことが判明しています。
アイアンドームはロケット弾迎撃用であり弾道ミサイルは迎撃できません。これに対してアローは弾道ミサイル迎撃システムです。つまりイスラエル軍の公式発表をチェックするだけでアイアンドームの使用は有り得ないと断定できます。
- アイアンドームはドローンや巡航ミサイルを迎撃できる → 戦闘機が遠方で全て撃墜したのでアイアンドームの出番無し。
- アイアンドームは弾道ミサイルを迎撃できない → 迎撃したのはアロー防空システム。
しかしイスラエル軍の最新の公式発表をヘブライ語を読んで確認するのは大変ですので、公式発表を確認せずとも迎撃戦闘の様子の映像を見るだけで判断する方法があります。
映像での見分け方
弾道ミサイルは準中距離級から中距離以上の規模になると速度の高さから大気圏再突入時に空力加熱で表面が赤熱し光り輝きます。これに対しロケット弾の速度ではこの現象が発生しないので光ったりはしません。この違いで見分けることができます。
- 降下する光:弾道ミサイルの弾頭部分
- 降下する光:弾道ミサイルのロケット部分
- 降下する光:弾道ミサイルの撃墜された残骸
- 上昇する光:迎撃ミサイルの噴射炎
- 爆発した光:命中
夜間戦闘で見える「光」はいくつか種類がありますが、アロー防空システムによる弾道ミサイル迎撃戦ではこれだけの種類が見えます。これに対してアイアンドームによるロケット弾迎撃戦の場合は「降下する光」は基本的に見えません。ロケット弾は準中距離弾道ミサイルに比べて速度が遅く、空力加熱で赤熱して光り輝いたりしないからです。
また迎撃高度からも判別は可能です。弾道ミサイル迎撃戦の方がロケット弾迎撃戦よりも遥かに高い高度で行われます。しかも弾道ミサイル迎撃戦の映像で見えている光点は、既に遥か遠方で撃墜済みの残骸が降ってきて大気圏に再突入している様子の可能性があるのです。
※アロー3迎撃ミサイルは大気圏外用で射程数百km、迎撃高度100km以上。全長560cm、直径53cm、推定発射重量1500kg。関連記事:アロー3大気圏外迎撃ミサイルのTVC(推力ベクトル制御)
※アロー2迎撃ミサイルは射程70~150km、迎撃高度10~50km。全長700cm、直径80cm、発射重量2800kg。関連記事:アロー2迎撃ミサイルの全長・直径・重量の公表数値について推定
※アイアンドームのタミル迎撃ミサイルは射程7km、迎撃高度3km。全長300cm、直径16cm、発射重量90kg。(※射程と迎撃高度は目標をロケット弾と想定した推定)
※アイアンドームのタミル迎撃ミサイルの射程について4~70kmとする報道は多いが、実際にはこれは想定している敵目標のロケット弾の射程の意味。
※アロー3の射程について2400kmとする報道は多いが、実際にはこれは想定している敵目標の準中距離弾道ミサイルの射程の意味である可能性が高い。また公表されている迎撃高度は100km以上だが、実際には70km以上で機動できる可能性が高い。
- アイアンドーム:全長300cm、直径16cm、重量90kg
- アロー2:全長700cm、直径80cm、重量2800kg
- アロー3:全長560cm、直径53cm、重量1500kg ※数値は一部推定
関連記事:イランがイスラエルに大規模ミサイル報復攻撃(2024年4月14日)
※イスラエル軍はこの迎撃をマゲンバルゼル作戦(鉄の盾)と後から命名。