英国の主要企業の半数近くが利用 ー「ゼロ時間契約」は不公平か?
(「週刊エコノミスト」掲載の筆者コラム「ワールド・ウオッチ」に若干補足しました。)
日本では過酷な条件で働かせる「ブラック企業」が話題になっているが、英国で批判の的になっているのが「ゼロ時間契約」(BBC記事、ご参考)だ。
雇用主が就労時間を保証せず、必要なときにのみ仕事を提供する形をとる。雇用側からすれば需要に応じて働く人を確保できる利点があるが、働く側からすれば不安定な就労環境だ。就労時間にばらつきがあるため収入が一定せず、通常の雇用契約ではないため、銀行ローンを受けにくい。当日あるいは翌日からの勤務がオファーされた場合、就労開始までの時間が極端に短く仕事を断らざるを得ない場合もある。
4月末、政府統計局(ONS)がゼロ時間契約についての調査結果を発表した。5000の雇用主を対象に聞いたところ、140万件のゼロ時間契約が交わされていることが分かった。250人以上の従業員を持つ企業の約半分が利用していた。平均就労時間は週に25時間。ONSがこれより先に就労者側を対象に調査したところでは、58万3000人がゼロ時間契約で働いていた。ONSは数の違いについて、就労者が複数の企業と契約を交わしているからではないか、と指摘している。ゼロ契約で働く人の大部分が「学生、女性、25歳以下あるいは65歳以上」だった。
BBCニュースは、ゼロ時間契約で働くさまざまな人の声を拾っている(4月25日付)。エジンバラに住む学生はマクドナルドでアルバイトをしている。「労働に柔軟性があって働きやすい」。2人の子供を持つ母親で、ケア業界で働く女性は「得をするのは雇用主だけ」、「どんな仕事も受けるようにしている」が、「24時間以上前にキャンセルとなった仕事からは賃金が得られない」ため、苦しい思いをしているという。
労組大手TUCは、パブ、映画チェーン、地方自治体、バッキンガム宮殿などもゼロ時間契約を使っていることに触れ、「多くの人に影響を及ぼしている」、労働者が「不当に扱われないよう、改善策を打ち出すべきだ」と述べている。「ゼロ時間契約で働く若者が多いが、将来のキャリア作りにつながらないのが大きな懸念だ」(TUCトップ)。
政府はゼロ時間契約を「禁止しない」が、その実態についての独自の調査を「近く好評予定」(ビンス・ケーブル、ビジネス担当大臣)だ。