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民間人2000人以上犠牲 戦争犯罪の捜査が開始。力が支配する世界を許さないために

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対し、世界からの非難と包囲網が強化されている。

 国連憲章は、武力行使を原則として禁止(2条4項)しており、例外的に武力行使が容認されるのは自衛権行使の場合か、国連安全保障理事会の承認がある場合に限られる。

 ロシアの軍事行動が、いずれにも該当しないことは明らかであり、これは国際法上なんの正当性もない侵略であることは明らかだ。

 すでに100万人以上のウクライナの人々が家を出て避難民になったという(写真参照・ロイター)。まだとても寒い中、家や故郷を追われて行くあてもなく海外に避難するのはどんな気持ちだろうか。

■ 国際法違反の侵略行為と違法な軍事行動

 ロシアによる侵略行為に抗して、自由と独立を守るためにでウクライナの人々が勇敢に立ち向かっている。その姿は人間としての誇りに溢れ、感動的だ。

 しかし連日伝えられるのは軍事力で勝るロシア軍による国際人道法を無視した民間人攻撃、民間施設へと爆撃である。

 第二の都市、ハリコフでの政府庁舎などへの攻撃の生々しい映像が届いている。明らかに民間施設がターゲットとされ、30人以上の民間人が犠牲になっていると報じられている。キエフでもテレビ棟が攻撃され、5人が死亡したと報道されている。

 ウクライナ政府によれば、民間人の犠牲は2000人以上に及ぶという。侵略がなければ生きていたはずの命がこの数日間でこれほども奪われている。子どもも犠牲になっている。何ということだろうか。

 ロシアの使用兵器も重大な問題がある。

 報道によればクラスター爆弾が使用され、燃料爆弾の使用も懸念されているという。クラスター爆弾は1つの爆弾が多数の子爆弾として広範囲に拡散し、攻撃の対象が限定されないため禁止条約が発効している。

 また燃料気化爆弾は広範囲な空間を一気に高温の無酸素状態にし、そこにいる人々の酸素を奪って殺戮する極めて恐ろしい残虐兵器だ。大量の無差別殺人が可能な兵器であり、使用は人道に反する。

 民間人攻撃、民間施設の攻撃は明らかな戦争犯罪であり、無差別的な兵器もジュネーブ追加議定書に禁止されている。

 報道で見る限りにおいて、ロシアは侵略という違法行為に手を染めただけでなく、戦争に関するルールである国際人道法にも違反した作戦をエスカレートさせている。これは戦争犯罪の蓋然性が極めて高い

 毒を食らわば皿まで、ということだろうか?

 ウクライナの人々の抵抗が強いため、より民間人に犠牲を拡大する攻撃になっていくことが懸念される。勇敢に行動するウクライナの人たちの思いを踏みにじって、いくらでも民間人を攻撃し、虐殺してウクライナを屈服させるということがあってはならない。

 さらに、プーチン政権は、絶対あってはならない核兵器の使用までちらつかせ、ウクライナにみならず世界中を威嚇している。

 国際司法裁判所は1996年に勧告的意見で、核兵器の使用・威嚇は国家存亡の事態を除き、国際法違反であるとの判断を下している。

 核による威嚇を公然とするなど、第二次世界大戦後の秩序を深刻に脅かすものだ、核兵器のもたらす参加や非人道性は明らかで、自国の利益のために火遊びのように弄んでいいものではない。核戦争に勝者などなく、人類の存亡にかかわる惨劇を生むことはだれもが知るところだ。

■ 力が支配する世界を許さないために

 ロシア・プーチン政権による国際法違反の力による侵略と核の脅しに屈してよいのか、世界がいま問われている。

 このような違法な軍事行動や核の脅しにひるんで譲歩をしては、次に攻撃されるのは欧州諸国や台湾などのアジアかもしれない。核戦争も辞さないという脅しをかけられれば、核の傘に入っていても意味がない。

 このような無法な相手に立ち向かうには、力の論理が解ではなく、国際法、人権、主権の対等という人類が築いてきたルールで対抗する力を国際社会で一致して作るしかない。そして、いま、世界はその方向で一致結束しつつあることに注目すべきだと思う。

 まずなによりも、世界が一致して、軍事行動の停止、即時撤退を求めて一歩も引かないことが必要だ。

 それは非難決議が140か国以上の賛成で採択された国連総会特別会合でも、ラブロフ外相の演説に際し、外交官が一斉に退席した国連人権理事会の模様でも示されている。そして、世界中で、そしてロシア国内でも起きている反戦運動によって明確に表明されている。

 このような世論はじわじわとロシアを追い詰めている。私たち一人一人が声を上げることは無力ではないし、とても重要だ。

 そして、いまプーチン政権によって行われていることは侵略も、核による威嚇も、民間人攻撃も、全てが国際法に違法しており、プーチンの行動は戦争犯罪に匹敵する行為だということを明確にすることだ。

 これについても、急速に動きができている。

オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の検察官は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、直ちに捜査を実施すると発表した

 ICCのカーン主任検察官は声明で、ICC加盟国のうち39カ国から捜査実施の要請があったことを明らかにしたとされる。これだけの数の国がICCへの付託を求めた事実は大きい。ウクライナはICC加盟国ではないが、管轄権を受諾するとされている。早急に容疑が特定され、逮捕状などが出れば、プーチン氏が戦争犯罪容疑者となり、その孤立が一層際立つことになる。

 さらに決定的なのが、プーチン政権を利する資金の流れを一切止めるための経済的な手段だ。これも急速に包囲網が広がった。

 金融制裁に加え、世界有数な企業が続々とロシアでの事業からの撤退を表明している。企業が人権を尊重することが国際ルールとなる中、人権侵害や戦争犯罪を行う国の政府とのビジネスを継続することへの社会的批判は強く、投資家も消費者もこれを望まない。

 企業は、プーチン政権の重要な資金源となるロシア基幹産業との取引関係を断つことでロシアの違法行為に加担しない姿勢を明確にする必要がある。

 日本でもロシアとのビジネスに関わってきた企業にとっては深刻な問題だと思うが、核兵器が使用されるような世界になってしまってはすべての終わりであるし、侵略や戦争犯罪,核使用に加担した企業となってもいいのかが問われる。

 これは一時的にロシア経済に打撃となるかもしれないが、危険な挑戦を続けることの方がロシアの人々や若い兵士にとっては地獄だと思う。

 ロシアの政権の中に正常な判断能力を取り戻させるためには、このような軍事行動が経済的に極めて高い代償であることをだれの目から見ても明らかにするような経済的措置しかない。

■ ロシアだけの問題ではない。

 世界はかつてない危機のさなかにある。誰も黙って寝ている場合ではない。

 もし、ロシアによる軍事侵攻や核の脅しが容認されることになれば、それを確実に見て、真似をする国が出てくるだろう。

 そうした国々によって民主主義や自由、主権の平等などを尊重する世界は変容を迫られ、世界地図は権威主義に塗り替えられてしまうことが危惧される。

 国際法など関係なく、力が支配する世界になるのだ。

 国際法を無視し、人権弾圧にも何の通用も感じない、そのような核保有国が、核の威嚇によって私たちを支配する世界。

 そのような世界秩序を許してはいけないと思う。

 そして、自国の利益のために核兵器が使用される世界を許すことはできない。

 いま、世界は、そして私たちは瀬戸際にある。

 ウクライナに連帯をし、停戦と平和的解決を求めて声を上げること、そして唯一の戦争被爆国である日本の市民として、核兵器の威嚇・使用を許さない声を上げることがとても重要だ。(了)

参考

核兵器廃絶日本連絡会 政治指導者の無責任な「核共有」論に抗議します

ヒューマンライツ・ナウ【緊急声明】ロシア軍のウクライナ軍事侵攻を強く非難する

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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