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参院選東京選挙区・激戦の10候補を市区別得票数でグラフ可視化してわかった地域別の傾向(23区)

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
参院選東京都選挙区には、実に34人もの候補者が出馬した(写真:ロイター/アフロ)

 参議院議員選挙の投票日から1週間が経ちました。参議院議員選挙の選挙区選挙で、定数の最も多い東京都選挙区では、34名もの候補者が出馬し、都道府県別で全国3位の投票率(56.55%)となるなど、比較的関心が高い選挙となりました。東京都は有権者人口でも1140万人を超える大きな選挙区ですので、当選した候補者・落選した候補者問わず、得票に地域差が出ます。今回は、まず23区の地域別得票について、当落問わず全体順位上位10人の傾向をみていきたいと思います。(「市部」の分析はこちら

得票総数上位10名の自治体別順位

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 上記のグラフは、東京都選挙区の全体順位1位〜10位(うち6位までが当選)の候補者が、23区の各区で何位だったかを表した図表です。区によって候補者の順位が大きく異なることがわかります。このグラフですと、各候補者の特徴までは掴みきれないと思いますので、各候補者の特徴をみていきたいと思います。

得票総数上位10名の候補者別解説

 それでは、全体順位の高い順に、候補者別の地域傾向についてみていきます。

1位 朝日健太郎(自民党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、朝日健太郎氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、朝日健太郎氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を1位当選したのは、自民党公認の朝日健太郎氏です。

 6年の任期中に選挙応援などで存在感を出していただけでなく、生稲候補の公認が遅れたことで自民党の友好団体・支援団体のバックアップも多かったとみられ、結果的に1位当選に結びつくこととなりました。23区でみてもすべての区で1位もしくは2位と圧倒的な差であり、野党に1位を譲ったのが中野区(全体3位の山添拓氏)のみであったことを考えると、選挙戦を相当優位に進めていたことが分かります。特定の区で順位を大きく落とすようなことがなかったことからも、自民党の地域支部や職域支部がバックアップしたことが明らかであり、地域による「区割り」などが行われた形跡は(少なくとも23区では)見当たりません。

2位 竹谷とし子(公明党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、竹谷とし子氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、竹谷とし子氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を2位当選したのは、公明党公認の竹谷とし子氏です。

 公明党は参院選選挙区最大の「定数6」という東京都選挙区の特性もあり、当初から優位に選挙をすすめているとみられていました。23区での得票傾向は大きくバラツキがあり、江戸川区・葛飾区・足立区・荒川区といった下町の区や、公明党が衆議院小選挙区で議員を輩出している北区、また都議会議員を2人出している大田区では1位をとる一方で、千代田区・中央区・港区の都心3区では7〜10位に沈んでいます。全候補者の中で、23区のバラツキがこれだけ広い候補者は竹谷とし子氏のみであり、公明党や支持母体である創価学会の影響力にも地域差があることがわかります。

3位 山添拓氏(日本共産党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、山添拓氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、山添拓氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を3位当選したのは、日本共産党公認の山添拓氏です。

 日本共産党も参院選選挙区最大の「定数6」という東京都選挙区の特性により、当初から優位に選挙をすすめるとみられていました。23区では唯一、中野区で1位を取りましたが、これは後述のファーストの会荒木千陽氏の立候補により保守候補者が票を割ったことによるものとみられます。また、城西地区などで軒並み高順位となっていることからも、都内における日本共産党の地域性を垣間見ることができます。

4位 蓮舫氏(立憲民主党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、蓮舫氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、蓮舫氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を4位当選したのは、立憲民主党公認の蓮舫氏です。

蓮舫氏は、前々回・前回と東京都選挙区をトップで当選していましたが、今回は情勢調査などでも序盤こそ最上位をうかがうとみられていましたものの、開票をしてみると4位という結果でした。23区別でみても「1位」をとれた選挙区はなく、かろうじて台東区と目黒区で2位を取るという、これまでの強さとは打って変わった選挙となったといえます。一方、23区内で見た場合には、新宿区、北区、荒川区で「6位」となったものの、当選圏外である7位以下に沈んだ区はなく、立憲民主党の党勢が厳しい中でも候補者の底堅い人気を裏付けたともいえます。

5位 生稲晃子氏(自民党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、生稲晃子氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、生稲晃子氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を5位当選したのは、自民党公認の生稲晃子氏です。

 生稲晃子氏は、今回当選した候補者の中で、唯一選挙経験の無い「無所属」候補でしたが、立候補表明直後こそ当落線上と言われていましたが、後半にかけて急速に票を伸ばしたとみられています。23区での得票傾向をみると都心3区や下町などで票を伸ばしています。全体を通じて高くても3位、低くても7位ということで平均的に票を取ることができているとも言えるでしょう。

6位 山本太郎氏(れいわ新選組)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、山本太郎氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、山本太郎氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を6位当選したのは、れいわ新選組公認の山本太郎氏です。

 山本太郎氏は、衆議院議員を辞職して参議院議員選挙に臨む背水の陣を敷いてこの選挙に挑戦、以前参議院議員選挙に東京都選挙区で立候補した際の約66万票を10万票下回る結果になりつつも、かろうじて議席を獲得することができました。23区別にみると、以前衆議院議員総選挙に立候補した際の地元である杉並区で3位を獲得したほか、大票田である世田谷区でも3位を獲得したことが、当落の決め手となった可能性があります。

7位 海老沢由紀氏(日本維新の会)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、海老沢由紀氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、海老沢由紀氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を7位惜敗したのは、日本維新の会公認の海老沢由紀氏です。

 前回参院選では、日本維新の会は音喜多駿氏を擁立し、当選させました。その際の得票数が52万6千票あまりで、海老沢由紀氏はこれを上回る53万票あまりを獲得しました。一方、投票率が前回に対し約4.8ポイント上回ったことや、平成4年以降初めて100万票を超える得票者がいなかった激戦となったことも、落選の結果といえるでしょう。23区でみると、日本維新の会がかねてから強いと言われ東京都知事選挙などでも得票を積み重ねてきた都心3区(千代田区・中央区・港区)では2位を獲得する一方、主に下町では得票順位7位に甘んじることが多く、後述の荒木千陽候補が地盤としていた中野区では唯一8位となったことからも、国民民主党支持者との票の食い合いがあったことは明らかといえるでしょう。

8位 松尾明弘氏(立憲民主党)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、松尾明弘氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、松尾明弘氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を8位で落選したのは、立憲民主党公認の松尾明弘氏です。

 松尾明弘氏は、小川敏夫議員の引退に伴う立憲民主党東京都連の公募に応じ、都連内の選挙によって選ばれた候補者でした。直前の昨年10月の衆院選では東京2区から立候補をした関係もあり、今回も地元である文京区で5位となりましたが、その他の区では6位以内に入ることができていません。特に城東地域では10位となる区も多かったことがわかります。4位で当選した蓮舫氏との立憲民主党候補者の合計票は104万票あまりと、6年前に蓮舫氏が1人で得票した票数(112万票あまり)よりも少なく、今回の2人擁立という戦術ががそもそも厳しかったと言わざるを得ません。

9位 乙武洋匡氏(無所属)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、乙武洋匡氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、乙武洋匡氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を9位で落選したのは、無所属の乙武洋匡氏です。

 国政選挙である参議院議員選挙に無所属で立候補することは、確認団体制度などが使えず不利であり、報道などでも名前こそは書かれるものの情勢報道などでも伸びず、結果として9位で落選となりました。23区別にみても、選挙事務所を設置していた渋谷区こそ7位と健闘したものの、多くの区で8〜9位となっています。一方、10位に沈んだのも中野区と練馬区のみで、一定の底硬さが見える結果でした。中野区で10位となっていることから、海老沢氏らと同じく、保守層の候補者による食い合いが一定の影響を及ぼしたものとみられます。

10位 荒木千陽氏(ファーストの会)

2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、荒木千陽氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作
2022参院選 東京都選挙区 得票総数上位10名の自治体別順位(23区)のうち、荒木千陽氏をハイライト/東京都選挙管理委員会の情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社にて制作

 東京都選挙区を10位で落選したのは、ファーストの会の荒木千陽氏です。

 小池百合子東京都知事が連日応援に入り、国民民主党の推薦で玉木雄一郎代表も応援に駆けつける選挙戦でしたが、都議会議員時代の地元である中野区で当選圏内の6位、都民ファースト系の区長がいる千代田区で7位を記録したほかは、8位〜10位と伸びきらない結果でした。特に大票田である大田区や世田谷区などで10位となったことも、全体の票が伸びなかった要因と言えるでしょう。

地域別得票の偏りから見えてくるもの

 ここまでみてきたように、東京都は23区だけでも広く、住民の投票行動がだいぶ異なります。日本維新の会が強い都心3区、野党では日本共産党が強い城西地区、公明党が相対的に強い下町地区、更に個別の候補者が地盤としていた杉並区(山本太郎氏)、文京区(松尾明弘氏)や中野区(荒木千陽氏)といった地域の要素が複雑に絡み合って、今回の結果になったといえるでしょう。

 東京都は23区だけでなく多摩地域(都下)もあります。多摩地域(都下)の分析については「参院選東京選挙区・激戦の10候補を市区別得票数でグラフ可視化してわかった地域別の傾向(市部)」をご参考ください。

本文中の図表については、東京都選挙管理委員会のホームページにて公開されている情報をもとに、ジャッグジャパン株式会社で制作を行った。なお、図表の制作にあたっては、Flourishを利用した。動的なグラフはFlourishのサイトで確認することができる。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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