世界の最高峰、ロールス・ロイス ファントムに乗る ー後席試乗編ー
ロールス・ロイス ファントムに試乗しませんか?
ロールス・ロイス・モーターカーズの広報を務める、ミッチェル・ローズマリー氏から筆者のYouTubeチャンネル「LOVECARS!TV!」でロールス・ロイス ファントムを取り上げてみないか? というお誘いをいただいた。こんな機会は滅多にない。筆者はふたつ返事で試乗をお願いし、早速撮影と試乗の段取りを決めたのだった。
待ち合わせは東京駅のフォーシーズンズホテルのラウンジ。ここはロールス・ロイス・モーターカーズのアジア太平洋北部地域のオフィスが入るビルの隣でBMWと同じビルにある。ご存知の方も多いかもしれないが、ロールス・ロイス・モーターカーズは、1998年にBMWによって作られた会社。それまでのロールス・ロイスはVWが買収したが、商標権を手に入れたのはBMWで、その後2003年に新たな会社によるモデルとして登場したのが先代のファントムだった。つまり現在ロールス・ロイス・モーターカーズはBMWグループに属しているわけで、オフィスもここにあるわけだ。そしてローズマリー氏も以前はBMWの広報部に在籍していた。
今回ローズマリー氏が案内してくれたファントムは、2017年に登場した第2世代目に当たる。BMWが興したロールス・ロイス・モーターカーズとしての初のフルモデルチェンジであり、ファントムとしては8世代目に当たるモデルである。
ローズマリー氏いわく「このファントムから、新たにロールス・ロイス専用となる“アーキテクチャ・オブ・ラグジュアリー”を使うことを決めました。理由はやはり、ロールス・ロイスのモデルには独自の要求があるためで、これを将来的にも維持して価値を守っていく意味でも必要と判断しました。ちなみにこのアーキテクチャは既に発表されたSUVのカリナンにも採用されています。また電動駆動にも対応しているので、将来的にロールス・ロイスの電気自動車も登場する予定です」
という。先代のファントムは、専用のスペースフレームを用いて作られていたが、それ以外のモデルであるドーンやゴーストなどはBMWのアーキテクチャをベースに設計されていた。しかしながら今後はそうした共用をやめてロールス・ロイス専用のアーキテクチャを用いていくポートフォリオとしたわけだ。
なんと、運転手付きでファントム登場
待ち合わせた我々は早速地上に降りて、ファントムと対面する。するとファントムの横には、なんと運転手がいるではないか。
「今回はせっかくの機会なので、後席も体験してください」
とのこと。そのために運転手を用意してくれたのだった。こうした試乗は当然、初めての経験である。
ロールス・ロイス ファントムはご存知のようにロールス・ロイスのフラッグシップであり、それは同時に世界で最高峰のクルマであるということでもある。つまり、これ以上のクルマはない。しかしながら、
「購入される方の多くはクルマを買うのではなく、別荘や美術品、投資などと同じような位置付けで購入を考えます。また事業の成功などの際に、自分へのご褒美として購入される方も多いですね」
とローズマリー氏。ロールス・ロイスは日本で年間220台程度が販売されるが、その中でもファントムを購入する方は購入したことを明かさない場合が多いという。またファントムは基本的にオーダーメイドなので、ボディカラーや内装等も実に多岐に渡るという。確かにモーターショーの会場で、まるでアート作品と思えるような設えのファントムが展示されることがある。それもまた購入者がロールス・ロイス・モーターカーズのスタッフと入念な打ち合わせをして、自分だけのために設えたものを許可を得て展示しているのだという。筆者も以前、ジュネーブショーで後席に桜の刺繍を施したモデルを目にしたことがある。
BMWが興したロールス・ロイス・モーターカーズは現在、イギリスのグッドウッドに位置している。ここはクルマ好きで有名なマーチ卿の敷地内を使って行われる大イベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」が開催される場所と同じ敷地にある(といっても敷地が広大で同じ敷地感覚ではないが)。聞けばマーチ卿からこの場を借り受けてファクトリーを建てたそうで、ここで様々なカスタマイズが行える施設を構えているという。エンジンやその他はドイツから送られてくるが、組み立てや塗装などの工程はここで行われる。革を使って様々なものを作る工房はもちろん、漆工房等も備えているという。そうした場所で、オーナーのアイデアが反映された作品が製作されるわけだ。
実際に今回のファントムでは、運転席の目の前に広がるダッシュボードは、全て強化ガラスによるガラス張りとされている。ここは“ギャラリー”と呼ばれており、購入者が自分好みに作品を作れるという。中には写真を入れる人もいれば、アーティストの作品を入れる方もいるそうだ。要はアイデア次第で、いかようにもなるわけだ。
もちろんボディカラーも内装も、全てにおいてカスタマイズが可能であり、今回の試乗車も美しいボルドーとシルバーのツートーンとされる。しかもそれぞれのカラーが切り替わる協会には、職人による手書きのストライプが入れられている。観音開きの巨大なドアはボタンひとつで開く。そしてドアが開くと、目の前には広大かつ上品な設えの後席が広がっている。
今回試乗したファントムは、通常のモデルよりも全長とホイールベースが長い、EWB(エクステンデッド・ホイール・ベース)というモデル。通常モデルの全長ですら5770mm。そしてこのEWBでは全長は5990mmと、ほぼ6mとなる。ホイールベースは3770mmだから、ファントムを横から見たときに前後ホイールの間に、コンパクトカーが収まってしまうほどだ。もっともこれでも先代モデルから比べると10cm近く短くなっているという。
後席ドアを開けると、驚きの空間が広がる
ドアを開けた先には、ボディカラーとコーディネイトされた後席が設えられていた。ファントムの内装に用いられる革は、当然最高級のものとなる。以前のロールス・ロイスでは有名なコノリーレザーが用いられていたが、新世代のロールス・ロイスになってからは、ドイツのブランドの最高級品がもちいられている。この革に使われる牛は、蚊などの虫が生息しない標高の高いところで飼育されており、牧場は牛が体を当てても傷つかない柵で囲われているという徹底ぶりだ。
また足元に敷かれるカーペットも、とてもクルマ用とは思えないほどフカフカとしている。聞けばこのカーペットも一枚ものの羊の毛皮だそうで、なかなかこの大きさのものは手に入らない貴重なものだという。あらゆるものに驚きつつ、後席に収まりドアを閉める。するとそこにはまさに“静粛”と表現するに相応しい空間が広がる。まず驚きなのは静粛性の圧倒的な高さ。都心にいるのに、外の音が全く聞こえないのだ。
さすが「世界で最も静粛なクルマ」と言われるものだけあるし、実際にそこを目指して作られたことを痛感する静けさ。実際にファントムは、フロアや窓などあらゆる部分が二重構造となっており、ボディの二重部分にはフェルトが敷かれて発泡素材が入れられているという。結果ファントムに使われる遮音材は約130kgにも達するのだそうだ。
さらにシートに座ると、身体が包まれるように沈み込むのはもちろん、リクライニングも角度が深い。そしてオットマンはなんと、Cピラーのスイッチを押せば、いま自分が足を置いている床そのものが持ち上がってくる仕組みとなる。加えてアームレスト先端に置かれるスイッチを押せば、フロントシートの背もたれからテーブルが降りてきて、大きなモニターが点灯する…と至れり尽くせり。もちろん、アームレストの根元にはシャンパンクーラーが置かれている。
実際に走り出すと、ロードノイズやエンジン音は当然聞こえない。コンチネンタル社と共同開発した22インチのタイヤは、サイレントシール構造を採用した専用品だ。ローズマリー氏いわく
「ファントムのオーナーは移動の時間を、この後席で心ゆくまでリラックスできる時間とするわけです」
と説明してくれた。筆者はここで目を瞑ったら、間違いなく寝てしまいそうだ。
都会の喧騒から完全に隔離されることで、移動の時間は確かに貴重なリラックスタイムになる。それは車内にいるというよりも、自分だけのプライベートルームにいるという感覚の方が近いだろう。そしてこの瞬間を手に入れるためのファントム…と考えると、なるほど自分へのご褒美という表現にも納得がいく。
そんな様々を思いつつ上を見ると…そこには満点の星空が広がっていた。これはオプションで用意される“スターライトヘッドライナー”と呼ばれる装備で、職人の手によってLEDの星が1340個も埋め込まれているという。しかもこの星空、自分が生まれた年月時の星空を再現することもできるという。
まさに驚きの連続。実際のその圧倒的な作りの様子は動画を参照いただければと思う。そして後席をひとしきり味わった後に、今度は自分でファントムを運転してみることにした。ローズマリー氏も「最近のオーナーの方は、ご自身で運転される方が少なくないのです」というファントムは、自分で運転すると一体どんな感覚なのか?
それは次回、試乗編でお届けしたい。