次世代戦闘機のトレンドは大型化と航続距離の増大
航空自衛隊の次期戦闘機(仮称F-3)は双発の大型戦闘機が計画されています。これに対し財務省は運用費が嵩む大型戦闘機を止めさせて安い小型戦闘機に変更させようと「近年では戦闘機は小型化が一般的」という資料を作成しましたが、現実にはそのようなトレンドは存在しません。
実際の技術的な傾向としては、従来機と比べてステルス戦闘機は兵装と燃料を全て内装する必要があるので、胴体が大きく重くなる傾向があります。
世界の戦闘機トレンドと異なる財務省の間違った資料
この財務省の資料の間違った部分は以下の通りです。
- F-22の後継はF-35ではないので、矢印を引いてはいけない。
- 全長×全幅×全高では胴体サイズが比較できないので不適当。
- 推力重量比の数値に誤りがある。
財務省の資料はF-22(双発戦闘機)の後継がF-35(単発戦闘機)であるかのように比べている時点で間違いです。F-22の後継はNGADです。
またアメリカ空軍の主力戦闘機はステルス戦闘機(F-22、F-35)に切り替わりつつありますが、非ステルスの従来機(F-15、F-16)と比べて軒並み重量は増大しています。
アメリカ空軍の双発戦闘機
- F-15(自重12.9トン)→ F-22(自重19.7トン)
アメリカ空軍の単発戦闘機
- F-16(自重8.3トン)→ F-35(自重13.3トン)
これはステルス戦闘機はレーダーに映り難くしたいので、兵装を外装せず兵器倉(ウェポンベイ)に内装するからです。なるべくなら燃料を搭載する落下式増槽(ドロップタンク)も使いたくないので、機体内に全て納めようとすると胴体は太くなり重くなってしまいます。多くの搭載物を内装するために胴体そのものが大きくなってしまうのです。
F-22はドロップタンクが用意されていますが、F-35に至ってはドロップタンクが用意されていません。F-35の胴体が特に太いのは燃料を全て機内のみに搭載しつつ、F-16と同等以上の作戦行動半径を実現するためです。
また財務省の資料では「全長×全幅×全高」で比較しているためにF-2(F-16改造型)がF-35よりも大きい分類となっていますが、実際にはF-35の方が胴体は太いので自重は1.6倍近くあり、F-35の方がF-2よりも大きな戦闘機とする方が常識的な分類です。F-35は太短いのです。
F-15とF-22の比較も同様です。「全長×全幅×全高」の数字ではF-15がかなり大きく見えますが、実際にはF-22の方が胴体が太いのでF-22の方が重くなります。つまり財務省の比較方式でステルス機と非ステルス機の大きさを比べるべきではありません。
全長×全幅×全高の掛け算では箱状の体積になってしまいます。箱に近い形状の戦車の車体比較ならともかく、戦闘機の大きさ比較で使うには向いていません。飛行機だと翼の長さで大きさを比較することになるので、胴体の大きさが比較できないからです。
※飛行機の大きさを全長×全幅×全高で比較するなら胴体形状や翼の形状を考慮する必要がある。
※戦車の大きさ比較でも砲身の長さ抜き、高さは天井高で比較したほうがよい。
おそらく、財務省の資料は不適当なことを自覚しながら自分の主張に都合の良いように数字を見せかけるように、意図的に作成されているのでしょう。
次世代長距離侵攻戦闘機NGAD
もしもアメリカ空軍が双発戦闘機を捨てて単発戦闘機に全て切り替える方針ならば「近年では戦闘機は小型化が一般的」と言えるかもしれませんが、実際には双発のF-22戦闘機の後継にはNGADが計画されており、これはおそらく双発になる上に機体は大型化します。何故ならF-22を上回る長大な航続力が与えられる予定だからです。
今年6月の空軍マガジンに掲載されたブラウン空軍参謀総長の発言にこうあります。NGADはF-22を上回る航続距離を与えられます。それは機内搭載燃料の大幅な増加を意味するので、兵装搭載量の増大も合わせると、機体は確実に大型化します。
日本財務省の資料が述べる「近年では戦闘機は小型化が一般的」などという世界的トレンドが現実には存在しないことは、このアメリカ空軍のNGADの基本コンセプトだけで証明されます。それどころかNGADは従来の戦闘機とは全く異なる、爆撃機に近い長大な航続力が与えられた大型戦闘機になるでしょう。
日本と独仏の新型双発戦闘機
日本航空自衛隊の次期戦闘機(仮称F-3)のイメージ絵を見る限り、かなり大きな主翼を装備しています。これはNGADほどではないにしても近い性格の長距離大型戦闘機を志向しているとすれば、世界の戦闘機の最新トレンドに沿っていると言えます。
ドイツ/フランス共同開発の次期戦闘機FCAS/SCAFも、現行で使用している戦闘機のユーロファイター/タイフーンとダッソー・ラファールよりも大型化することが確実です。
実のところ日本財務省の言う「推力重量比や機体サイズの観点から小型化が一般的」という戦闘機は、第4世代戦闘機の末期にあたるユーロファイター/タイフーンとダッソー・ラファールが該当します。小さめの機体に大推力エンジンを与えて高機動を実現するという1980年代前半までの設計思想です。しかしこれは一般的な傾向とはなりませんでした。
1990年代にアメリカの第5世代戦闘機であるステルス技術を用いたF-22が出現し、これ以降の世代の戦闘機はステルス能力が必須となり、機体は兵装と燃料の内装の為に大型化していきます。
そして2030年頃に配備されるであろう第6世代戦闘機NGADは、主戦場を広い太平洋戦域と定めたがゆえに長大な航続力が求められ、大量の機内燃料を積み込むために更に機体は大型化します。
独仏のFCAS/SCAFよりも、主戦場が太平洋である日本の次期戦闘機の方がアメリカのNGADに近い性格の機体になるのでしょう。
ロシアと中国の小型ステルス戦闘機
アメリカのNGADとは傾向が異なる小型ステルス戦闘機をロシア(チェックメイト)と中国(J-31)が開発中ですが、これらはアメリカのF-35に相当する戦闘機です。
これらを大型ステルス戦闘機のF-22、Su-57、J-20などと比べて「近年では戦闘機は小型化が一般的」と思い込むのは間違いです。ロシアにとって主力ステルス戦闘機はSu-57であり、チェックメイトは安いことを売りにした輸出用です。余裕が生じればロシア本国でもチェックメイトを採用する可能性はありますが、その場合でも主力はSu-57のままです。
中国のJ-31も元々は輸出用です。中国軍向け用にJ-31の艦載型J-35も開発中ですが、これは空母に載せるにはJ-20が大き過ぎるのではという懸念があるからだと思われます。
つまり「近年では戦闘機は小型化が一般的」というトレンドはやはり存在しません。新しい小型戦闘機も必要な顧客に用意されますが、アメリカもロシアも中国も大型戦闘機を主力に据え続けるからです。そして独仏と日本も同様に大型戦闘機を将来の主力に据えようとしています。
イギリスの新型戦闘機テンペスト
なおイギリスの新型戦闘機計画テンペストは独仏のFCAS/SCAFよりも小振りな機体を計画しているとされています。もしかすると日本財務省が航空自衛隊の次期戦闘機に小型戦闘機を推しているのは、日英共同開発に持ち込もうという意図があるのかもしれません。
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