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注目の音声SNS「Clubhouse」の問題・課題を考える

塚越健司城西大学助教(情報社会学)。技術と人間の関係に注目
新しいSNSを前に、問題点を整理しておこう(提供:barks/イメージマート)

2021年1月下旬、突如として音声SNS「Clubhouse」が話題となり、Twitterでも連日トレンド入り。様々なメディアからも、Clubhouseに関する記事が公開されています。

筆者も本記事公開の数日前にClubhouseのアカウントを取得し利用を開始していますが、ユーザーはとまどいながらも楽しんで利用しているように思われます。一方、Clubhouseには問題や課題についても指摘されていることから、本稿は問題の整理を中心に記述します。

Clubhouseの簡単な概略(すでに知ってるという人は飛ばしても可)

Clubhouseの概略や利用方法については、多くの記事が公開されています。Yahoo!ニュース個人においても、ブロガー/noteプロデューサーの徳力基彦氏による記事等が公開されています。本稿は問題や課題を中心としますが、まずは下記でClubhouseの簡単な概略を示したいと思います。

Clubhouseは米「Alpha Exploration」が2020年3月に立ち上げたソーシャルサービスです。2021年1月24日(現地時間)に新たな資金調達を行うこと、そしてその資金の一部がクリエイター助成プログラム(クリエイターの収入源)に充てられると発表されました。こうした背景もあり、日本でもITスタートアップに関わる人々を中心に、一気に注目を浴びるようになりました。

Clubhouseはユーザーが自分の「room=部屋」をつくり、そこで自由に話すことができるサービスです。聴衆は聞くだけでも、途中で話に参加することもできます。即席の「参加できるポッドキャスト」とも呼ばれるClubhouseですが、音声ログも残らないため、気軽に雑談を楽しむことが可能です。

もちろん、雑談が思わぬアイディアを創出することもあります。例えば、本来は競争相手である企業のエンジニア達が一堂に会して雑談する中で、業界にとって利益になるアイディアが生まれる。こうした「セレンディピティ(偶然のひらめき)」も期待されています。

Clubhouseは現在招待制で、招待されたユーザーは2人まで招待が可能です。招待されるためには、招待する側が相手の電話番号を知る必要があり、アカウント登録後は招待したユーザーの名前が示されます(その他の方法もありますが、基本的にはこの方法が主流なものとなります)。またアカウントは実名制となっています。

このように招待制や実名制、また電話番号という、あまり変わらないが故に重要な個人情報を登録条件とするなど、アカウント取得に対するハードルは高いと言えるでしょう。こうした点は、不正目的のアカウント作成の防止等、セキュリティを重視したものと考えられます。また、招待したユーザーの名前がアカウントに表示されるなど、人間関係を中心に据えることで「不適切な行為を取らせない」ための措置だと思われます(とはいえ、今後ユーザーが増える中で顕在化するであろう問題については、後述します)。

ClubhouseはZoom等のオンラインツールで欠如した「雑談」を、画面疲れなしで提供できる点から、コロナ禍が流行を後押ししたとも考えられます。discord等、音声チャットサービスは他にもありますが、Twitterも「Audio Spaces」という音声サービスのテストを開始しており、音声SNSの競争は今後ますます激しくなると考えられます。

想定される問題・課題

以下では、Clubhouseが潜在的に抱えている問題について考えます。また前提として、Clubhouseのコミュニティ・ガイドラインには、以下で記述する問題の多くは禁止されています。ですが、それらすべてを禁止することは困難であることが予想されるため、以下では想定される点を記述します。ご了承ください。ガイドラインは英語ですが、翻訳サイトを利用するなどして、一読をおすすめします。

①FOMO(取り残されることへの恐れ)、いじめの助長

まず、欧米を中心に懸念が指摘されている「FOMO(Fear Of Missing Out):取り残されることへの恐れ」があります。日本でもとりわけ若年層において、LINEグループでのやりとりを見逃さないためにスマホから目が離せない、という指摘があります。現在ではインスタのDM等、様々なツールが増えたため、すべてに返信が基本的に困難であり、「スルー」することで非難されるリスクは減少しつつあります。とはいえ、未だFOMOへの対処は課題です。ここで問われているのは、一言で言えば

「同調圧力」からの解放

と言えるでしょう。この、他者とのコミュニケーションに関する距離の問題は、SNS全般に関係する社会的課題です。

このFOMOに関連して、いじめの問題も考えられます。例えばいつものグループでトークを開始したところ、一人だけ参加できなかったとします。するとログも残らないことから、「ノリが悪い」として悪口がはじまってしまう、という懸念です。それは当然いじめに繋がるものです。ログが残らないからこそ、気軽に「悪口大会」がはじまってしまえば、前述の「同調圧力」によって、いじめが加速する危険性があります。

こうしたいじめはこれまでのSNS、もっと言えばSNS以前から存在する問題ですが、招待枠の緩和等が生じてユーザーが増加し、若者にも普及するとすれば、今後は大きな問題になると考えられます。

※Clubhouseのコミュニティ・ガイドラインでは、利用には18歳以上であるというルールが明示されています。もちろん、いじめも禁止されています。この点が現実に守られるかが問われています。

②詐欺や差別

ログが残らないという点は気軽に話ができる一方、詐欺や差別を助長するという懸念もあります。有益なテーマだと思ってroomに参加していたら、実は詐欺目的であり、巧みなトーク(会話もできる)の結果、気づいたら金銭を騙し取られるという問題です。音声は文字よりも感情がよりダイレクトに伝わります。文字では騙されない人が、声では騙されてしまう、という可能性は否定できません。とりわけ、コロナ禍で多くの人が経済的に苦境に立たされています。この点にも注意が必要でしょう。

またヘイトスピーチなど、差別的な言葉が横行するという問題もあります。すでにアメリカでは、人種差別や女性差別に関する発言が指摘されています。この点はTwitterなど、他のSNSでも指摘されている問題であり、自由な空間が他者を排除する空間へと変質してしまう問題と言えるでしょう。

すでに述べたように、Clubhouseにはガイドラインがあり、他のSNSと同様にヘイトやいじめを禁止しています。またClubhouseには悪質なユーザーを通報する機能があり、ガイドラインによれば、通報した場合は音声が一時的に録音され、審査が行われるとあります。こうした対処を運営が、今後ユーザーが増える中で適切に行えるか否かが問われます。

③電話番号の取り扱いに注意

現在のところClubhouseへ招待されるには、電話番号が必要です。Twitterなどでも招待を希望する人がつぶやいていますが、悪事を考える者が、電話番号の取得を目的にSNSで「招待するから電話番号を教えて」と近づいていく懸念があります。電話番号はそうそう変わることのないものであり、個人情報として重要なものです。

もちろん概略で述べた通り、電話番号の利用は不正を目的としたアカウントを防止するといったセキュリティ上の設計であると考えられます。その意味で、電話番号を利用すること自体は、むしろセキュリティに配慮したものと言えるでしょう(この点は強調しておきたいと思います)。とはいえ、電話番号収集を目的とした詐欺について、アカウント開設を望むユーザーは注意してください。

以上、Clubhouseの問題・課題について述べました。もちろん、Clubhouseには可能性も詰まっており、本稿はそれを否定するものではありません。本稿で述べてきた点を意識した上で、今後のClubhouseの展開に注目していきたいと思います。

城西大学助教(情報社会学)。技術と人間の関係に注目

1984年生まれ。城西大学助教。専攻は情報社会学、社会哲学。コンピュータと人間の歴史など幅広く探求。得意分野はネット社会の最先端、コンピュータの社会学など。著書に『ニュースで読み解くネット社会の歩き方』(出版芸術社)『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)その他共著など多数。 TBSラジオ『荻上チキ・Session』Screenless Media Lab.コーナー、Tokyo FM『ONE MORNING』(水木コメンテーター)など、メディア出演多数

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