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中国、「社会信用度」の低い国民の鉄道・航空機利用を制限へ(訂正あり)

塚越健司城西大学助教(情報社会学)。技術と人間の関係に注目
中国政府が計画する社会信用システムの構築が進んでいます。(写真:ロイター/アフロ)

 中国政府は「社会信用システム(social credits system)」計画を2014年に発表しています。社会信用システムとは政府が国民の様々な個人情報をデータベース化し管理するもので、2020年の完成を目指しています。ですがこのシステムには、集められた情報から独自の基準で国民を格付けし、点数の高い者を優遇したり、逆に低いものに何らかの制限を課すものも含まれており、実際にそのような制限が実行されはじめました。(訂正を参照)

社会的信用が低いと飛行機に乗れない

 中国政府はこのほど、社会信用ポイントの低い国民に対して、高速鉄道や航空機の利用を最長一年間禁止にする処置を、2018年5月1日から開始すると発表しました。中国では高速鉄道や航空機を利用する際には統一の身分証での番号登録が必要なのですが、点数の[信用の]低い者は利用を拒否されるというものです。

 対象となる人は、「テロについての誤った情報を広めた人」「フライトに関する問題を引き起こした人」「電車の中で喫煙した人」「期限切れのチケットを使った人」また社会保険料の納付をしなかった雇用者や、罰金を納めなかった人なども該当します

 2017年に中国政府は、過去4年の間に社会的不正を行った615万人のフライト利用を禁じた、と述べていることもあり、今回の処置は前から準備されていたことが推察されます。

スマホからも測定される「信用」

 社会信用システムの構築は、政府だけのものではありません。中国ではスマホからQRコードを読み取るだけで簡単に決済ができる「スマホ決済」が普及しています。中でも「アリペイ(Alipay)」を所有するアリババグループ傘下の信用調査機関「芝麻信用」は、独自の基準でユーザーを査定し、信用度を350〜950点で評価しています。これは信用度を5つの観点(身分、支払い能力、信用情報、交友関係、消費の特徴)から検討し、ユーザーに点数を公表。点数が高ければ低利融資や保証金が不要となるなどの利点があります。

 逆に点数が低ければ冷遇され、例えば一定の点数を下回るユーザーはレンタルマンションの予約が取れなくなる、といった処置が取られています。「芝麻信用」はアリババグループが運営する民間企業ですが、WIREDの報道ではすでに一部政府と協力してブラックリストを作成したりと、民間企業のデータが政府の社会信用システムに寄与する方向で進んでいます(この問題について筆者は別媒体で論じました)。ただしアリババグループは、政府を含む第3者に事前の同意なくユーザー情報を提供しないとも述べています

 また芝麻信用にせよ政府の信用システムにせよ、その基準は非公開となっていることから、特定人物のスコアを不当に低く設定する可能性もあります。このようなシステムの不透明性や、そもそも格付けによる個人の権利侵害が許されるのか、といった批判も以前から生じています。

監視と管理が進む中国

 国家による国民の統制を目指す中国では、インターネットの利用を制限する「グレート・ファイアウォール(金盾)」などが有名です。その他にも、中国国内には監視カメラが1億7000万台あると言われており、近年発展が著しいIT技術の中でも、特に顔認識技術が政府によって利用されています。

 2018年2月には、警察官が人工知能を搭載したグラスを着用し、車のナンバーと運転手の画像を政府のブラックリストと照合し、一致した場合は警告を発するシステムが開発されています。このシステムによって交通違反から人身売買まで、多くの犯罪者の逮捕に貢献しているとのことですが、プライバシーや人権といった観点から批判の声も多く聞かれます。

 いずれにせよ中国では今後、利便性と引き換えに様々な統制が行われることが予想されます。国外に対しても国内に対しても、中国がどのような政策を行うのか、今後も注視する必要があるでしょう。

(追記)3月22日12:30分 一部内容を加筆し、アリババグループによる政府との関与を否定する声明について追加しました。

(訂正)3月25日7:00 

 本記事発表後、中国の今回の処置は社会信用格付け=スコアとは異なるものとの指摘をいただきました。

 本記事作成において中国語が不慣れな筆者は主に欧米の記事を参考にしたのですが、ロイターの英語記事には以下の記載があります。

China has flagged plans to roll out a system that will allow government bodies to share information on its citizens’ trustworthiness and issue penalties based on a so-called social credit score.

出典:China to bar people with bad 'social credit' from planes, trains(reuter)

訳すと

中国は政府機関が市民の信頼性に関する情報を共有し、いわゆる社会信用スコアに基づいて罰金を科すシステムを導入する計画を発表した。

 となります。このsocial credit score(社会信用スコア)ですが、ロイター記事の元ネタと思われる国家発展改革委員会の発表はスコアとは少し意味が異なります。

 翻訳ソフトを利用して読んだ限りではありますが、発表は問題行動を行った人物をブラックリスト化し、それに応じて乗車制限するという旨のものでした。つまり個人を点数化した社会信用スコアから判定された処置というより、特定の迷惑行為に対するペナルティ、に近いものでした。

 少々複雑ですが、中国では政府による「社会信用システム」計画があり、それとは別に芝麻信用等の民間企業による「社会信用スコア」があります(中国の中央銀行は2015年1月に芝麻信用など8社を信用評価機関として認定しています)。

 政府と民間企業が親しい関係にあり、また将来的になんらかの連携を目指すことが予想されるというのは記事でも指摘した通りであり、またウォール・ストリート・ジャーナル誌の報道によれば、一部の地方自治体ではすでに個人のスコア化が実験的に行われているとのことです(日本語の解説記事もありました)。ですが現状において政府全体として保有している個人の「社会信用スコア」があるとは言い切れません(もちろん将来的には十分考えられます)。

 

 中国の社会信用システムは2020年までに導入が予定されており、今回の処置も社会信用システム構築のため、という側面も見受けられます。また欧米では前述の通り社会信用システムから国民をスコア化する社会が到来だろう、といった議論がなされています。とはいえ、社会信用システムが国全体として機能するときに、具体的にどのようなものになるかは現状では不明瞭な点があり、「スコア化」による個人の全面的な管理が行われるかに関して断定はできません。

 繰り返して述べれば、今回の処置は大枠では社会信用システムの観点から信用できない者に対して利用制限を行うというものですが、狭義には特定の迷惑行為に対するブラックリスト化とその対応であり、個人がデータベースからすべて格付けないし点数化=スコア化される社会が到来した、と断定することはできません。いずれにせよ、全国民のスコア化による管理とブラックリストに応じた利用制限は次元が異なるものであり、今回の処置は後者に近いものでした。

 長くなりましたが、今回の処置に関する誤解を伴う記述、また断定できない政府レベルの格付けという記述に関して、謹んで訂正させていただくと共に深くお詫び申し上げます。

最後に、ご指摘いただいた中国事情に詳しいフリーライターの山谷剛史氏(Twitter:@YamayaT)にこの場を借りて御礼申し上げます。

城西大学助教(情報社会学)。技術と人間の関係に注目

1984年生まれ。城西大学助教。専攻は情報社会学、社会哲学。コンピュータと人間の歴史など幅広く探求。得意分野はネット社会の最先端、コンピュータの社会学など。著書に『ニュースで読み解くネット社会の歩き方』(出版芸術社)『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)その他共著など多数。 TBSラジオ『荻上チキ・Session』Screenless Media Lab.コーナー、Tokyo FM『ONE MORNING』(水木コメンテーター)など、メディア出演多数

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