菅総理による日本学術会議の委員の任命拒絶は違法の可能性
本日、菅義偉首相が、日本学術会議が推薦した同会議の会員候補者105名のうち6名の任命を拒絶し、残りの99名のみ任命しました。東京慈恵医大の小沢隆一教授、早稲田大学の岡田正則教授、立命館大学の松宮孝明教授、東京大学の加藤陽子教授の名前が挙がっています。
日本学術会議の目的
同会議のホームページによると、目的は以下のようにされています。
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。
・科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
・科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。
最近でも、下記のように性的マイノリティの権利保障に関して法整備の提言を出しています。
会員選任の仕組み
政府からの独立性を保つため、日本学術会議の会員の選任については「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」(日本学術会議法7条2項)とされています。同法17条は「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」としています。
このように、同会議の推薦に「基づいて」とされているのに、総理大臣が同会議の推薦を無視して会員の任命を拒絶することができるのか、ということがさしあたって問題になります。
今日の政府の見解
この点、今日の午前中の加藤官房長官の記者会見で下記のやりとりがなされています。時刻は動画上問答が始まる時刻を示します。法的に重要な部分を太字にします。
9:07 朝日新聞キクチ 重ねてお伺いします。今回任命に至らなかった理由として、今、明確な理由はないように私は受け取りましたけど、首相の政治判断で任命しなかったと理解してもいいんでしょうか。またあの、もしそうであれば、憲法が保障する学問の自由の侵害に当たると思うんですけれども、官房長官のご認識を
9:33 加藤官房長官 まず一つは、個々の候補者の選考過程、理由について、これは人事に関することですから、これはコメントは差し控えるということはこれまでの対応であります。それから、先ほど申し上げたように、日本学術会議の目的等々を踏まえて、当然、任命権者であるですね政府側が責任を持って行っていくってことは、これは当然のことなんではないかという風に思います。で、その上で、学問の自由ということでありますけれども、もともとこの法律上、内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するっていうことは法律上可能となっておりますから、まあ、それの範囲の中で行われているということでありますから、まあ、これが直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらないという風に考えています。
もともと、内閣総理大臣には、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使することが法律上可能、というのが菅政権の見解のようです。
国会答弁との矛盾
しかし、選挙により日本学術会議の会員を選ぶ制度に代わり、現在の推薦制度が導入された1983(昭和58)年の国会審議では下記の政府答弁がされています。
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○粕谷照美君 ~略~さて、それで推薦制のことは別にしましてその次に移りますが、学術会議の会員について、いままでは総理大臣の任命行為がなかったわけですけれども、今度法律が通るとあるわけですね。政府からの独立性、自主性を担保とするという意味もいままではあったと思いますが、この法律を通すことによってどういう状況の違いが出てくるかということを考えますと、私たちは非常に心配せざるを得ないわけです。
いままで二回の審議の中でも、たしか高木委員の方から国立大学長の例を挙げまして御心配も含めながら質疑がありましたけれども、絶対にそんな独立性を侵したり推薦をされた方を任命を拒否するなどというようなことはないのですか。
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○政府委員(手塚康夫君) 前回の高木先生の御質問に対するお答えでも申し上げましたように、私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。確かに誤解を受けるのは、推薦制という言葉とそれから総理大臣の任命という言葉は結びついているものですから、中身をなかなか御理解できない方は、何か多数推薦されたうちから総理大臣がいい人を選ぶのじゃないか、そういう印象を与えているのじゃないかという感じが最近私もしてまいったのですが、仕組みをよく見ていただけばわかりますように、研連から出していただくのはちょうど二百十名ぴったりを出していただくということにしているわけでございます。それでそれを私の方に上げてまいりましたら、それを形式的に任命行為を行う。この点は、従来の場合には選挙によっていたために任命というのが必要がなかったのですが、こういう形の場合には形式的にはやむを得ません。そういうことで任命制を置いておりますが、これが実質的なものだというふうには私ども理解しておりません。
政府は、総理大臣の任命は形式的なもので、会員の任命を左右するものではない、と明確に答えているのです。さらに、同じ日の審議で以下のようにダメ押しされる形で答弁を繰り返しています。
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○粕谷照美君 たった一人の国立大学の学長とは違う、セットで二百十人だから、そのうちの一人はいけませんとか、二人はいけませんというようなことはないという説明になるのですか。セットで二百十人全部を任命するということになるのですか。
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○説明員(高岡完治君) そういうことではございませんで、この条文の読み方といたしまして、推薦に基づいて、ぎりぎりした法解釈論として申し上げれば、その文言を解釈すれば、その中身が二百人であれ、あるいは一人であれ、形式的な任命行為になると、こういうことでございます。
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○粕谷照美君 法解釈では絶対に大丈夫だと、こう理解してよろしゅうございますね。
154
○説明員(高岡完治君) 繰り返しになりますけれども、法律案審査の段階におきまして、内閣法制局の担当参事官と十分その点は私ども詰めたところでございます。
なお、この前の5月10日の審議では、官僚だけでなく、国務大臣である丹羽兵助・総理府総務長官も、総理大臣の任命は形式的だということを「守らしていただくことをはっきり申し上げておきたいと思います。」という答弁をしています。
この政府の見解だと、総理大臣の任命自体が要らないように思われますが、5月12日のこの後の審議で、選挙を経ないで公務員に就任するから、付随的な行為として形式的な任命を行わざるを得ない、と答えています。これ自体は、公務員の労働問題を行う筆者としても、なるほどな、と思う理由付けです。
違法の疑い
しかし、そうすると、会員の人事(任命)を通じて日本学術会議に監督権を行使することが法律上可能、という加藤官房長官の記者会見の発言は、日本学術会議法7条2項について、総理大臣の任命権は形式的なものに過ぎない、という政府の鉄板の国会答弁(従って公権解釈)と明確に矛盾するのではないか、という疑いが出てきます。
そもそも、このような選別を行うことが学問の自由を保障する日本国憲法23条に反する、という重大な指摘もされています。憲法違反や、法律違反をしていないか、十分なチェックが必要でしょう。