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「松本人志不在」の日常を知らない約35年、ファンや番組視聴者は活動休止をどう受け止めるべきか

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:Splash/アフロ)

お笑いコンビ、ダウンタウンの松本人志さんが1月8日、所属する吉本興業を通して芸能活動の一時休止を発表しました。松本人志さんは2023年12月27日発売の『週刊文春』で、2015年に女性に対して性加害をおこなったと報じられていました。

松本人志さんは報道内容を否定し、吉本興業も事実に反するとして「法的措置を検討していく予定」と声明を出していました。一方『文春』も記事について「裏付け取材を尽くしたもの」とし、内容に関しても「十分に自信を持っています」と反論。『文春』は告発者であるA子さん、B子さんの体験談を掲載しましたが、SNSではほかにも「自分も被害に遭いかけた」と松本人志さんの件をにおわせる投稿者が複数確認されました。

松本人志さんは1月8日、自身のXで「事実無根なので闘いまーす。」と記述。続けて「それも含めワイドナショー出まーす。」とレギュラーMCを担当していた番組『ワイドナショー』(フジテレビ)への出演を報告しました。

日本の芸能史に残る「休止劇」、その衝撃の大きさ

日本の芸能界史上に残る「休止劇」に、お笑い界、メディアはもちろんのこと、一般の方たちからも驚きや動揺の声が続出しました。

それもそのはず。ダウンタウンや松本人志さんは、関西のお茶の間にとっては1987年のバラエティ番組『4時ですよーだ』(毎日放送)から、そして全国的には1988年の『夢で逢えたら』(フジテレビ)や翌年の『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ)、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)あたりから、バラエティ番組を中心に、ドラマ、CM、音楽シーンなどで途切れることなく活躍し続けてきたからです。

極端に言えば、日本は約35年も「松本人志不在」の日常を知らないのです(もちろんダウンタウンや松本人志さんのことを「見ない」「嫌い」という人もいるはずですが、意識下には必ずその存在はあったと思います)。

約35年となると、それこそ年齢幅も上から下までということになります。若者も気付けばそこにダウンタウンや松本人志さんがいたのではないでしょうか。しかもダウンタウンは、大ベテランでありながら「好きなお笑い芸人」のランキングでも長きにわたって上位に食い込む人気コンビです。松本人志さん自身も、たとえば年末の国民的行事『M-1グランプリ』をはじめとするさまざまな賞レースでは、審査員やアンバサダーでありながらいつも“大会の顔”をつとめ、その一つひとつの発言がニュース記事などで多数出回ります。それほど影響力のある「お笑い界のレジェンド」だからこそ、今回の活動休止の衝撃はかなり大きなものがあったのだと思います。

被害を訴えている方がいらっしゃる以上、SNSなどでのこういった声はふさわしいものではありませんが、それでも今回の報道内容とは線を引く形で「ショック」と口にする投稿者が目立ちます。

『文春』だけではなく、他メディアや扇動性を持ったSNS投稿者に対する法的措置も考えられる

吉本興業は、松本人志さんより「様々な記事と対峙して、裁判に注力したい旨の申入れがございました」とし、「このまま芸能活動を継続することで、多くの関係者や共演者にご迷惑やご負担をお掛けすることになる一方、裁判との同時並行では、これまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまう」と説明しました。

「様々な記事と対峙」という部分を見ると、『文春』だけではなく、他メディアに対してもその名誉を著しく傷つけたとされる報道内容をあらためて精査し、場合によっては訴えを起こすと考えられます。

また同じく名誉を傷つける意味合いがあったり、事実とは異なる内容であったりし、そしてそれを扇動性を持ってSNSで投稿・拡散した投稿者に対してもなんらかの法的措置がなされるのではないでしょうか。

ファンや番組視聴者に必要なのは“現実”への覚悟

前述したように、ダウンタウンや松本人志さんの番組を好んで鑑賞する視聴者らの多くは、今回の活動休止を「ショック」と捉えている傾向が強いように思えます。

『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』、『ダウンタウンDX』(日本テレビ・読売テレビ)、『水曜日のダウンタウン』(TBS)、『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ)、『まつもtoなかい』(フジテレビ)などのレギュラー番組からはあるタイミングから一旦姿を消すことになるか、番組自体がお休みになるかもしれません。『M-1グランプリ』『キングオブコント』『THE SECOND』といった大型賞レースも当面、松本人志さん抜きでの開催が濃厚。裁判の結果がどうなるかは分かりませんが、そこで明かされる内容次第では今後、テレビなどに出づらい状況になる可能性もあります。

ファンや番組視聴者は、そういった現実がやってくるかもしれないことへの「覚悟」が必要ではないでしょうか。現状、ファンや番組視聴者らは、松本人志さんのことを「信じている」と思うあまり、やや強めの言葉が並んでいる印象です。松本人志さんの「闘う」というXへの投稿が、闘争心を駆り立てているのかもしれません。

ただ、受け止め方が過剰になりすぎて、被害を訴えた方、さらにダウンタウンや松本人志さんの出演番組のCMから降りたと思われるスポンサーなどを傷つけるようなSNSの投稿内容につながっている気がします。

松本人志さんがいないことで日本のお笑いは終わるのか?

また松本人志さんが「不在」となることで「テレビ離れが加速する」「日本のお笑いが終わり」という意見も目立ちます。

もちろん、松本人志さんはレジェンドですからそういった面はあると思います。ただ、1月5日放送のラジオ番組『東野幸治のホンモノラジオ』(ABCラジオ)で東野幸治さんが、2023年の『M-1』について「出てくる人ら皆がすごい楽しそうにやってて元気いっぱいでおもしろくて、松本(人志)さんの影響下にない感じがした」とコメントしていらっしゃったように、良い意味で「脱松本人志」が少しずつ進んでいる傾向があります。

近年のお笑いの賞レースで活躍している顔ぶれを見ると、劇場で高い評価を集めているお笑い芸人たちの躍進が目立ちます。テレビ番組なども劇場で好評を得ている芸人を抜てきすることが増えてきました。一つの例としては朝のバラエティ番組『ラヴィット!』(TBS)がまさにそうです。そういった芸人たちを積極的に起用して、テレビバラエティに新しい流れが作られています(もちろんほかにもそういった意欲的なテレビ番組などはたくさんあります)。

また、劇場など生の現場に足を運んでお笑いを楽しむファンは決して「松本人志さんがいなくなったら終わり」とは考えていないでしょう。たしかに「不在」となることでシーンの一部は縮小されるかもしれません。しかしこの期間、また違ったお笑いや新しいおもしろさが生まれたり、触れたりできることに期待を寄せた方が良いのではないでしょうか。

被害を訴えた側にはその方々の主張があり、松本人志さんにもご本人の考えや意見があるはずです。それはすべて裁判で明かされるでしょう。現在のところは、ファンや番組視聴者であっても、なくても、一方通行の肩入れをするのではなく、両方に配慮した上で“持論”を述べるべきではないでしょうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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