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『新・暴れん坊将軍』現代のホスト問題に通じる描写など、時代劇・英雄伝として「異質」な表現への驚き

田辺ユウキ芸能ライター
出典:『新・暴れん坊将軍』公式サイトより

松平健主演の人気時代劇の17年ぶりとなるシリーズ新作『新・暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)が1月4日に放送された。

1978年より始まった同シリーズは、八代将軍・徳川吉宗(松平健)が貧乏旗本の三男坊・徳田新之介に扮して庶民の暮らしにまぎれるなどしながら、江戸にはびこる悪を討つというもの。今回はその徳川吉宗が、還暦を迎えたことで後継者選びに直面。さらに城下町で発生した陰謀渦巻く難事件にも立ち向かうことに。

監督をつとめたのは、映画『クローズZERO』(2007年)などのヒット作で知られる三池崇史。脚本を手掛けたのは、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)やNHK連続テレビ小説『あさが来た』(2016年)などの大森美香。

そんな制作陣による「令和版『暴れん坊将軍』」の評判は上々だ。Xでも、同シリーズになじみのある人だけではなく、世代ではないと思われる視聴者からも「おもしろい」との声があがっていた。Xのトレンドにも、ドラマタイトルがトップにランクインしたほか、関連ワードが上位を占めた。

なぜ『新・暴れん坊将軍』は好評だったのか。その理由は、時代劇としてはもちろんのこと、いわゆる英雄伝としても「異質」な表現があった部分ではないだろうか。

徳川吉宗が目の当たりにする、現代風の「ホスト問題」

時代劇でありながら新鮮な驚きを覚えたのは、1年ぶりに城から町へと出向いた徳川吉宗が、あるトラブルに遭遇するところ。そのトラブルとは、老舗材木商の娘・おきぬ(藤間爽子)をめぐる出来事。

おきぬは、父に命じられた縁談に反発して家出。そんなとき、色男の役者・蘭丸に声をかけられて飲食店へ連れて行かれる。店で彼女はたくさんの男性にちやほやされ、ついつい酒などを気前よくオーダー。なんと、積み上げられた升の上から日本酒を注ぐ、シャンパンタワーならぬ日本酒タワーまで登場する。

ただ、豪遊しすぎて金を心配するおきぬ。それでも蘭丸は「いける、いける。ええ人がおるねん」と彼女をつなぎとめ、金の工面先まで紹介。おきぬはそこで借りた金まで使い込んでしまい、どうすることもできない状況に。目当ての蘭丸にも会えないばかりか、さらなる深みへはまりそうになっていく。

そう、まさに現代の売掛金のトラブルなどを彷彿とさせる「ホスト問題」そのものに見えるのだ。こういった表現が、伝統的かつ国民的な時代劇である『暴れん坊将軍』シリーズでなされるのは、かなり「異質」ではないだろうか。しかも、これが今回の物語が進行していく鍵の一つになる。いかにも、映画『十三人の刺客』(2010年)、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(2007年)などいろんな要素をミックスさせた時代劇をいくつか発表してきた三池崇史監督や、現代の社会や企業のあり方に重ねて見ることができた『青天を衝け』の大森美香らしい着眼点だ。

ほかにも、物語の背景として物価高があったり、政治を信用していなかったりする民の様子が描かれているのも、やはり現代に通じるテーマではないだろうか。

完全無欠の徳川吉宗から、ハンデを抱える徳川家重へ「ヒーローのバトン」が渡る意味

『新・暴れん坊将軍』は、英雄伝としても興味深い設定となっていた。

主人公の徳川吉宗は徹底的に正義を貫く人物。剣の使い手としても優秀で、素手でも強い。外見的にも、一目でその凛々しさも伝わってくる。そしていろんな人に慕われる。まさに完全無欠のヒーロー。しかも、庶民の味方である。そんな徳川吉宗が活躍する『暴れん坊将軍』シリーズは、学生運動、高度経済成長期などを経た時代の中で誕生した作品だ。これから権力とどのように向き合えばいいのか、そして組織や社会に組み込まれることをどう捉えるべきか。そういった違和感、反発、迷いが渦巻く世の中にあって、『暴れん坊将軍』における徳川吉宗の存在はまさに人々の理想を反映していたのではないか。

そんな完ぺきな徳川吉宗の後継者候補であり、また『新・暴れん坊将軍』の“裏主人公”にもなったのが、嫡男・徳川家重(西畑大吾)である。

徳川家重は病によって右腕が不自由で、顔にも強張りがあってうまく話すことができない。徳川吉宗はもちろんのこと、多くの人とコミュニケーションをとろうとしない。徳川吉宗とは真反対と言って良いだろう。周囲はそんな徳川家重が後継者の一人であることを不安がったり、嘲笑したりする。

ただ彼は人知れず、ハンデを克服するためにトレーニングをおこなっていた。そして、片腕でも武器を操れるほどの武術力を身につけた。時間をかけて、喋りも上達した。そういった徳川家重の姿は、徳川吉宗という完全無欠のヒーローを長く主人公に置いてきた『暴れん坊将軍』シリーズに多様なあり方を示した。むしろ、完ぺきな人間なんて存在しない。誰もが“なにか”を抱えている。そのようなメッセージが感じられた。その象徴的存在である徳川家重が、完全無欠の徳川吉宗から「ヒーローのバトン」を受け取るかも知れない展開が、実に印象深かった。

なにより前述したように、徳川家重が鍛錬を積む過程をしっかり描き出していたところは非常に見ごたえがあった。初めてスムーズに言葉を発することができたときの徳川家重の喜びの場面は、鑑賞しているこちらも勇気が与えられた。そしてその感極まる様子を、西畑大吾が実に丁寧に演じてみせた。

『新・暴れん坊将軍』には、徳川吉宗が白馬に乗って波打ち際を疾走するオープニングや、殺陣の際に見得を切るところなど、おなじみの場面ももちろん出てくる。一方「異質さ」が光っていたからこそ、幅広い視聴者層に受け入れられたのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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