【藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)インタビュー】対人の強さとエレガンスの共存 21歳の現在地
20歳だった2022年7月に、E-1選手権の香港戦(○6-0)で先発フル出場という堂々の日本代表デビュー。現在はパリ五輪を目指すU-22日本代表の中心選手としても活躍中のMF藤田譲瑠チマが、横浜F・マリノスからシント=トロイデンに完全移籍して約2カ月半が過ぎた。
ベルギーでのインタビューで語られた期待のボランチの現在地とは――。
■移籍後の8試合中、先発2試合、3試合途中出場
「ベルギーに来てから最初の2週間3週間は、いきなり試合にも出られて、このまま行けばいいと思っていました。最近は、そこまで簡単じゃないなと感じています」
穏やかな口調に、聞き手を受け容れるオープンマインドを感じる。「簡単じゃない」という言葉が示すとおり、今は満足できる状況ではないが、藤田はしっかりと前を見据えている。
まずはベルギー移籍後のこれまでを振り返ろう。
移籍発表は7月27日。藤田はチーム合流が今季リーグ開幕後という“ハンデ”があったものの、8月20日の第4節ヘント戦に先発してベルギーデビューを果たすと、続く第5節サークル・ブルージュ戦にも先発し、個人としては幸先の良いスタートを切った。
しかし、ベンチ入りしたものの出番なく終わった9月4日の第6節シャルルロワ戦を境に状況が変わった。9月6日から同12日までU-22日本代表として出場したパリ五輪アジア一次予選(バーレーン)で最終予選切符を手にして戻ってきた後の第7節メヘレン戦、第8節ゲンク戦、第9節クラブ・ブルージュ戦はいずれも途中出場。
ベンチ入りしたものの出番なく終わった10月9日の第10節ユニオン戦からはさらに状況が厳しくなり、U-22日本代表の米国遠征から戻った後の第11節OHルーベン戦はベンチからも外れた。
CLやELに出ていないシント=トロイデンはきっちり週1回のペースで公式戦が組まれており、チームが好調ならばケガ人でも出ない限り先発に割って入るのは難しい。インタビューした10月上旬はまさにそういった時期であり、藤田自身、「今は踏ん張りどころかなと思っています」と悔しさが募る中でも現実を受け止めていた。
■ボール奪取に長け、試合を読む力も抜きん出ている
藤田の良さは、運動量が豊富でボール奪取の能力に長けているところにある。ただ、対人プレーの局面で見せるのはシンプルな強さだけではない。ボールを奪ったり、半身で体を当てて遅らせたりする時の身のこなしや、次のプレーへ移る際の動きには、ゴリゴリ感とは異質のしなやかさやエレガントなリズムがある。
インタビューの時にそのような感想を伝えると、「エレガントですか? 自分では分からないですね」と笑みを浮かべてこう言った。
「確かに、自分はアフリカ系ではありますけど、ヨーロッパの選手や純アフリカ系の選手に真っ正面からぶつかっても勝てないし、身長差もある。そういったところは感じているので、考えてプレーする方ではあると思いますね」
その言葉通り、クレバーさやボールを持った時の立ち姿がエレガンスを想起させるのだろう。
「試合の流れを読むということも、そういったところにつながっているのかな。冷静な時は今行くべきかどうかをうまく考えられていると思います」と自信を持っている。
■パリ五輪アジア一次予選でキャプテンマーク「お前がチームを引っ張れ、と」
パリ五輪を目指すU-22日本代表では中心的な役割を担っている。大岩剛監督は今のところキャプテンを固定しない方針を待っているため、これまで複数の選手がキャプテンマークを巻いてきたが、その中で、9月にバーレーンで行われたパリ五輪アジア一次予選でキャプテンに指名されたのが藤田だった。
バーレーンでは夜でも35度という超高温多湿の気象条件で行われた3試合で第1戦と第3戦に先発、第2戦に途中出場。2勝1分けで来年4、5月に行われるアジア最終予選の出場権獲得に大きく貢献した。
この大会で藤田の存在感がハッキリと浮かび上がったのは途中出場だった2戦目のU-22パレスチナ戦だ。日本は23分にFW藤尾翔太(町田)のゴールで先制したものの、フィジカル勝負で粘る相手から追加点を奪えず苦しい流れ。危ない場面も作られるヒヤヒヤな展開だったが、74分に藤田が途中出場でピッチに入ったとたんにバランスが整い、チームは規律や推進力を表現できるようになった。
「私生活で自分がキャプテンらしいことをしているかと聞かれたらそんなことはないですし、キャプテンの役割を特別意識していることもありません。でも大岩監督には『お前がチームを引っ張っていけ』という言葉を掛けられたので、試合の流れを読むことで、求められた役割を果たしているのかなと思います」(藤田)
■「自分には時間がない。売れている時期は短い」…焦りも
東京ヴェルディの育成組織で育ち、プロ2年目の2021年に徳島ヴォルティスに完全移籍。翌2022年には横浜FMに完全移籍した。物怖じしない性格とコミュニケーション力も武器の一つだ。
「僕は積極的な方。どんな選手に対してでもモノを言える能力はプロ1年目からあったので、自分の意思をしっかりと伝えながらプレーできていましたし、この性格に助けられたと思います」という自覚がある。
インタビューの数日前にはシント=トロイデンのコーチングスタッフに「練習試合を組んで欲しい」と伝えた。
「そういったことをコーチに伝えたのは初めてですが、自分には時間がない、一番売れている時期というのは短いという思いがあります。ですから、やれることはやっていきたいと思っています」
■プレーの特長をチームメートにまだ理解されていないという悩み
シント=トロイデンでトルステン・フィンク監督から求められているのは「6番」のプレーであり、藤田自身も「アンカーのポジションで出たいという気持ちが強い」と話すように、志向やプレースタイルの特徴には合致している。
より強化したいと考えているのは、「カウンター潰すところであったり、ボール奪い切る能力。攻撃で言えば正確なサイドチェンジ。これらの質を上げていくこと」だ。
インパクトを示すためには得点が必要だという思いもある。
「自分が先発して出た2試合には得点チャンスがありました。ペナルティーエリア外でも決められるような選手になれれば攻撃の幅も広がると思います」と語る。
ただ、イメージは明確だが現時点では自身の良さや特長を出し切れていない。そもそもチームでどれだけ特長を理解されているのか。
「なかなか練習試合も組まれていない中で、僕のプレーがどういうものなのかを、まだチームメートが分かっていないような状況だと思う」
練習試合を熱望したのも、そういった焦燥感があるからだ。
筆者が現地観戦したクラブ・ブルージュ戦では、ベンチスタートとなった中、前半から1人だけベンチ脇で体を動かしており、うずうずしている様子だった。藤田自身、「いつでも準備できているぞというのを、そういったところで見せていく必要があるかなと思って、自分のためにやっています」と言っていた。
■チームは大量失点で連敗 このタイミングで出場チャンスをつかみたい
今はひたすら厳しい状況だが、一方で潮目が変わりそうなムードもある。シント=トロイデンは藤田が出場しなかった直近の2試合で8失点と守備が崩壊。4戦白星なしという状況だ。
今季から就任したフィンク監督がチームに落とし込んでいる「ボールを保持するサッカー」という観点では力がついているが、リスク管理が希薄な状態でボールを失い、一気にゴール前まで攻め込まれて失点につながるシーンが目立つ。
まさに今は、攻守の切り替えやコンパクトなポジショニングの再構築が必要な状況であり、藤田にとってはチャンスと言える。11月1日に国内のカップ戦が始まることも追い風になるだろう。
今季のベルギーリーグは来年3月まで行われるレギュラーリーグの順位により上位・中位・下位の3グループに分かれて残りのシーズンを戦うレギュレーションとなっている。チームとしてはまずは1部残留を果たすことが目標であり、そのうえでより上位のグループでシーズン終盤を戦うことが目標だ。
「やるからには上を目指したいという気持ち、自分が試合に出てチームを勝たせたいという気持ちでシント=トロイデンに入ってきました」という藤田が闘志をみなぎらせているのは間違いない。
■「今はとにかく試合に出たい」
今はチーム内での序列を上げるのが第一であり、パリ五輪に関しては、「意識していません」と言う。
「まだ出場権を獲得したわけでもなく、自分自身がそこに選ばれたわけでもない。アジア競技大会に出ていた選手も良い選手ばかりですから、このままの自分だったらどうなるか分かりません」と危機感を露わにするが、それもこれも払拭するためにはシント=トロイデンでの序列を上げるのが先決だ。
「サッカー選手は試合に出てナンボだと思いますし、試合に出ているかどうかで成長するスピードや得られる経験が違う。今はとにかく試合に出たい」
まずは出番を勝ち取るため、日々のトレーニングでアピールする。現状を打破すべく、藤田は前だけを見て自分を磨き続ける。
◆チーム内の言語は英語
○…シント=トロイデンの街ではオランダ語で話しかけられることが多いというが、チーム内の言語は英語。藤田は徳島や横浜FMでも監督や外国籍選手と英語でコミュニケーションを取っていたため、言語の壁は特に感じていない。休みの日には車で1時間半ほどの位置にあるブリュッセルやアントワープへ足を延ばすこともあるが、「たまに行って日本の食材を買ったり、服を見たりするぐらいですね」という。オフの日は「軽く自転車を漕いだり、プールに行ったりするくらい」といい、しっかり体を休ませてチーム練習に臨み、自分の良さを出すべく努力を重ねている。