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「あつ森」や「サクナヒメ」… 今年話題のゲームのキーワードは「癒やし」

河村鳴紘サブカル専門ライター
「あつまれ どうぶつの森」(c)2020 Nintendo

 新型コロナウイルスの猛威に苦しめられた2020年ですが、ゲーム市場は在宅の「巣ごもり需要」を受け、家庭用ゲーム機とソフトの売り上げは絶好調でした。そして、予想以上に売れたり、ネットで話題になった作品を見ると、「癒(い)やし」というキーワードが浮かび上がってきます。

◇ゲームソフトのランキングは保守的

 日本市場で売れるゲームソフトは、ブランドと宣伝力のある任天堂のソフトが強く、そこに「モンスターハンター」や「ドラゴンクエスト」シリーズなどの大ヒットタイトルが入る形で売れ筋ランキングになります。要するに「定番もの」「シリーズもの」が強く、消費動向は基本的に保守的です。

 つまり、ブランニュー(シリーズものでない新規作品)は苦戦する傾向にあり、知名度のあるシリーズものでも、回を重ねると売り上げは落ちやすく、前作から売り上げを上積みするのは大変なのです。また、懐かしい人気作が復活して一時的に話題になっても、売り上げを出せるかは別問題です。そんな中で、今年は、さまざまなタイプのソフトが話題になりました。

◇「あつ森」は「スーパーマリオ」超え

 今年のゲームソフトの象徴と言えば、流行語大賞にもノミネートされた「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」(ニンテンドースイッチ)ですね。言葉を話す「どうぶつ」が暮らす場所で釣りや虫捕りなど“スローライフ”を体験する……という内容で、新型コロナの「巣ごもり需要」の追い風を最大限に受けるタイミングでの発売になりました。

 元々、シリーズの出荷数を追えば分かる通り、国内出荷数だけで500万本超が見込めたわけですが、ファミコンの大ヒットソフト「スーパーマリオブラザーズ」の681万本を大きく超えて9月末の時点で国内出荷数は818万本をたたき出しました。年末商戦を加えると、どこまで積み上げるか恐るべしです。

 そして今月ゲームファンを驚かせたのは、全国の駅を巡って資産の多さを競うすごろくゲームシリーズの最新作「桃太郎電鉄(桃鉄) ~昭和 平成 令和も定番!~」(スイッチ)が、出荷数150万本を突破したことでしょう。「桃鉄」といえば、2017年にキャラクターデザインを一新したときは、一部のファンからかなりの反発を受けたのですが、いまや「過去の話」でしょう。

 またゲームソフトのプレー動画配信が原則NGのコナミですが、「桃鉄」では異例のOKという方針も話題になりました。「桃鉄」の総再生回数は6500万回ですから、宣伝効果もかなりのものと思われます。「すごろく」ゲームなので誰でも楽しめ、新型コロナ第3波の「巣ごもり需要」にも合っているのも大きいでしょう。

◇ブランニューも話題に

 人気シリーズと比べて知名度に劣るブランニューは、売れ行きが苦戦する傾向がありますが、今年は二つのタイトルが、コアユーザーの心をつかんでネットをにぎわせました。鎌倉時代の元寇を題材にした和風アクションゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」(PS4)と、異色の米作りゲーム「天穂(てんすい)のサクナヒメ」(スイッチ、PS4、PC)です。

 「ゴースト・オブ・ツシマ」は、黒澤明作品のような本格的な時代劇を本格的に再現したことに驚きの声が上がり、ゲームクリエーターや著名人がが最も熱中したソフトを選ぶ「超流行りゲー大賞2020」にも選ばれました。クイズ番組「世界ふしぎ発見!」(TBS系)で対馬をテーマにしたときは同作が大きく取り上げられ、長崎県対馬市にゲームファンが訪れる「聖地巡礼」現象もNHKのニュースなどで報じられました。

【参考】超流行りゲー大賞2020

ゲーム中の絶景も話題になった「ゴースト・オブ・ツシマ」=SIE提供
ゲーム中の絶景も話題になった「ゴースト・オブ・ツシマ」=SIE提供

 「天穂のサクナヒメ」は、発売前はゲーム通の間で注目されていましたが、農林水産省やJAのサイトに書かれている本物の「米作り」の知識が、ゲーム攻略の手引きになるという口コミなどが話題になり、ヤフートピックスにも取り上げられ、一時期はパッケージ版が品不足になりました。その後、農林水産省政策統括官の公式アカウントが同作の開発者を取材したことも明かされ、再び話題になりました。

◇癒やしと懐かしさと絆と

 いずれのソフトも、ネットでプッシュするユーザーの積極的な情報発信がプラスに大きく働きました。そして万人受けする「あつ森」と「桃鉄」、コアゲーマー向けの「ツシマ」「サクナヒメ」とゲームの方向性はまったく異なるのも興味深いところで、その一方で遊ぶと「ホッ」とする点があることです。

 「あつ森」は、ゲームオーバーのない島でスローライフが楽しめ、家族や友達同士でつながれます。「桃鉄」は「すごろく」ゲーム自体に安心感があり、キャラデザもマッチし、家族や友達と共有できる時間の大切さを改めて実感できます。「ゴースト・オブ・ツシマ」は“地獄”のような殺伐とした世界なのに、ゲーム中で絵画のように再現された対馬の絶景、四季の美しさに目を奪われて、心が癒されることもありました。「サクナヒメ」も、米作りに熱中するなど田園の状態が気になるなど愛着がこみあげ、古き時代の日本の原風景に既視感すら覚えました。どの作品も「癒やし」の要素が絶妙の加減でにじみ出ているのです。

 コンテンツがヒットするには、作品自体の面白さがベースにあるのは当然として、時代の影響も無視できません。新型コロナで世の中がギスギスしたのは確かですし、人によっては無意識に癒やしを求めてしまうこともありえるでしょう。

 ゲームに限らずですが、安定した時代では、閉塞感を打ち破る先鋭的なものが望まれることがあります。逆に新型コロナで不安な時代だと癒やしに加え、懐かしさや人との絆(きずな)のようなものを求めてしまうのかもしれません。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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