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村田諒太vsカネロはタイソンvsダグラスの再現か?動き出した空前絶後の大一番(訂正あり)

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
バトラーを倒してベルトを守った村田(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

今週、米国でトップ会談

 日本ボクシング界空前絶後のビッグイベント、サウル”カネロ“アルバレス(メキシコ)vs村田諒太(帝拳)が締結に向けて大きく動き出した。昨日26日(日本時間27日)村田を擁する帝拳ジム本田明彦会長と共同プロモーター、トップランクの総帥ボブ・アラム氏が米国で会談を持つニュースが伝わった。交渉がスムーズに運べば、5月、東京ドームで挙行される予定。世紀の番狂わせといわれたマイク・タイソンvsバスター・ダグラスから30年を経て、あの興奮がよみがえる期待がふくらむ。

 当然ながら本田氏はカネロのプロモーター、ゴールデンボーイ・プロモーションズのトップ、オスカー・デラホーヤ氏との折衝も行うもよう。そこに試合を米国へ中継するスポーツ・ストリーミング配信DAZNの意向がどう絡むかが交渉成立の重要なポイントとなる。だが本田-アラムそしてデラホーヤ会談で大筋が定まる雰囲気が感じられる。そもそもDAZNはこのカードを東京で実現させたくて躍起になっているのが実状だからだ。

カネロ、次はスーパーミドル級が有力

 ところで最新試合でセルゲイ・コバレフ(ロシア)に終盤11回KO勝ちを飾りWBO世界ライトヘビー級王者に就いたカネロとWBA世界ミドル級“レギュラー”王者の村田との接点はどこにあるか。

 カネロはひとまずライトヘビー級を返上してミドル級、スーパーミドル級へ戻る決断を下した。今年に入りカネロ陣営のエディ・レイノソ・トレーナーが「次はスーパーミドル級にUターンが有力」と発言したことで、同級WBA“スーパー”王者のカラム・スミスとWBO王者ビリー・ジョー・サンダースの英国勢が俄然、対戦相手としてクローズアップされた。そのうち相手はサンダースに絞られたという話も聞かれた。

 だが、サンダースは候補者から外されることが判明。同時に村田の名前が浮上した。ニュースソースが有力メディアだったことから信ぴょう性が高く、他のメディアやファンが一斉に飛びついた。とはいえ日本で予測される熱狂とは裏腹に否定的な意見や反論が目立つ。世界的な人気でも当代を代表するボクサーと認識されるカネロとは格の点でも村田は後塵を拝すると見られる。

コバレフを倒しライトヘビー級を制したカネロ(Photo:Amanda Westcott)
コバレフを倒しライトヘビー級を制したカネロ(Photo:Amanda Westcott)

円熟期のカネロは難敵中の難敵

 5月、順調に村田を退けて9月、ゲンナジー・ゴロフキン(との第3戦)、カラム・スミス、ジャモール・チャーロ(WBCミドル級王者)、デメトゥリアス・アンドラーデ(WBOミドル級王者)の一人とビッグイベントへ向かうのがカネロと陣営の目論見だ。ちなみに村田戦が実現する場合、設定ウエートは168ポンドリミットのスーパーミドル級をカネロは選択すると思われる。村田には未知の階級となるが、村田は承諾しているという。

 村田戦をビッグマッチの前哨戦と位置づけ、ビッグマネーに傾倒するカネロ。率直に言えば、村田に好材料は少ない。イベントは盛況のうちに終わるだろうが、相当、厳しい賭け率で不利を予想されるに違いない。プロの2敗にとどまらず、ロンドン五輪準決勝のアボス・アトエフ(ウズベキスタン)と決勝のエスキバ・ファルカン(ブラジル)は村田にとってラッキーな勝利だったと言及するメディアさえある。逆にエンダム第1戦の限りなく勝利に等しい判定負けはほとんど話題に取り上げられていない。

 またライトヘビー級まで進出したカネロがミドル級はおろかスーパーミドル級に体重を落とすのも難しいのではないかと指摘する向きもある。だが本来ミドル級周辺の選手であるカネロにはそれほど困難なタスクではないだろう。そして盛りを過ぎた選手ならともかくボクシングを代表する顔となったカネロは最盛期、円熟期に近づいている。観光気分で来日して墓穴を掘ることは考えられない。加えて極めて打たれ強いカネロにKO勝ちするのは至難の業といえる。

“世界が変わる”大一番

 八方塞がりの状況で村田がどう戦うべきか。

 ヒントになるのは崖っぷちに立たされたブラントとの再戦ではないだろうか。米国メディアから無骨なファイト・スタイルと評価されがちな村田だが、あのリマッチでは集中力と適応力の高さを知らしめた。今回は、それプラス応用力も試される。

 応用力といっても端正なスタイルにモデルチェンジする必要はない。カネロの攻撃を封じるガチガチなインファイトに持ち込むのが打開策につながるのではないか。強いて挙げれば井上岳志(ワールドスポーツ=WBOアジアパシフィック・スーパーウェルター級王者)が丸1年前、WBO同級王者ハイメ・ムンギア(メキシコ)に挑戦した時の戦法。けっしてスマートな戦いではなく、見栄えが悪かったが、「1秒たりともムンギアを自由にさせない」という決意で井上は接近戦と突進を繰り返した。

ムンギア(右)に攻めかかる井上岳志(Photo:Stacey Verbeek)
ムンギア(右)に攻めかかる井上岳志(Photo:Stacey Verbeek)

 結果は大差の判定負けに終わったが、井上は大方の予想を覆してフルラウンドにわたり奮闘した。後日メキシコで筆者がムンギアを直撃した時、「日本ではあんなスタイルで戦ってもボクシングと呼ぶのかい?」と皮肉を言われたものだ。その時、カネロの後継者の一人であるムンギアが十分苦しんだことを筆者は実感した。実績で井上を大きく勝る村田が思い切り泥臭く対処すれば、世界が一変する可能性は広がると期待している。

 ちなみに今月、スーパーウェルター級王座に別れを告げてミドル級転向第1戦を行ったムンギアも村田同様、5月のカネロの試合で対立コーナーに立つ可能性が出てきた。カネロ争奪戦の一人に加わったのだ。それでもプロモーター間のトップ会談の行方が注目される中、村田が主役の座を射止める公算は依然として高い。

*1月28日22時、内容を一部修正しました。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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