聴導犬はどんなことをするの? ~ その利点と理解促進に向けた課題 ~
聴導犬は、耳が聞こえない人に日常生活の様々な音を知らせる犬です。盲導犬と同様に公共交通機関、飲食店やデパートなどの民間施設での利用を法で認められていますが、認知度が低いため入店拒否をされ、利用しづらい現状があります。聴導犬は現在、全国で74頭いますが、そのような理由があるため実際に社会参加している聴導犬はさらに少ないと言われています。聴導犬が生まれて35年経ちますが、あまり知られていないその実態を取材しました。
【聴導犬の役割】
聴導犬はインターフォンや電子レンジ、メール着信音などの音がした時、ユーザーに直接触ってその音の発するところへと導きます。火災報知器や警報の場合は、音のする場所に案内するとユーザーを危険にさらしてしまうこともあるため、その場に留まります。
驚いたのは、聴導犬は訓練で学んでいない音や初めて聞く音もユーザーに知らせるということです。ユーザーが喜び、褒めてくれることで聴導犬はその音を伝える必要がある音と覚えます。しかし、必要のない音(テレビなど)の場合にはユーザーは感謝を伝えません。こうして聴導犬は自ら様々な音を学習し、伝える必要があるかないかの判断をします。外を歩く時は後方から近付く車や自転車の存在を知らせてくれます。フラッシュライトや振動時計などの聴覚障害者用福祉機器は、音の学習はもちろん、不測の事態にも対応することはできません。
このようにユーザーの安全が確保される他にも、大きな利点があります。東 彩さんは聴導犬のあみのすけと8年間生活を共にしています。「外出する時、あみのすけが『聴導犬』と表示されているケープをつけていることで自分が聞こえないことを周りに伝えられる。すると、相手が筆談で対応してくれたり、ゆっくり話したりしてくれるので、人と会うことが楽しくなった」と話してくれました。
【耳の聞こえない人のストレス】
耳の聞こえない人は、車椅子利用者や白杖を使う視覚障害者のように障害のあることが外見では分かりません。筆者はお店や公共施設を利用する度、「耳が聞こえないので、ゆっくり話してください」とお願いします。しかし、疲れている時は面倒くさくなって説明を省くので、相手が何を言っているのか分からないという状態になります。聞き返すことができなくなり、分かったふりをしてしまう、ということも度々あります。また、「落し物をしましたよ」などと後ろから声をかけられることもあります。しかし、聞こえないため、相手に「無視された」と誤解されてしまう場合もあるのではないかと想像しています。病院や郵便局などで呼出しを待つ時、受付で「聞こえないので私の番が来たら、分かるよう呼んでください」と伝えても、多忙な時や複数の職員がいる場合は忘れられることがあるため、「自分の番はまだか」と受付の人の口を見つめて過ごします。そんな時に聴導犬がいれば、周囲に対して気を張りめぐらせる必要はなくなるのかなと思いました。
ユーザーの安藤 美紀さんは、「以前は人と接する度、聞こえないことを毎回毎回説明することに疲れを感じていたけれど、聴導犬との生活が始まると説明することがなくなった。ストレスから解放された」と明るい表情で話していました。しかし、聴導犬の知名度が低いために入店を断られることが多く、様々なイベントに参加するなどして理解普及に努めています。
【国内にいる聴導犬は74頭】
盲導犬は1939年にドイツから4頭が輸入されたのが始まりで、現在は約950頭が活躍しています。聴導犬が初めて日本で育ったのは、1983年。現在(2018/5)、74頭の聴導犬が活動しています。聴導犬は盲導犬と同様に身体障害者補助犬法で公共交通機関や公共施設、飲食店やデパートなどの民間施設での利用を認められています。
【社会参加しているのはもっと少ない。その理由は周囲の不理解】
日本聴導犬推進協会の秋葉 圭太郎さんによると、外でユーザーと同伴し、活動している聴導犬は74頭のうち、もっと少ないのではないかとのこと。理由を聞くと、聴導犬の理解が広がっていないため、飲食店やデパートでの入店を断られ続け、ユーザーが精神的に辛くなることがあるという。聴導犬はペットではなく、身体障害者補助犬法で同伴を認められた犬であると毎回説明することが負担になり、外出時は家に聴導犬を置いてきてしまうというのです。辻 海里さんは、聴導犬と同伴で外出する時、「いつもドキドキしている、いつ怒られるかな、いつ声をかけられるのかなと。死ぬまでずっと会う人会う人に説明しないといけないのかと億劫になる時もあります」と話していました。
【身体補助犬の同伴拒否は違法】
盲導犬を育成するアイメイト協会が全国の現役アイメイト使用者を対象に実施したアンケートによると2017年4月から今年2月の間で、お店や施設の利用拒否を経験したユーザーは回答者の63%に上ったとのこと。入店拒否を受けた場所で最も多かったのは「飲食店(居酒屋、喫茶店も含む)」(78.7%)で、ユーザーの約8割が経験しています。知名度のある盲導犬ですら、この状況に置かれています。
盲導犬、聴導犬の他に手足に障害のある人のサポートをする介助犬がいて、これらは「ほじょ犬(身体障害者補助犬)」とみなされています。障害のある人のパートナーであり、ペットではありません。身体障害者補助犬法 第四章「施設等における身体障害者補助犬の同伴等」の第九条では、「(略)不特定かつ多数の者が利用する施設を管理する者は、当該施設を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない。」(厚生労働省のHP)と明記されています。つまり、飲食店やデパートなど民間施設での同伴利用を拒むことは法に反しているのです。公共交通機関や公共施設、民間企業内での周知の徹底が必要です。
【聴導犬は選択肢のひとつ】
安藤さんは、聴導犬と一緒に外に出るようになると、周囲から「聴導犬はどんなことをするの?」と声をかけられることが増えました。聴導犬を通して聴覚障害者のことも知ってもらう機会と捉え、「聴覚障害といっても難聴、中途失聴など様々なタイプがあり、人工内耳や筆談、手話、口話というふうにコミュニケーション手段も様々」と説明しています。「聴導犬もそのことと同じで、聞こえない人全員に必要ということではない。聴導犬も選択肢のひとつ」と言う安藤さんの言葉から、むやみに聴導犬を増やしたいのではなく、まずは、聴導犬との同伴を認めて欲しいという思いが伝わってきました。
「以前より、人に会うことが楽しくなった」という東さんやオシャレをして出掛けるようになったという安藤さんは聴導犬や聞こえない人のことを知ってもらうため、積極的に取材を受けたり講演活動をしています。
補足:聴導犬の訓練と引退後
盲導犬は視覚障害のあるユーザーを危険から守るために、ラブラドールやゴールデンレトリバーのような大型犬が選ばれる。しかし、聴導犬の役割は音を知らせることであり、体格はあまり関係ないため、犬種は問わない。動物福祉の観点から動物愛護センターや動物愛護団体が収容している犬から候補が選ばれる。候補として選ばれた犬は、トイレのマナーを覚える、落ち着いて行動するなどの基礎訓練の後、ユーザーとの合同訓練を終え、認定試験を受ける。合格した後も訓練士が定期的に状況を確認し、フォローしている。日本では現在、21団体が聴導犬の育成訓練をしている。
参考:
公益社団法人日本聴導犬推進協会 tel 049-262-2333 fax 049-262-2543
身体障害者補助犬法
『聴導犬のなみだ』 野中 圭一郎著
【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】
※ この記事はYahoo!ニュース 個人で2018年7月12日に配信されたものです。