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オシメーンの人柄に再び賛辞、自撮りした青年の失業危機に支援申し出 「心の広い謙虚なVIP」

中村大晃カルチョ・ライター
10月23日、セリエAのローマ対ナポリで決勝点を挙げたオシメーン(写真:ロイター/アフロ)

10月23日に行われたセリエA第11節、ローマ対ナポリの上位対決は、1-0で首位ナポリが制した。決勝点を挙げたヴィクター・オシメーンは試合後、スタジアムの外でローマのタミー・エイブラハムと対面。試合を決めた前者と好機を生かせなかった後者、ナイジェリアつながりの両ストライカーの一幕は、激戦を終えて健闘をたたえ合う戦士たちの心温まる交流として話題となった。

直後、同じ場所で、ある青年が夢をかなえた。同時に、職を失う危機に瀕した。その際のオシメーンの対応が明らかになり、以前からたびたび称賛されるその人柄に、再び賛辞が寄せられている。

エピソードを伝えたのは、オシメーンの友人オマ・アカトゥグバ氏。ジャーナリストでもあり、オシメーンとエイブラハムの会話も報じた人物だ。

■予期せぬ出会い

試合後、スタジアムの外にある選手と家族や友人が対面できるエリアで、アカトゥグバ氏はオシメーンを待っていた。そこに声をかけてきたのが、この日が初仕事だったというスチュワードだ。

ナポリ近郊出身とあり、大のナポリファンという18歳のマッテオさんは、誕生日ケーキにも“登場”させたというほどのオシメーン好き。スマホの中には選手の画像や動画が詰まっている。

仕事としてアカトゥグバ氏に声をかけたことが、マッテオさんに夢のような時間をもたらした。オシメーンの大ファンであることを伝え、アカトゥグバ氏の仲介で選手と会うことができたのだ。それだけではない。オシメーンはエイブラハムが座っていた場所に座らせ、マッテオさんと話し始めた。

マッテオさんは『serieANnews.com』でそのときの様子をこう振り返っている。

「両手が震えた。あの瞬間、夢がかなったんだ。すべての画像と動画を見せた。すごく喜んでくれたよ。誕生日ケーキの写真を見たとき、彼は感激してくれたんだ」

■失業危機に抗議

だが、オシメーンとのセルフィー(自撮り)という夢もかなえたマッテオさんは、現実に引き戻される。職場の責任者から、用具をすぐ返却し、その場を去るように命じられたのだ。アカトゥグバ氏は、仕事中に選手と話したことが規則に反するのだろうと伝えている。

そこにオシメーンが割って入った。責任者に事情を説明し、「彼は僕のブラザーだ。なぜこんなことをする?」と抗議したのだ。だが、アカトゥグバ氏によれば「言葉の問題で解決できなかった」。

■ファンを感激させた申し出

すると、オシメーンはマッテオさんに、スチュワードの仕事の給料を尋ねたという。

「僕は会えただけで十分と答えたけど、彼は尋ね続けた。それで金額を言ったら、彼は驚き、その額でこんな扱いは受け入れられないと怒ったんだ。そしてオマさんに僕と連絡を保つように頼み、自分に任せろ、心配いらないと言ってくれた」

オシメーンは、マッテオさんが失業することないように計らうと請け負ったのだ。アイドルの思わぬ申し出に、マッテオさんは「すごく感激した。いかに広い心の持ち主か分かった」と話している。

「彼は計り知れないくらい、素晴らしいまでに謙虚なんだ。僕はただのファンでしかない。放っておくことができた。それなのに、自分と一緒にいるように言い続け、失業しないかと心配してくれたんだ。素晴らしい人だよ。普通のVIPとは違う。本当に僕はこういう人をアイドルに選んで正しかったよ!」

もちろん、規則違反は正しいことではない。だが、オシメーンは、18歳の若者が自分のために仕事を失うことを望まなかったのだろう。何らかのかたちで青年が失業せず、オシメーンの気持ちが報われることを願うばかりだ(※一部メディアは、マッテオさんは解雇されておらず、ローマでなくラツィオの試合で仕事を続けることが可能とも報じている)。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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