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ナポリFWがSNS活用、フォロワー協力で支援申し出に成功 「心が喜びで満ちている」

中村大晃カルチョ・ライター
2020年10月17日、セリエAアタランタ戦で得点した際のオシメーン(写真:ロイター/アフロ)

SNSにおける人種差別や誹謗中傷の問題は深刻だ。一石を投じようと、ティエリ・アンリはSNSから撤退した。事態の改善を願うばかりだ。

一方で、使い方次第で、SNSは人を幸せにすることもできる。ナポリのナイジェリア代表FWヴィクター・オシメーンが、ある女性に手を差し伸べたのもその一例だ。

◆貧しかった過去を忘れず

彼は、自分のルーツを見失っていない。だからこそ、その画像に大きく心を揺り動かされた。

4月12日、オシメーンはインスタグラムのストーリーに、ある女性の画像を投稿した。片足の女性が松葉づえで立ち、頭に水がいっぱいのたらいを乗せている姿だ。Tシャツの胸には「no pain, no gain(痛みなくして得るものなし)」の文字。生活のために路上販売していることが想像された。

22歳のオシメーンは、その姿にかつての自分を重ね合わせたのだろう。6歳で母親を亡くし、父親の失職もあり、オシメーンは幼少期から兄弟姉妹と生活費を稼ぐ日々を過ごした。彼もまた、路上で飲料販売をし、家計を助けていたのだ。

画像の女性を知り、オシメーンはインスタグラムで45万人のフォロワーに助けを求めた。女性とコンタクトを取るための情報を募集したのだ。そして、24時間と経たぬうちに、オシメーンは女性とビデオチャットで話すことに成功。支援を約束したという。

『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙に対し、オシメーンは「見つけられて本当にうれしい。彼女と話して、助けられることがうれしい。ラゴスの路上で骨を折る意味を僕は知る。僕にもその時期があった。そのときの気持ちが分かるんだ」と話している。

「心が喜びで満ちているよ」。

◆コロナ感染で批判も浴びた1年目

ピッチでは、順風満帆だったわけではない。セリエAでの1年目は、難しいシーズンだった。

序盤こそ高く評価されたが、11月の代表戦で肩を負傷。長期離脱を余儀なくされ、年明けには新型コロナウイルス感染が判明した。さらにナイジェリア帰国中、「マスクなしの密」で誕生日パーティーに参加していたことが発覚。クラブやジェンナーロ・ガットゥーゾ監督、サポーターを怒らせた。

イタリア初挑戦の22歳が、戦列を2カ月も離れれば、復帰してすぐに活躍とはいかない。24試合を消化した時点で、出場10試合の2得点。クラブレコードの7000万ユーロ(約91億3000万円)で獲得したストライカーとして、不十分な成績だった。

◆期待高まる終盤戦

ただ、ここに来てオシメーンは調子を上げ、存在感を高めている。直近の6試合で3得点をマーク。前節サンプドリア戦で、吉田麻也を落胆させたゴールを見た人も多いだろう。ここ3試合は2試合でスタメンに名を連ねている。

一時はチャンピオンズリーグ出場権獲得が絶望視されたナポリも復調した。4位アタランタに勝ち点2差の5位につけている。その大きな要因が主力の復帰、そしてそのひとりがオシメーンだ。

マリオ・スコンチェルティ記者は、サンプドリア戦前の9日、『TUTTOmercatoWEB』で、オシメーンとドリース・メルテンスがともに長期離脱したことが、ナポリにとって「真の不運」だったと話していた。

だからこそ、彼らが戻ってきた今、ナポリは4位浮上に向けて勢いに乗っている。そのカギを握るひとりがオシメーンなのは間違いない。

18日の首位インテルとの大一番、そして22日の翌節ラツィオ戦は、今季の出来を左右し得る2連戦。大事な直接対決で、オシメーンが活躍できるか注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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