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なぜ「水曜日のダウンタウン」の飲食店ロケ企画は炎上したのか?

山路力也フードジャーナリスト
人気番組の企画がSNS上で物議を醸している(写真:イメージマート)

人気番組の企画がSNS上で物議を醸している

「テレビのロケ未訪問の店」を探すロケ
「テレビのロケ未訪問の店」を探すロケ写真:イメージマート

 人気番組「水曜日のダウンタウン」(TBS)で1月24日に放送された企画の内容が、SNS上などで波紋を広げている。この番組ではプレゼンターと呼ばれるタレントが、とある「説」をプレゼンテーションし、それを検証するという企画が人気になっており、この日の「説」は「テレビのロケが一度も来たことのない店 東京23区内にも探せばそこそこある説」というものだった。

 企画の内容は、3組に分かれたタレントたちが抽選で決められた新宿区、大田区、荒川区に赴いて「テレビのロケが一度も来たことのない店」を探すというもの。具体的には外観などからテレビが来ていないと思われる店に入り、テレビのロケが来たことのない店の場合は正解。ロケが来ていた場合は不正解なので「ドボン飯」として、その店のオススメメニューを平らげる。4連続正解したらロケ終了となるが、不正解の場合はリセットされてまた4連続で正解しなければロケが終わらないという企画だ。

「テレビのロケ未訪問の店」を探す企画

 タレントたちは店の外観などで「テレビのロケ未訪問の店」を探さなければならない。バラエティ番組である以上、店の前で雰囲気などを面白く語らなければならないが、「(外観の)特徴のない感じと茶色くて煤けてる感じがテレビの取材が入っているとは思えない」「テレビ向きじゃない」「テレビ映えしない」「取材しようと思わない」などと、タレントたちの話す内容は店に対して失礼な物言いとなっていた。

 さらにその店が「テレビのロケ未訪問の店」で正解だった場合、ロケに手間を取らせているにも関わらずその店を紹介することも料理を食べることもなく店を出る。一方「ロケに来たことのある店」で正解だった場合は、その店のメニューを罰ゲーム的に食べるという演出になっていた。飲食店に対してのタレント振る舞いや番組の構成が、あまりにもリスペクトに欠けているとSNSなどで批判されているのだ。

タレントの振る舞いよりも問題にすべき点

飲食店へのリスペクトはあったのか
飲食店へのリスペクトはあったのか写真:イメージマート

 しかしながら、出演しているタレントの振る舞いそのものについて批判するのはいささか見当違いだ。テレビで紹介していない飲食店を探すという企画の性格上、その外観などを「イジる」のはバラエティにおけるタレントの役割として当然のこと。また罰ゲーム的に料理を食べる演出も、決して品があるとは言い難いがバラエティとしては十分あり得るだろう。問題にすべきは番組制作側の企画に対するそもそものスタンスだ。

 「テレビのロケが一度も来たことのない店」を探すという企画自体は決して新しいものではない。いわゆる「穴場店」や「地域密着店」をテレビで初紹介するという企画、これまでに何度となく放送されてきた。しかしこれらの店へのアプローチはポジティヴであり、「こんな良い店が今まで知られていなかった」というスタンスで紹介されることがほとんどだ。

番組制作側の飲食店へのスタンスが問題

 しかし今回の場合は「こんな店には取材は来ないだろう」という、テレビに登場したことのない飲食店に対するネガティヴなアプローチが前提にあった。この状況下においてはタレントの振る舞いはもちろん、番組演出のトーンも必然的に飲食店をバカにしたような形にならざるを得ない。番組制作側は最初のスタンスで間違ってしまったのだ。

 もし番組制作側に飲食店に対するリスペクトがあり、「テレビのロケが一度も来たことのない店」をポジティヴに捉えていたのなら、「どのテレビも紹介していない穴場店を探す」というポジティヴなスタンスで演出が行われただろうし、同じようなゲーム性のある企画だったとしても、正解した場合はタレントに食べさせて料理の感想を言わせたり、その店の詳細な情報やおすすめメニューなどを紹介しただろう。スタンス一つで同じ企画でも印象は一変するものだ。

飲食店にとってあまりにも残酷な仕打ち

 もちろん、飲食店側も今回の企画内容を理解した上で取材に応じてはいるのだろう。しかし、貴重な営業時間の手を休めて取材に協力した飲食店の人たちの気持ちも考えてみてほしい。今までテレビの取材が一度も来たことのなかった飲食店の人たちは、タレントやカメラが来てさぞ嬉しかったことだろう。それなのに、やっとテレビが来てくれたと思ったら、店名も紹介してくれないし料理も食べてくれない。ただイジるだけイジって嵐のように去っていく。こんな残酷な仕打ちがあるだろうか。

 飲食店に限らずテレビとは関係のない一般人を、リスペクトの無い状態で笑いのタネにしてはいけない。今回の番組制作側には飲食店の方達に対してのリスペクトや思いやりが欠けていた。嫌な思いをされた飲食店は、今後二度とテレビには協力してくれなくなるだろう。そんな中で、今回のロケをしたお笑いコンビ『トム・ブラウン』のみちおさんが、後日その飲食店に足を運んだ様子をSNSにアップしていたことが唯一の救いだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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