日銀の姿勢に変化、異常な金融政策からの脱却への一歩か
政府は1日、日本銀行の審議委員に岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏を充てる国会同意人事案を衆参両院に提示した。任期は5年。昨年10月に発足した岸田文雄政権が行う初の日銀政策委員会人事となる(1日付ブルームバーグ)。
ある意味、注目の人事案が提示された。今年7月23日に片岡剛士審議委員と鈴木人司審議委員が任期満了となる。特にリフレ派の片岡審議委員の後任の人事案が注目されていた。
日銀の金融政策を決める政策委員は、総裁1人、副総裁2人、審議委員6人で構成される。このうち若田部副総裁、片岡審議委員、安達審議委員、野口審議委員はいずれもリフレ派である。
安倍元首相が提唱していたアベノミクスと呼ばれた政策にはこのリフレ派が大きくかかわっていた。菅政権時代を含めて、リフレ派と呼ばれる人達が内閣官房参与となるなどしていた。リフレ派の意向が日銀の審議委員人事などにも影響を与えていた。
日銀の異次元政策の背景にもリフレ派が大きく影響した。これは政府と日銀のアコードと呼ばれたものや、2%の物価目標そのものにも絡んでいた。
黒田総裁もリフレ派ではないとしても、2%の物価を達成するための緩和策に理解を示しており、リフレ的な考え方を持っているといえた。
このため数の上では黒田総裁を含めるとリフレ的な考え方を持つ委員が5人と過半数を占めていることになる。その優位性が維持されるのかが注目されていたのである。
リフレ的な政策により日銀は金融政策の柔軟性を失ってしまった。結果として緩和強化としてマイナス金利政策やイールドカーブコントロールまでも導入した。MMTを含めてリフレ派の考え方と本来の日銀の考え方には隔たりがあったはずである。
その軌道修正の可能性がこの人事案からみえてきた。関係者によると、今回の人選に当たっては岸田首相が候補者リストをもとに自ら決めたとみられる。それ以前に、日銀や財務省での人事案にはそもそもリフレ派は含まれていなかった可能性もありうる。
日銀は2%の物価目標を掲げているが、この目標値を日本の本来の実勢値のゼロ%近傍にいずれ抑える必要もあるとみている。
しかし、その前にチャンスも見えてきた。今年4月以降は目標としている消費者物価指数(除く生鮮)が2%を超えてくる可能性が出てきたのである。
リフレ的な政策から本来の日銀の金融政策に戻すことで、政策の柔軟性を取り戻すこと、これがいまの日銀に必要なものと思われる。実際にはそれには時間が掛かるかもしれない。しかし、その貴重な一歩が今回の人事案に見えてきたように思われるのである。