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皇室初 両陛下の「令和流」新年ビデオメッセージ 意味するものとは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
(写真:ロイター/アフロ)

■皇室初となった、両陛下の新年ビデオメッセージ

 令和3年1月1日午前5時半、新年に際して天皇皇后両陛下のビデオメッセージが出されたが、これは皇室において初めてのことだった。

 映像では、両陛下がお二人で並び、国民に語り掛けるようにお言葉を述べられた。天皇陛下に続いて「おめでとうございます」と述べられた皇后・雅子さまの表情は、穏やかな優しさがあふれていたように思う。陛下のお言葉に共感されるように、雅子さまは時折、頷きながら微笑んでいらっしゃった。

 今回の新年ビデオメッセージは、これまでにない試みであり、まさに「令和流」と呼べるのではないだろうか。

宮内庁HP「新年ビデオメッセージ」(令和3年1月1日)

■天皇陛下のビデオメッセージが意味するものは

 そもそも、どのような時に天皇陛下からビデオメッセージが出されるのだろうか。

 1945年8月15日に流れた昭和天皇の玉音放送は、映像はなく音声のみであったが、メディアを通して国民に天皇陛下の考えを伝えた、歴史的かつ画期的な出来事であった。

 平成では、2011年3月11日の東日本大震災が発生してから5日後、当時天皇陛下だった上皇さまがビデオメッセージを公開し、不安に押しつぶされそうになった人々に大きな勇気を与えてくださった。その後、上皇さまは2016年8月8日、ビデオメッセージという形で自らのお気持ちを表明され、国民の理解のもと、約200年ぶりとなる生前退位へと繋がっていった。

 そして令和の時代。新年に際して両陛下はビデオメッセージを通して、コロナ禍にある国民に向けて誠実な思いを述べられた。

 天皇陛下が国民に寄せる思いは、いつの時代も共通している。今回、大きく違うのは、隣に皇后陛下が同席されたことだった。そこには、両陛下がお二人で力を合わせ、令和の皇室を築いていこうとされている決意が表れていたように思う。

■陛下と雅子さまの「令和流」

 これまでと違う新しい皇室を感じ取れることが、他にもある。それは両陛下がさりげなくお召し物の色合わせをされていた点だ。新年ビデオメッセージでは、陛下のネクタイと雅子さまのジャケットを、柔らかなベージュで色を合わせていらっしゃった。

 普段から公務などに出席する際、陛下のネクタイと雅子さまの洋服を、同じ色で合わせていらっしゃることが多い。例えば、「全国植樹祭」では、樹木の緑にちなんだグリーン。「全国豊かな海づくり大会」では、美しく澄んだ海をイメージした水色を選ばれるなど、その場に合わせた色にされている。

 おそらく両陛下が事前にどんな色にしようかお二人で相談し、決めていらっしゃるのだろうと想像できる。両陛下が洋服の色を合わせられることは、平成や昭和の時代にはないことであった。

 SNSなどが広まった令和は、いかに分かりやすく一目で伝えるかが求められる。時代に即した皇室という視点から考えても、洋服の色合わせは一つ一つの公務に心を込めて務められていることが一目瞭然であると言えるのではないだろうか。

■国民に語りかける

 今回のビデオメッセージで驚いたのは、両陛下ともに手元の原稿を見ることなく、ビデオメッセージの約6分45秒の間、ずっとカメラに向かって語りかけられたことだ。

 これまで皇室の方々はお誕生日記者会見などで、原稿を確認しながら話されることもあったのだが、今回は一度も原稿をご覧になっている場面がなかった。

 また、陛下も雅子さまも、国民に語りかけるように「皆さん」「皆様」という表現を何度も用いていらっしゃった。

 そして新年ビデオメッセージを通じて、両陛下が意図されていたのは、皇室と国民はひとつであるというお気持ちだったのではないだろうか。コロナ禍で行動が制限され、会いたい人とも会えない閉塞感の中で迎えた新年、多くの国民の心を解きほぐして、一緒に困難な時を乗り越えて行こうという思いを共有したお正月だった。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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