”いずも”型護衛艦は空母?
新年早々、朝日新聞がこんな記事を載せています。
”いずも”型護衛艦は、艦首から艦尾に至る長大な飛行甲板を持っており、この事をして見た目が空母と同じだから空母と言いたいようです。
しかし、全通甲板を持つ事で空母(あるいは軽空母)である、またはその能力を持つという主張は、90年代に”おおすみ”型輸送艦が建造された際に加え、”いずも”型護衛艦の姉妹艦に相当する”ひゅうが”型護衛艦が計画されていた時も、朝日新聞は繰り返し報道しております。20年近くも同じネタを繰り返すのは、売れない芸人を見ているのに似て、憐憫の情が湧かなくもないですが、一体何回繰り返すつもりなんでしょうか。
また、こうも書いています。
まず、70年前の兵器と現代の兵器の分類を同列に語る時点でどうかしていると思います。自衛隊の90式戦車は50トンの重量がありますが、90式戦車より軽い大戦中のパーシング(アメリカ)、KV-1(ソ連)のように重戦車と呼ぶ事はありません。もっと身近に例えれば、現代のスマートフォンは、昔のスーパーコンピュータ以上の処理能力がありますが、スマートフォンをスーパーコンピュータと呼ぶ人はいないのと同じ事です。
まあ、こんな茶々は置いときましょう。ところが、朝日新聞では、”軍事ジャーナリスト”という肩書の方のコメントを引っ張ってきて、空母であると言いたいようです。
世界標準で空母ですか、なるほど。
では、ここで朝日新聞と”軍事ジャーナリスト”氏の疑義の通りに、世界では”いずも”型に類する艦艇は、「空母」と呼ばれるのでしょうか? 近年、世界各国で配備が進んでいる似たような全通甲板を持つ艦艇が、各国でどのような呼称がされているのかを一覧にまとめました。
上の表をご覧頂ければ分かると思いますが、いずれも全通甲板を持ち、高い輸送能力を持つ艦艇ですが、各国とも「強襲揚陸艦」、「ヘリコプター揚陸艦」、「戦略投射艦」、「戦力投射艦」等、様々な呼称を用いており、海上自衛隊の「ヘリコプター搭載護衛艦」が際立っておかしい呼称・艦種でないことが分かると思います。何が「世界標準」なんでしょうかね?
このような様々な種別を用いる背景としては、各国の軍事思想や、国際環境の変化が挙げられます。例えば、フランスのミストラル級は、戦争任務に加え、災害救援、人道支援と言った「戦争以外の軍事作戦(MOOTW:Military Operations Other Than War)」にも使用できる多目的艦としての性格を持たせており、全通甲板と航空機積むだけで空母とするような単純な考えで建造されたものではありません。これは、海上自衛隊の”おおすみ”型、”ひゅうが”型、”いずも”型も同じで、実際に護衛艦”ひゅうが”は東日本大震災では洋上基地として、災害救助に活躍しました。
そもそも、技術も軍事思想も大きく進歩した現代において、70年前の第二次大戦水準でモノを語る必要性はありません。そもそも、第二次大戦時に実用的ヘリコプターの実戦投入はされていないため、ヘリコプター揚陸艦や強襲揚陸艦と言った艦種は存在していませんでした。そして、第二次大戦後に余剰となった空母をヘリコプターを運用できるよう改造したのが、今日の強襲揚陸艦の始まりでした。
さらに言うなら、70年前の軍事思想ですら「飛行甲板を持つ艦艇=空母」という図式は成り立っていません。先の一覧表にも載せましたが、第二次大戦中に日本陸軍が運用した揚陸艦”あきつ丸”は、揚陸艦でありながら、上陸部隊を航空機で支援するために全通甲板と航空機搭載能力を備えた、今日の強襲揚陸艦の先駆け的存在でした。
いずれも各国の呼称、そして戦前の日本陸軍の呼称も、実態としては外れているものではありません。むしろ、ヘタに揚陸艦を「空母」と呼ばない分、実態に即していると言えます。実態を反映しない名称を追いかける事に、イチャモン以上の意味は見い出せないでしょう。
※この記事は、dragoner.ねっと「護衛艦いずもが空母だって? ご冗談を」のYahoo!ニュース向け配信版になります。